ミレーナ・デュラン
文化祭前日……レイ達のクラス、22HRは当日の出し物などは特になく、前日の飾り付けなどが主な役回りだった。
「これで終わりですね」
顔の半分を包帯で覆った女子生徒が、同じように教室の飾り付けを終えたレイに向き直った。
「部活展の準備でお忙しい中、手伝わせてしまい申し訳ありません」
「いいよデュランさん、そんなのみんな一緒なんだし」
彼女の名はミレーナ・デュラン。出身地は風の国らしい。本校の生徒会副会長であり、生徒達の間では次期会長との噂も囁かれている。
レイが今日、こうして飾り付けの手伝いをしているのには理由がある。
前述したようにレイ達のクラスは前日の飾り付けが主な役割なのだが、一つだけ大きな問題があった。
それは、このクラスで部活に所属していない生徒がミレーナしかいないという事だった。
前日ともなるとどの部もリハーサルで大忙しだ。担任のゼプターもそこまでは把握していなかったらしく、急遽クラスから一人彼女の協力者を募る事になったため、レイが名乗り出たという訳だ。
「でも、ヴェナブルズさんにはいつも手伝って貰っていますし……」
「そんなの気にしなくていいよ、俺が好きでやってる事だし」
レイが彼女を助けるのは今回が初めてではなかった。実は彼女はクラスの級長も兼任しており、その仕事が生徒会の仕事と重なってしまった時などは、席が近いレイが手伝う事もあったのだ。
「そう言えば、ヴェナブルズさんは治安維持部……でしたよね?」
「ああ、そうだよ」
「あなた方の活動のお陰で校内の風紀は安定しています。生徒会を代表してお礼申し上げます」
「は、はあ……」
レイは今まで治安維持部として活動する中で、このように面と向かって感謝された事はなかった為、少しだけ戸惑いを覚えたが、ここは純粋な厚意として受け取っておく。
「どういたしまして、また機会があれば部長にも言ってあげて欲しいな。尤も、あの人のお陰で逆に風紀を乱してるんじゃないかと心配だったけど」
「いえ、決してその様な事は……」
彼女との会話はいつもこんな調子だ。
レイは彼女の前に出るとどうしても物腰が低くなってしまい、彼女もそれに合わせて物腰を低くするものだから、この様にお互い譲り合うような会話になってしまうのだった。
「それと、最近21ホームのイスルギ・クオンさんが出入りしていると聞いたのですが……」
「そうだけど、クオンが何か?」
「出来れば彼女に伝えて頂きたいんです。このままだと出席日数が足りなくなって留年になる、と」
「あ、そんなところまで把握してるのか。わかった、必ず伝えておくよ」
自分の知り合い……それもクオンが留年してしまうのは忍びない。
「なんでも、ギルドも頻繁に利用しているそうじゃないですか。もっとこう……学生らしい行動を心がけて欲しいものです」
「あれ、デュランさんは行かないんだ?」
「学生の本分はあくまで勉強……いえ、学習ですから。そう言うヴェナブルズさんは行くんですか?」
「……まあ、小遣い稼ぎ程度には……?」
まさか彼女の前で『ヒドゥンマスに目を付けられました』などとは言えない。なぜ勉強を学習と言い直したかはレイには分からなかったが、相当に生真面目な人物だと思う。
生真面目過ぎるのも考え物だと思わされる時もあるが。
「っと、こんな時間か、主役がサボってちゃ悪いからな」
「あ……引き留めてしまってすみません」
「大丈夫だよ、ところで、『学生らしい行動を心がけろ』ってのもクオンにも言っておこうか?」
「あ、決してそんなつもりでは……ただあれは私個人の気持ちというか……」
面食らったような顔をするミレーナを見て、レイは“やはり生真面目な人だ”と密かに苦笑した。
「冗談だよ。でも、クオンには留年して欲しくないからその趣旨の事は言っておくよ」
「その……随分と仲がよろしいようですが?」
ミレーナが訝しむのも無理はない。ほぼ不登校のクオンと治安維持部のレイの二人は普通なら全く結びつかないだろう。
「幼馴染なんだ、結構長い付き合いになる」
「幼馴染……だったんですか?」
ミレーナは心底驚いた様子だった。おかしな所で驚く人だ、とレイは思ったが、別段気にする事でもなかった。
「またクオンがらみで何かあったら俺に言ってよ。きっと、知らない人の言う事は聞かないと思うから……それじゃ俺はこれで」
「はい、また」
ミレーナに別れを告げたレイは、どのようにしてクオンを納得させようか思案しながら教室を去って行った。
「イスルギ・クオン……強敵になりそうですね……」
一人教室に残されたミレーナは顔の包帯に手を当て、小さな声でそう呟いた。
という訳で新キャラです。
実はもっと後に登場する予定だったのですが前倒しで出てきて貰いました。




