三度目の遺失物
近頃、僕には、奇妙な現象がつきまとっている。
ある時、大学で「黒い革の手帳」を失くした。
三日後、それは自宅の冷凍庫の奥、凍りついたお肉のパックの間から見つかった。
「……なんで、こんなところに?」
手帳の最後のページには、震える筆跡でこう記されていた。
『みつけた。 10/12』
その日は10月12日。僕が手帳を見つけた当日だった。
***
一ヶ月後、今度は「家の鍵」を紛失した。
業者が来るまでネカフェで過ごし、翌朝帰宅すると、鍵は寝室の枕の真下に置かれていた。
昨夜、何度も確認したはずの場所だ。
鍵には、赤黒いシミのついた付箋が貼られていた。
『逃げないで。 11/15』
僕は恐怖で震えた。誰かが侵入している。警察に相談したが、不法侵入の形跡はなく、精神的な疲れを疑われるだけだった。
ただ、共通点があった。物を失くした日は、決まって僕が「新しい環境」へ行こうとしたり、「新しい人間関係」を作ろうとした日だった。
***
12月24日。
僕は、ストーカーのような怪現象から逃れるため、内緒で決めた引っ越し先へ向かおうとしていた。
駅のホームで、「スマートフォン」がないことに気づく。
「くっそ、またかよ……!」
公衆電話を探そうと振り返った瞬間、背後に泥まみれの女が立っていた。
女は、僕が失くしたはずのスマホを握りしめている。
***
「……これ、落としたよ」
女の顔を見て、僕は絶叫しそうになった。それは三年前、事故で亡くなったはずの元恋人だったのだ。
「え……? そんな、もう死んだんじゃ…」
「死んだよ。でも、あなたが私の形見の万年筆を捨てようとしたから、戻ってきたの」
僕の脳裏に、半年前の記憶が蘇る。
僕が最初になくした「黒い手帳」は、彼女との思い出を整理するために捨てたものだった。それが冷凍庫から戻ってきたのは、彼女が「冷たい土の下から戻ってきた」合図だったのだ。
二度目の「鍵」。僕はあの日、彼女と住むはずだったこの部屋を引き払おうとしていた。だから彼女は枕の下――彼女が死ぬ間際まで横たわっていた場所に、鍵を戻した。
「次は、何を失くすの?」
彼女が笑う。彼女の指先は、誠司の胸を指していた。
「……心臓、かな?」
誠司は逃げようとしたが、足が動かない。
ふと見ると、駅の電光掲示板に、あの時と同じ筆跡で文字が浮かび上がっていた。
『ずっと一緒。 12/24』




