藤和動乱 弐
ブログに小説を載せにくいですねえ。ちょっとハーメルンも検討しないとまずい状態になってきました。
「ならば、昌幸に三千の兵を預けます。雪代に出没する盗賊の報告は広範囲に渡っており、かなり大規模な盗賊団だと考えられます、十分に注意を」
雪奈が手に取った報告書から視線を上げ、昌幸殿を見る。
「承りまして御座います」
そう言って頭を下げる昌幸殿、一つ頷き雪奈が続ける。
「それと、有朋。国境の現状を報告してもらえますか」
雪奈の言葉に有朋殿が部屋の中央にやってくる。
今この部屋は部屋の最奥に雪奈と風嶺。
そして部屋の両端に家臣団が並ぶようになっているので、中央にやってきた有朋殿はちょうど雪奈と向かい合うようになっている。
「対武条家連合の条約により、西の蓮鵬以外は問題無いのですが…………その蓮鵬が合戦の準備をしているとの報告があります」
「…………そう、蓮鵬が、ですか」
藤和の西側に隣接する国、それが蓮鵬だ。治めているのは水城家。
謀略国家と周辺諸国に恐れられている。名の通り、知略でなく謀略を駆使して来る。
実際、蓮鵬のさらに隣接する二国を裏切りと暗殺によって内側よりボロボロに切り崩して、両国を奪い取った実績もある。現在では三国を治める大勢力だ。
「詳細は後に報告書を出させてもらいますが、さらに大きな問題が……」
「さらに大きな問題?」
「…………楢狗が動き出しました」
「「「「「!!!」」」」」
有朋殿の放った一言で、部屋にいる人間全員の間に緊張が走った。
楢狗。藤和より遥か南に位置する国。治めているのは武条家。
対武条家連合の名の通り、武条家はその周辺諸国15国が同盟を組まなければならないほど強大な力を持つ。
その勢力、延べ14国。日和の二割を支配下に置く最大勢力だ。
楢狗は武条家の直轄支配化にある国。そこが動き出したと言うことは。
「武条家が…………本格的に動く、そういうことですか」
雪奈の呟きが沈黙した部屋に響く。心なしか全員顔が蒼い。
「いえ、どうやら本腰を入れて臥郷と合戦を始めるようです」
さて、この日和では二国支配すれば大勢力と言われるが、たった一国の支配にも関わらず大勢力と呼ばれる国がある。
それが臥郷。治めるのは紅月家。南の炎帝と呼ばれる男が治める、超実力主義の軍事国家だ。
その性質は苛烈の一言に尽きる。将から兵に一端にいたるまで喜々として合戦を起こす狂気的な国家だ。
この臥郷が大勢力と呼ばれる理由は一つ。
武条家の支配する領地より南には臥郷一国しか無い。つまり、南側の海を除けば、全方位を敵に囲まれていながら、武条家との戦争から数年経つ今でも押されることすらなく戦局を保っているからだ。
いくら連合が武条家を抑えていると言っても、実質十倍近い兵力差の戦場で、三年以上劣勢に落ちることすら無く戦い続けている。
俺から言わせて貰えば、上から下まで戦争狂の揃った国だ。
当主の気質が末端の兵士にまで感染したとしか思えない…………だから皆臥郷を狂気の国家と呼ぶ。
「そうですか…………ですが、影響がそれだけで収まるとは思えませんね」
雪奈の言葉に有朋殿が頷き、肯定する。
「対武条家連合から敵が背を見せているこの隙をついて武条家を一息に攻めてしまおうと言う風潮があります」
「そうですか…………近日中に何がしかの文が来るかもしれませんね」
けれど今はまだ手は出すべきではない。流れを読みきらねば、破滅するのはこちら。それを雪奈は理解しているからこそここで具体的なことは何も言わない。
「最後の報告です」
そしてさきほどの報告に衝撃を受けていた人々の思考の隙をついて、有朋殿が告げた。
「蓮鵬水城家と楢狗武条家が同盟を動きを見せています」
それは、間違い無く。
先の報告を越える衝撃を持って。
この部屋を揺り動かした。
「解散」
その一言を持って、今日の召集は終わりを告げる。
けれど俺と俺の隣にいる奏詩、そして最奥の二人は動かない。
出て行く間際に俺を睨む一人の男を横目で見ながら最後の一人が出て行くと障子がビシャリと閉められる。
「…………さて、斎殿。どう思われましたか?」
萬処。それが俺、榊木斎と榊木奏詩の役職だ。雑用から代行まで何でもやる…………否、なんでもやれる、それが俺たちに課せられた任だ。つまり、俺たちは命じられれば何でもやらなければならない。
それと同時に、こうして当主の相談役のようなものを請け負ったりもする。
まだ二十にもならない子供二人、しかも最近入ったばかりの新参者がこの役職に就けているのには色々面倒な理由があるのだが、それは今考えるべきことではないだろう。
「鷹と蛇が協力を始めたようですね…………問題は楢狗です」
これまで互いの獲物が違っていた鷹と蛇が、初めて同じ方向に目をつけた。
武条家は藤和の南に隣接する国、樹峡。そして水城が…………我らが国、藤和。
そして一連の動きの最大の焦点が。
「楢狗?」
雪奈の言葉に頷く。
「楢狗、と言うより武条家当主がどの戦場に現れるか。臥郷ならそれでも良し、けれど万一樹峡に現れれば、半月も経たず樹峡は落ちるでしょう。水城家の狙いが藤和なのは言うまでも無いでしょうし、そうなれば水城家と武条家の挟撃に合うことになります」
「水城家が藤和以外狙う可能性は?」
「ほぼ皆無です」
以前から水城家は霧ケ峰家に謀略を駆使して迫ってきたことがある。その時は徹底的に叩きのめして追い返したが、それ以来パタリと音沙汰が無い。だがやつは諦めていないだろう。
「水城家より西には刳條の国を始めとした、いわゆる未開拓地域…………正直攻め落としても損しかないような地域ばかりです。南進はもっとあり得ない。いくら水城家でも神帝領に進出すればどうなるか、分からないほどバカでは無いでしょう。となれば、水城家としてはどうしても東へ進みたいはず。となると方向性は二つしかありません…………東南銀呉の国か、東の藤和の国」
ここまでは問題無いかと顔を上げれば、問題無いと雪奈が頷く。
「けれど、実を言えば銀呉はもう半分以上水城家の手中に落ちていると言っても過言ではありません」
「「なっ!!!?」」
この情報は知らなかったらしい二人が驚く。
「つい二月前ほどに、銀呉を治める陶兼家で内々に婚姻の儀があったそうです…………輿入れしたのは陶兼の三の姫君。相手は水城の次男」
「…………つまり」
「ええ」
雪奈の確認するような声に、俺は確信を持って頷く。
「陶兼家はすでに水城家と親戚状態…………つまりは」
通常の親戚なら共に協力して戦うのだろうが…………あの毒蛇だけは違う。
「これから陶兼家は一人残らず殺されます。暗殺によって、ね」
陶兼家を落とすのに戦争準備など必要無い。必要なのは殺し屋を雇う金だけ。
「にも関わらず戦争準備を進めているのならば」
その矛先は、藤和に他ならない。そして、それは同時にあることを示唆している。
「お気をつけください雪奈様…………あの毒蛇が動いたということは」
そこに勝算がある。戦う前から勝っていなければあの毒蛇は動かない。つまり、戦争するからには絶対に勝てると踏んでいる。
「誰かが裏切っていても、ある日突然殺されても…………もうおかしくはありません」
俺の言葉に、雪奈がこくりと頷いた。
地図ペイントでささっと一時間で書いたんですけど、どうやって載せるんでしょうねえ?
地図みないと、多分地理関係は難しいでしょうしねえ。
今回の話は特にたくさん国の名前出てきましたしね。
ただ、当面の間「臥郷」と「楢狗」は名前以外は登場しませんけどね。