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デイブレイクス〜Daybreaks〜  作者: 煙の物干し竿
第一章 参上、夜明けの団
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夜明けの団

「部長、ここにいましたか」


レイが屋上に出ると、既に太陽は沈み、一番星が顔を覗かせていた。


「何だ、レイ君か……」


ベルリッツはレイを一瞥すると、また屋上の手すりにもたれ掛かってしまう。レイは何も言わずにその隣に立った。


「今日はごめんなさい。危険な目に遭わせてしまって……」


先に口を開いたのはベルリッツの方だった。


「全くですよ。あそこで死んでたら夜明けの団どころか人生の黄昏ですよ」


「そうよね。本当に、ごめんなさい……」


レイは冗談を言ったつもりだったのだが、今のベルリッツにはそれすらも通じなかったらしい。


「別に謝罪が聞きたくて追いかけて来た訳じゃないですよ。ノコノコと出て行った俺達にも責任はありますから」


レイは持ってきたお菓子の袋を開けると、それをベルリッツに向けた。


「ほら、これ」


「これは……レイ君が持って来てくれたお菓子?」


それはレイが買った『カルド・カローレ』自慢の焼き菓子だった。


「これでも食べて、またいつもの部長に戻って下さいよ」


レイはベルリッツにお菓子の袋を押し付けると、彼女と同じように手すりにもたれ掛かった。


「俺達は夜明けの団、なんでしょう? 部長がそんなんでどうするんです」


ベルリッツは暫く黙り込んだ後、焼き菓子を一つ、口に含んだ。


「リーダーの部長がそんな顔してたら、俺たちに朝なんて来ませんよ」


ベルリッツがもう一つ、焼き菓子を取り出す。


「そうよね……私がしっかりしなくちゃ」


彼女は焼き菓子を咀嚼しながら更にもう一つ取り出す。


「ありがとう。何だか気持ちが楽になったわ」


ベルリッツは袋の端を広げると、残ったお菓子を全て口に流し込んだ。






焼き菓子を食べ終える頃にはもうベルリッツは立ち直り、普段の調子を取り戻していた。


「お菓子、美味しかったわ。どこで買ったの?」


「城下町のカルド・カローレっていう店です。また今度案内しますよ」


「ありがとう、その時はよろしくね」


日は完全に落ち、空には星が瞬き始める。


「思えば、あの時一番冷静だったのは、レイ君だったのかもね」


「冷静って俺がですか? そんな事ありませんよ。俺はただのヘタレです」


「レイ君が……ヘタレ?」


意外や意外、といった様子でベルリッツは目を見開く。


「ええ、あの時行くのを渋ったのだって、自分が傷付きたくなかっただけです」


「ふーん、レイ君にそんな一面があったなんて、ちょっと意外ね」


「クオンにはとっくに知られてますよ」


彼女とは十年以上の付き合いがある。だからレイが彼女を知っている様に、彼女もレイを知っている。


「仲がいいのね、イスルギさんと」


「少なくとも俺はそのつもりですけどね。でも今や赤い牙とまで呼ばれるようになったクオンが、果たして俺の事なんか……」


レイが言った“赤い牙”という単語に、ベルリッツが片眉を吊り上げる。


「ちょ、ちょっと待って。赤い牙ってあのギルドの……」


「ええ、その赤い牙です」


「知らなかったわ。まさか赤い牙が女の子だったなんて……てっきり、ジオスみたいにムキムキの男の人かと思ってた」


今や赤い牙の名は大陸全土まで響き渡っているが、その正体を知る者は、実はそれほど多くはない。


「無理もありません。クオンにとって、赤い牙は名前ばかりが大きくなりすぎているんですよ」


クオンが口にした訳ではないが、おそらくそうなのだろうとレイは確信していた。


「だからこそ、俺が少しでも支えになってあげられたらいいんですが、こんな調子ですし」


辺りが静寂に包まれる。星々が空に川を作り始めた。


「好きなの? イスルギさんの事」


何の脈絡も無しに飛んで来たベルリッツの問いにレイは虚を突かれたような顔をするが、すぐにその問いに答える。


「好き……なんでしょうね、きっと。だだ……」


「ただ?」


レイは一呼吸……というよりは本日三回目の溜息を吐く。


「あれもあれで鈍感なもので」


肩を竦めたレイを見てベルリッツはクスり、と苦笑する。


「じゃあ、応援してるわね。二人共お似合いだと思うわ」


「そうでしょうか」


「そういう事にしておきなさい」


ベルリッツはレイの背中を軽く叩く。


「まあ、一応」


取り敢えず返答だけはしたレイは、今一度空を仰ぐ。すると、一筋の流れ星が漆黒の空を駆け抜けた。

願い事でもしておこうかと思ったが、二度目の流れ星は来なかった。






「クオン、遅れてごめん」


レイがベルリッツを追って部室を出てから、大分時間が経ってしまった。


「構わん、帰るぞ」


「今日は……いや今日もかな、助けてくれてありがとう」


「気にするな。何時もの事だ」


昔からクオンは、幾度となくレイの危機を救ってきた。それは今日も同じだ。

普通は男女の立場が逆の方が格好が付くのだが。


「しかし、お前の部活は何時もあんな危険な活動をしているのか? てっきり私は、お前が学校で球蹴りにでも興じているものかと思っていたぞ」


「いや、あんなに危ないのは今日だけだよ」


「くれぐれも気を付ろよ。お前にもしもの事があったら、私の修行に着いて来る者が居なくなるからな」


「善処するよ」


修行だけではない。母を亡くし、父も家を空ける事が多く、信頼できる友人のいないクオンは、レイがいなくなれば本当の意味で一人になってしまう事になる。クオンは心のどこかでそれを恐れているのかもしれない。


クオンは、ふと空を仰ぐ。


「……相棒、だからな。たった一人の……」


「ん、なんか言った? クオン」


「いや、何でも」


クオンの呟きはレイの耳には入らず、夜空の闇に吸い込まれて行った。


  




 談笑しながら歩いていた二人は男子寮の入り口まで差し掛かった。


「私はギルドまで報告に行って来る。直ぐに戻るから、間違っても自分で夕食を作ろう等とは考えるな?」


「え、たまには俺が作っても……」


すると、クオンの態度が一変する。


「駄目だ、お前の料理は死人が出る」


「ひどい……」


明日は休日。レイは、今日のような事は二度と起きて欲しくないと思いながらも、胸の奥では新たな事件の兆しを予感していた。











 雄々しく輝く太陽も、夜になれば沈んで行く。

暗い雲がその光を妨げる事もある。

しかし、次にその姿を現す頃には、またいつもの輝きで顔を出す。

前よりも更に大きく、熱く燃えながら……


第一章 参上、夜明けの団 終











たびたび登場する“ギルド”という単語については

後々に説明します。

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