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03 抜け落ちた1ピース

 その次の日、彼は来なかった。

 いつもと同じ時間に俺はいつものベンチに座って、いつも別れるような時間までそこにいたけれど、彼は来なかった。


「今日は来れないのかな」


 いつもと同じ真っ青な空はその文字通り真っ青で、いつも感じさせてくれる心地よさは感じられなかった。ただ気持ち悪いくらいに青い。晴天だって今は気持ち良くないし、日に日にだんだんと強くなる日差しに鬱陶しささえ感じてしまう。昨日だって同じくらい日差しはあったはずなのに、彼がいるときには気にならなかった。


 それから1日、また1日と時間が過ぎていく。初めは来ないかな、と待つ時間も楽しみだとまるで初めてのデートのように感じていたけれど、よく考えれば相手は同性だし、少し馬鹿だなぁ…と思ったけれど前のつまらないただの日常に戻るのは耐えられなくて彼を待ち続けた。


 そのまま一週間が過ぎた。たまに時間をオーバーして、看護師さんに怒られることもあった。それでもまた次の日にはいつもと同じベンチ、時間、俺はそこにいた。


(…そういえば、“ダイスケ”調子が悪いって言ってたな)


 もしかしたら、愛犬の身に何かがあって落ち込んでいるのかもしれない。でも彼はどことなく、何においても一線を引いているようにも思えた。唯一、一番動揺を見せたのが恋人に対するときで、愛犬とは少し度合いの違う愛情が注がれていた。


(恋人さんに何かあったのだろうか)


 何かがあったとしても、その恋人さんが入院しているのはこの病院なんだから、どこかで鉢合わせしてもおかしくはないんだけれど…。

 でもこれって凄く不謹慎だ。名前も知らない彼と、その彼の恋人さんに何かあったのではないかと、心配するものの考えではない。

 それでも、会いたいという気持ちが溢れてきて仕方がない。理解しがたい感情なんだろうし、恋人がいるという同性になんて…、でも俺は彼の傍にいたい。もし、恋人さんのことや愛犬のことで悩んでいるなら俺が傍で支えたいし、守りたい。何よりも笑顔にもさせてあげたい。彼の笑顔はきっと彼の全ての想い人のためになるはずだ。


「会いたいです…」


 そう呟くと何故か、何もかも知っている、そんな気分になれた。この感情も前から持っていた気がして、ぼんやりと大切なものが見えてきている気がしてならない。

 やっぱりだめだ、忘れてていいことじゃない。思い出さなきゃいけないことなんだ。どんなにその先に辛いことがあっても、記憶の1ピースを思い出さなければ、今がモヤモヤしたままでずっとそれを引きずらなければいけなくなる。


「それはきっと、あなたに関係があるんですよね」


 まだ名前も思い出せない、俺の想い人。

 どうして教えてくれなかったのか、とか色々なことは抜きにして今はあなたのことを思い出したいんです。俺があなたを思い出したそのとき、あなたの名前を呼んだ俺の名前を、あなたも呼んでくれますか? あなたはまた、俺の前に現れてくれますか?

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