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デイブレイクス〜Daybreaks〜  作者: 煙の物干し竿
第三章 戦う理由、生きる理由
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廃棄された砦

 砦に入ったレイはまずその内装に違和感を感じた。外から見た時はただの古びた砦にしか見えなかったが、いざ入ってみると廃棄が決定し放置されていたとは思えない程に手入れが行き届いている。恐らく何者かが利用するにあたって使用に耐えうるよう補修を施したのだろう。では一体誰が、心当たりは一つしかない。


「きっとクオンもこの奥に……急がないと」


レイはここに来るまでに随分と魔力を使った。だから、倒れてしまう前にクオンの安全を確保する必要があった。


「待てよレイ!」


聞き覚えのある声に呼び止められる。フェーゴとセシリア、そしてイエーガーだ。


「フェーゴ……さっきはごめん。弱気な事言って」


レイはほんの少しだけ、ばつの悪そうな顔をする。


「その割には俺らより速えじゃねえか」


「ともかく急がねば。赤い牙が危ない」


「先輩、あの……これ使って下さい」


セシリアから瓶に入った液体を手渡される。魔力を回復する薬だ。何やらセシリアがそわそわした様子だが、気にしている暇はない。


「ああ、ありがとう」


早速レイは瓶の蓋を開け、中身を飲み干す。

が、次の瞬間、喉が焼けるような痛みに彼は咳き込んだ。


「う……なんだコレ、辛っ!」


「私は止めたんですけど……」


セシリアとイエーガーがフェーゴを横目で見る。


「さて、何の事だか。そんな事よりもう行こうぜ。途中でぶっ倒れんじゃねえぞ」






「妙だな、幾らなんでも警備が手薄だ」


イエーガーの言う通り、砦内部には警備らしい警備は見当たらず、いるのは巨大なサソリの形をした砂サソリや、二足歩行の大トカゲ、リトルバンデットといった野生の魔物ばかりだ。


「もしかして本当はヒドゥンマスなんていないんじゃ……」


「いや、それだったらクオンはすぐに帰って来るはずだよ」


クオンが寄り道をするような性格ではないというのは、レイが一番よく知っている。


「となると、やはり赤い牙はこの奥か」


ヒドゥンマスがここにいたのが午前中だとしても、何の痕跡も残さずに立ち去る事は難しい。それも、クオンがいる中で、だ。


「おい、あれ見ろ!」


フェーゴが指差した先には、一着の黒いローブが無造作に横たわっていた。丁度肩口から腰のあたりまで袈裟斬りにされている。

黒いローブと、その斬り口。どちらにも、レイは心当たりがあった。


「これは……!」


「見覚えがあるのか?」


「このローブはヒドゥンマスの団員が着ていました。それにこの傷……きっとクオンの刀でやられたものです」


「あ! あっちにもあります」


セシリアの示した方向にも同じようにローブがいくつか横たわり、そのいずれにも刃物で斬られたような傷が付いていた。

ローブは、奥に行く程増えている。


「多分、ここでクオンが戦ったんだ、行こう」






 奥へと進む一行は、そこに棲み付いた魔物から見れば住処を荒らす侵入者だ。当然ながら襲いかかって来る。


「この際出し惜しみはなしだ『降り注げ、光の剣!』」


雷の剣が立ちはだかる堕天者達に降り注ぐ。以前とは違い、出力は抑えていない為、雷は片手剣程の大きさで具現化している。


レイが撃ち漏らしたリトルバンデットが反撃に出ようとしたところに、虚ろな目のセシリアから氷の刃が放たれる。

それを受けてもなお攻撃を止めない魔物の足に、イエーガーの操る鎖が絡みついた。彼はそこから魔力を流し込み、それを受けた魔物が悶えながら地面に這い蹲る。


「闇属性魔術ですか?」


セシリアの問いにイエーガーが頷く。

敵が動きを止めた隙にフェーゴが炎を纏った踵落としを叩き込み、大トカゲの魔物は黒焦げになって息絶えた。


「どうだ、我が師直伝の技は。物は使いようだろう?」


「なるほどね」


得物の特性と魔術を組み合わせたイエーガーの妙技は、確実に彼らの助けになっていた。






「でもよ、何でローブだけ残ってんだ?」


敵の遺体が残っていない事に、フェーゴがふと素朴な疑問を漏らした。


「ああ、話さなかったかな。俺は先月、奴らと戦ったんだ。幹部にも会った」


その日は、レイがギルドを離れた日でもある。


「ローブを着た奴らは、クオンが止めを刺すと、砂みたいになって消えたんだ。きっとあいつらは人間じゃない……」


あの日レイが感じたのは未知への恐怖。常識を逸脱した光景を目にし、その時の事が今でも鮮明に蘇る。


「怖かったのか?」


「え、そりゃそうだけど……」


「違う、今日の事だ」


一拍置いてフェーゴはレイに向き直る。


「なあレイ、俺はどうだ、情けねぇが震えてるだろ? でも一緒に周りも見てみろ」


レイは言われた通りにする。

中等部からの親友、フェーゴと治療魔術に長けたセシリア、そして何よりベテランの傭兵イエーガーが付いている。一人でいる時より余程心強い。


「何とかなるって思わねぇか? 俺がお前に声をかけたのは、お前がイスルギさんの幼馴染だからってだけじゃねぇ。お前ならヒドゥンマスが相手だろうと、何とかしちまう気がしたのさ」


「いや、俺はそんな……」


買いかぶり過ぎだ、とレイが言おうとしたのをフェーゴは阻止する。


「いいか、お前はそんなヘタレじゃない。こうしてイスルギさんを助ける為に駆け付けて来た。俺だって不安だったけど、現にお前が来てくれて安心してる」


正直なところレイにはその様な自覚は全くなく、ただイーノに諭されてようやく重い腰を上げただけのつもりだった。

しかし、そんな言葉を言われるのも悪くはない、寧ろ勇気づけられた。


「……ありがとう。少しは気が楽になったかな」


フェーゴは口元に笑みを浮かべて手の甲で軽くレイの胸を突いた。


「さ、気を抜くのは全部終わってからだ。見ろ」


ローブが途切れている。その先にはこれまでで一番大きな部屋が見える。


「赤い牙は近いかもしれない、行こう」


レイ達が部屋に入ると、そこは想像よりも遥かに大きいドーム状の空間だった。

そしてその中心には……


「……最早、これまでか……」


「あれだけの数をここまで減らすとは見事だ……だが、我らに楯突いたのが運の尽きだな」


三人のヒドゥンマス団員と、黒いバンダナを巻いた巨漢……ガグロア。

そして、床に膝を突いたクオンの姿があった。






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