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三度目の遺失物

作者: さる
掲載日:2026/02/17

近頃、僕には、奇妙な現象がつきまとっている。


ある時、大学で「黒い革の手帳」を失くした。

三日後、それは自宅の冷凍庫の奥、凍りついたお肉のパックの間から見つかった。


「……なんで、こんなところに?」


手帳の最後のページには、震える筆跡でこう記されていた。


『みつけた。 10/12』


その日は10月12日。僕が手帳を見つけた当日だった。


***


一ヶ月後、今度は「家の鍵」を紛失した。

業者が来るまでネカフェで過ごし、翌朝帰宅すると、鍵は寝室の枕の真下に置かれていた。


昨夜、何度も確認したはずの場所だ。

鍵には、赤黒いシミのついた付箋が貼られていた。


『逃げないで。 11/15』


僕は恐怖で震えた。誰かが侵入している。警察に相談したが、不法侵入の形跡はなく、精神的な疲れを疑われるだけだった。


ただ、共通点があった。物を失くした日は、決まって僕が「新しい環境」へ行こうとしたり、「新しい人間関係」を作ろうとした日だった。


***


12月24日。

僕は、ストーカーのような怪現象から逃れるため、内緒で決めた引っ越し先へ向かおうとしていた。

駅のホームで、「スマートフォン」がないことに気づく。


「くっそ、またかよ……!」


公衆電話を探そうと振り返った瞬間、背後に泥まみれの女が立っていた。

女は、僕が失くしたはずのスマホを握りしめている。


***


「……これ、落としたよ」


女の顔を見て、僕は絶叫しそうになった。それは三年前、事故で亡くなったはずの元恋人だったのだ。


「え……? そんな、もう死んだんじゃ…」


「死んだよ。でも、あなたが私の形見の万年筆を捨てようとしたから、戻ってきたの」


僕の脳裏に、半年前の記憶が蘇る。

僕が最初になくした「黒い手帳」は、彼女との思い出を整理するために捨てたものだった。それが冷凍庫から戻ってきたのは、彼女が「冷たい土の下から戻ってきた」合図だったのだ。


二度目の「鍵」。僕はあの日、彼女と住むはずだったこの部屋を引き払おうとしていた。だから彼女は枕の下――彼女が死ぬ間際まで横たわっていた場所に、鍵を戻した。


「次は、何を失くすの?」


彼女が笑う。彼女の指先は、誠司の胸を指していた。


「……心臓、かな?」


誠司は逃げようとしたが、足が動かない。

ふと見ると、駅の電光掲示板に、あの時と同じ筆跡で文字が浮かび上がっていた。


『ずっと一緒。 12/24』

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