ほしいものになってみた
忍術の練習をしている子ぎつねがいました。
彼がいちばん好きな忍術は変身でした。
でも、彼はまだ忍術が下手でした。おとうさんやおかあさんのようにうまくはできません。
ある日、彼は美しく咲いている桜の花がほしいとおもいました。
けれど、それはとても高い枝に咲いていたので、手に入れられません。
そこで、彼は桜の花に変身してみることにしました。
「ぼくがほしいものに、なればいいんだ」
ポンッ!
けれど、変身できたのは、一枚の花びらだけでした。
「でも、ちょっとほしいものに近づいたぞ」
本当に桜の花を手に入れられたような気分になってきました。
「ぼくは桜の花だぞ」
うれしい気持ちで満たされると、本物の桜の花が彼のもとにふってきました。
彼は元のすがたにもどりました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。
けれど、こうしてほしかったものが手に入りました。
「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」
とびはねてよろこびました。
桜の花を持って歩いていると、鳥が一羽やってきて、それをくわえていってしまいました。
「あー、待って! せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」
彼は追いかけようとしましたが、鳥は高くに飛んでいってしまって、とどきません。
「あー、ぼくも空を飛びたいなぁ」
そこで、彼は鳥に変身してみることにしました。
ポンッ!
けれど、変身できたのは、一枚の羽根だけでした。
「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」
一枚の羽根でも自分がそれになっていると、鳥のような気分になれました。
「ぼくは鳥だぞ」
うれしい気持ちで満たされると、強い風がふいて、彼は高く舞い上がりました。本当に空を飛んでいる鳥のような気分になりました。
彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。
けれど、空を飛ぶことはできました。
「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」
彼はよろこびましたが、空から落ちていきます。
「せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」
彼は川の中に落ちました。
「どうしよう、ぼく、泳げないんだ」
水の中でもがいていると、魚が泳いでいるのを見ました。
大好物の魚です。
でも、今は上手に泳いでいることがうらやましく思えました。
「ぼくが魚になれたら、水の中でも、自由に泳げるはずだ」
そこで、彼は魚に変身してみることにしました。
ポンッ!
けれど、変身できたのは、魚のうろこでした。
「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」
小さなうろこでも、自分がそれになっていると、魚のような気分になりました。
うれしい気持ちで満たされると、川の中をのんびり流れていきます。本当は泳げないのに、魚のように自由に泳いでいる気分です。
すると、いっしょに横を泳いでいた魚が釣りあげられました。
小さなうろこの彼も、いっしょに川の外に飛び出してしまいました。
陸の上で彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。
けれど、水の中を泳ぐことができました。無事に陸に上がることもできました。ついでに大好物の魚も足元で跳ねています。
「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」
彼はよろこびましたが、釣りざおを持ったクマが、その魚を持って森へと走っていってしまいます。
「あー、待って! せっかく手に入れたぼくのしあわせなのに!」
彼は追いかけようとしましたが、クマは森の中に入って、見失ってしまいました。
「あの森の高い木みたいになれたら、クマがどこにいたってわかるのにな」
そこで、彼は木に変身してみることにしました。
ポンッ!
けれど、変身できたのは、切り株でした。
「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」
切り株でも、自分がそれになっていると、森の一部になっている気がしました。自分が森なら、魚を持って逃げていったクマもさがしだせる気がしました。
うれしい気持ちで満みたされると、シカの子供がやってきて、切り株をテーブルに、ごはんを食べ始めました。
別の動物たちも集まってきて、切り株をかこむようにみんなでごはんを食べました。
すると、雨がふってきて、みんな、雨やどりしにどこかへ行ってしまいました。
雨にぬれた彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。
けれど、動物たちが持ってきた食べ物が、まだ山のようにありました。彼の大好きなものばかりです。
「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」
彼はよろこびましたが、おなかをすかせた人間の家族が、その食べ物を持って町へいってしまいます。
「あー、待って! せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」
彼は追いかけようとしましたが、人間の町へいくにはちょっと勇気がいります。
「あー、ぼくも人間になれたらなぁ。もっとおいしいたべものもたくさんたべられるだろうに」
そこで、彼は人間に変身してみようと思いました。
ところが、彼は人間に変身するのが苦手です。
おとうさんやおかあさんは、人間に変身するのも得意です。家に戻って二人に相談してみようかなと思いましたが、
「でも、ひとりでがんばってやってみよう」
彼は人間に変身してみました。
ポンッ!
姿すがたは人間の子供っぽくなれましたが、耳やしっぽはついたままです。
「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」
彼はその姿で、人間の町へいってみることにしました。
町について、道をあるいていても、人間から変な目でみられません。
どうやらまちでは大きなお祭りがもよおされているらしく、みんな変なかっこうをしています。
耳やしっぽがはえたままの彼よりも、もっと変なかっこうです。おばけのかっこうをしていたり、モンスターのかっこうをしていたり。
お祭りを楽しみながら歩いていると、たくさんの人間からおかしをいっぱいもらいました。
「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」
すると、町を出る前に、彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。
彼はだれにも気づかれないように、にげようとしましたが、二人の人間につかまってしまいました。
「うわ、どうしよう! せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」
「こんなところで、なにをしているの」
彼をつかまえた人間は、きつねのすがたになりました。
「おとうさんとおかあさんだ!」
「うまく化けていましたね」
おとうさんとおかあさんはほめてくれました。
人間のお祭りを楽しんだ三匹は、たべものをいっぱいもってなかよく家に帰りました。
彼はおとうさんとおかあさんにほめられて、とてもしあわせでした。
それに、家には桜の花も、鳥も、魚もありましたし、立派な木々にも囲まれていました。彼のほしいものは全部そこにあったのです。
おわり




