朝月夜に散る蜉蝣―狂気―
幕間:朝月夜に散る蜉蝣-狂気-
――深層と真相。
ギイ、と床が軋む。
床の音、漏れる水、伝う血、早鐘の心臓が不協和音を奏でている。
横たわる母、無惨な姿の父、たたずむ青年笑う――私。
私がいた。
傍らの青年は笑っていた。
私はは眉を顰めたつもりだった。だけど私も笑っていた。
ふと、青年が呟いた。
「……愛さん。もう宜しいですか?」
――なに?
そう呟こうとして、口が強張る。ふと前方を眼を向けると、そこには母と父が転がっていた。生前は、ちゃんと人の姿をした、母と父が。
――お母さん……お父さん!
「……ええ。……ねぇ月夜。なんで、あっさりお父さんを殺してしまったの?どっちかと言うと私はお父さんともう少し話をして居たかったのに。こんなひとより」
何て、無様な姿…と。そう母を嘲ったのは私だった。そして不貞腐れた調子で文句を言ったのも、私だった。身体が震えているのに、動けない。本能が拒否している。嗚呼、私は私じゃないんだとそう認識するまで私は数分を要した。私は、ゆっくりと笑みを深める。
青年は笑っていた。どんな笑みか知れない。それでも笑っていることは分かった。
私は辺りを鳥瞰するかのように、客観的に。まるで此処に居ない幽霊の視線で眺めていた。
現実世界にいる私は、血だらけになった青年の頬を拭う。
「……単なる嫉妬ですよ。大体、僕の顔と似ている人がいるなんて気持ちが悪いじゃないですか。
――ね、そうでしょう愛さん?」
念押しするかのように彼は言った。
まるで、次の言葉を希望するかのように。
「……愛」
恍惚、それは支配の行き先。
それを、もう少女は知っていた。
『――私は愛よ!』
――いいえ?
――わたしは「あい」。
――「まな」はもういないの。
――さよなら。
強烈な意思が私は身体中が爆発する。
欲望と混沌が私の中に駆け巡り、私の意識はかき乱された。
生きたいという欲望がかすかに光り、私はついに深い眠りについた。
愛に潜む狂気、愛に潜む狂喜。
愛の深層に潜む愛の真相。