早朝
第一章、スタートです。
一人ぼっちの神がいた。
彼は寂しさを紛らわす為、命を持った人形を創った。
人形は彼の思い通りに動き、彼の為に働いた。
一つだけでは寂しいので、沢山創る事にした。
人形は創られ続ける。
今日もまた人形は増えてゆく……
レイ・ヴェナブルズが目を覚ました時、太陽はまだ雲の中だった。
折角早く起きたのだから、ここは一つ贅沢に朝食は街で摂ろうと思い立ち、レイは急ぎ足で着替えを済ませる。濃紺色の学生服は着用が義務付けられている訳ではないが、大した服も持っていない為レイは殆どこの格好だ。
外出の準備を整えて鏡の前に立つと、アメジスト色の瞳がこちらを見つめて来た。
茶色の長髪は後ろで束ねられ、俗に言うポニーテールの形になっている。自分でもあまり男らしくはないと思う女性的な容姿だが、変えたいと思って変えられるものでもない。
「そろそろ髪も切りたいな……」
部屋を出る前に今一度、所持金の確認をする。
「うん、十分余裕はあるか」
ただ、床屋にも行くとなると少々苦しいため、髪はいつも通り自分で切る事にした。
レイが倒れてから数日、いつもより早く目が覚めた彼はフェルヘイズの城下町に足を運んでいた。
ここには行きつけの飲食店があり、名を『カルド・カローレ』という。財布に優しく、店内の雰囲気も良好。なおかつ早朝から営業しているため、このように早く目が覚めた時などによく利用していた。
レイはこの街の住民には既に顔が知れており、すれ違う者一人一人と会釈を交わしながら目的の店へと向かう。
彼が店に入ると、横からそれを呼び止める者がいた。
「レイ先輩、おはようございます」
振り向くが、レイの視界の先には誰もいなかった。
「こっちですよ」
見下ろすと、レイと同じ制服を着た小さき者が一人、扉側の席に座っていた。
「ああセシリアか、悪い悪い」
小さくて見えなかった、という言葉は胸に仕舞っておく。
「相席でいいかな?」
「はい、どうぞ」
セシリア・マクスウェル……それが彼女の名だ。この春、国立学校治安維持部に入部した新一年生である。
年齢に比べると小柄な体型をしており、脆く儚い印象を抱かせる。スミレ色の瞳と、インディゴブルーのセミロングヘアがそれを更に引き立てていた。
ウェイトレスに料理を注文したレイはセシリアの向かい側の席に座った。
朝食を済ませても尚、時間を持て余していた二人は世間話をする事で時間を潰していた。
「この店にはいつも?」
「はい、朝に時間がある時は」
「そうなんだ、俺と同じだな」
やはりこんな時間から外食をする者も珍しく、店内にはレイとセシリアの他に殆ど客はいなかった。だが、朝食を摂るにはこの位の静寂が心地よかった。
「そろそろ行く?」
「あ、ちょっと待って下さい」
セシリアは薬を二錠取り出すと、それを水で嚥下した。
「薬? 風邪でも引いたの?」
「はい、そんなところです」
そう答えるとセシリアは態とらしく咳き込んで見せた。
「そうか、お大事にな」
まだ時間に余裕はあるが、この場に留まる理由もないため二人は学校へ向かう事にした。
「折角ですから、ちょっと回り道して行きませんか?」
「回り道?」
「空気の綺麗な、いい道があるんです」
レイは少し考えたが、すぐにその提案を承諾する。
「まあ、たまにはそういうのもいいか」
「じゃあ早速行きましょう」
二人とも店を出る準備は出来ており、後は会計のみだ。
「支払いは俺が済ませておくよ」
「良いんですか?」
懐は寂しいが、せっかく出来た後輩の前だ。少しはいい格好を見せたい。それに、今日はついでに買うものもあった。
レジではこの店の女店主が出迎える。そこまで年を取っているようには見えないのだが、いかにも“食堂のおばちゃん”然とした雰囲気を醸し出している。
「ああ、おば……じゃなかった店長、そこのお菓子もお願いします。」
「はいまいどあり、それと次におばちゃんとか言ったらぶち殺すからね」
女店主の周りには鋭い殺気が漂い始める。あくまでも噂だが、この女店主はかつて凄腕の賞金稼ぎだったそうだ。ぶち殺すという言葉も全く冗談に聞こえない。
「い、言いません、言いませんから! 絶対に!」
朝から身の危険を感じたレイだが、それでもいつも通り日は昇り、それぞれの一日が始まって行く。