部長
今回も会話パート中心になります。
火の国、フェルヘイズ。
この大陸に於いて四大国と呼ばれる国の一つである。この大陸では百年以上戦争は起こっていないが、大陸一の軍事力を保有している。
そこに、レイは暮らしていた。
レイが通っているのは、大陸最大級の規模と謳われるフェルヘイズ国立学校の高等部。
一般教育は元より、戦闘訓練、魔術、工業学科や商業学科ど、自分に合った授業を選択して受けられる為、国外からの入学者も多い。
卒業生全員がフェルヘイズ軍へ入隊する権利が与えられているが、そのまま騎士を目指す者、自分の店を開きたい者、はたまた冒険者となり名を馳せる事を夢見る者など、その志は様々だ。
>勿論、偶々地元だったから入学したという者もいる。彼、レイ・ヴェナブルズもその一人だ。
現在レイが立っているのは女子寮の“ベルリッツ・ノヴァ”と書かれた扉の前。
学校によっては男子生徒が女子寮に足を踏み入れる事を良しとしない所もあるが、その点ではこの学校は随分と開けている。
そして、ベルリッツ・ノヴァとは何を隠そうレイ達、治安維持部の部長である。
「部長、いますか?」
レイはノックしながら尋ねるが返答がない。が、鍵は空いていた。
彼女は恐らく室内にいるのだろう。返事が無い理由に関しては、レイには凡その心当たりがあった。
「……部長、入りますよ?」
念の為一声掛けてから扉を開けると、中では、ラフな部屋着に身を包んだ金髪の女性が、何かを夢中で頬張っていた。この女性こそが部長、つまりはベルリッツ・ノヴァだ。
「味は勿論の事、歯ごたえもまた……美味しいわね、このお菓子」
「部長、いるならいるって言って下さいよ」
「どこの店で買ったのかしら、忘れちゃった」
「部長?」
ベルリッツはいささか遅い午後のティータイムに夢中でレイに気づく気配は全くない。
彼女の緑色の瞳には、最早お菓子しか映っていなかった。
そこでレイは彼女の注意を引くため、ある手段に出た。
「……部長、差し入れ持って来ました」
「なんですって!?」
これにはベルリッツも見事に食らいつく。流石、夕食前にお菓子を食べるだけある。
「すみません、嘘です」
「レイ君!? いたのね、ごめんなさい」
ベルリッツは本当に気が付いていなかったようで、驚愕のあまりお菓子を取り溢していた。
「さっきからいましたよ」
「レディの部屋に勝手に入るのは感心しないわね」
一応、レイはきちんと断ってから入ったのだが、ベルリッツから承諾を得た訳でもないのでそこはあえて触れないでおく。
「それで、何の用かしら」
「ああ、実は今日また倒れまして……明日もゆっくり休みたいので、部活を欠席したいんですが。」
「そうね……明日は特にやる事もないし、いいわよ」
「すみません」
ベルリッツ・ノヴァ、本校の三年生であり治安維持部の部長でもある。
たまにお菓子を食べている。
どこで仕入れたのか大量の銃火器を所持しており、部室にもいくつか置いてある。
それと、よくお菓子を食べている。
明朗快活な性格だが少々破天荒で、彼女の思いつきから始まる突拍子もない行動は、時折部員たちの頭を悩ませる。
そして、今もお菓子を食べている。
「それじゃレイ君、お大事にね」
ベルリッツが微笑むと、長い金髪とお菓子の食べカスが夕日を受けて輝いた。
「じゃあ、失礼します」
「あ、ちょっと待って」
部屋を去ろうとしたレイをベルリッツが止める。
「何かいいお菓子持ってないかしら?」
「あいにく俺、そういうのは持ち歩いてなくて……すみません」
「そう、残念だわ」
ベルリッツは心底残念そうに肩を落とすが、そもそも持ち歩かないのが普通ではないだろうか。とレイは思う。
「……わかりました、また今度何か買って来ますよ」
「期待してるわ」
その立ち振る舞いだけなら、大人びているように見える。が、片手のお菓子がそれを台無しにしていた。
これが校内の治安を守っているというのだから世の中はまこと度し難い。そうこうしている内にも、太陽は西に傾き始めていた。
「じゃあ、俺はこれで」
「ええ、またね」
レイは今度こそベルリッツの部屋を去って行くのだった。
部長は攻略対象ではないのであしからず。
ヒロインはイスルギさんただ一人です。




