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ほしいものになってみた

作者: 早乙女純章
掲載日:2026/02/01

 忍術の練習をしている子ぎつねがいました。


 彼がいちばん好きな忍術は変身でした。


 でも、彼はまだ忍術が下手でした。おとうさんやおかあさんのようにうまくはできません。


 ある日、彼は美しく咲いている桜の花がほしいとおもいました。


 けれど、それはとても高い枝に咲いていたので、手に入れられません。


 そこで、彼は桜の花に変身してみることにしました。


「ぼくがほしいものに、なればいいんだ」



 ポンッ!



 けれど、変身できたのは、一枚の花びらだけでした。


「でも、ちょっとほしいものに近づいたぞ」


 本当に桜の花を手に入れられたような気分になってきました。


「ぼくは桜の花だぞ」


 うれしい気持ちで満たされると、本物の桜の花が彼のもとにふってきました。


 彼は元のすがたにもどりました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。


 けれど、こうしてほしかったものが手に入りました。


「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」


 とびはねてよろこびました。



 桜の花を持って歩いていると、鳥が一羽やってきて、それをくわえていってしまいました。


「あー、待って! せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」


 彼は追いかけようとしましたが、鳥は高くに飛んでいってしまって、とどきません。


「あー、ぼくも空を飛びたいなぁ」


 そこで、彼は鳥に変身してみることにしました。



 ポンッ!



 けれど、変身できたのは、一枚の羽根だけでした。


「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」


 一枚の羽根でも自分がそれになっていると、鳥のような気分になれました。


「ぼくは鳥だぞ」


 うれしい気持ちで満たされると、強い風がふいて、彼は高く舞い上がりました。本当に空を飛んでいる鳥のような気分になりました。


 彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。


 けれど、空を飛ぶことはできました。


「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」


 彼はよろこびましたが、空から落ちていきます。


「せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」


 彼は川の中に落ちました。


「どうしよう、ぼく、泳げないんだ」


 水の中でもがいていると、魚が泳いでいるのを見ました。


 大好物の魚です。


 でも、今は上手に泳いでいることがうらやましく思えました。


「ぼくが魚になれたら、水の中でも、自由に泳げるはずだ」


 そこで、彼は魚に変身してみることにしました。



 ポンッ!



 けれど、変身できたのは、魚のうろこでした。


「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」


 小さなうろこでも、自分がそれになっていると、魚のような気分になりました。


 うれしい気持ちで満たされると、川の中をのんびり流れていきます。本当は泳げないのに、魚のように自由に泳いでいる気分です。


 すると、いっしょに横を泳いでいた魚が釣りあげられました。


 小さなうろこの彼も、いっしょに川の外に飛び出してしまいました。


 陸の上で彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。


 けれど、水の中を泳ぐことができました。無事に陸に上がることもできました。ついでに大好物の魚も足元で跳ねています。


「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」


 彼はよろこびましたが、釣りざおを持ったクマが、その魚を持って森へと走っていってしまいます。


「あー、待って! せっかく手に入れたぼくのしあわせなのに!」


 彼は追いかけようとしましたが、クマは森の中に入って、見失ってしまいました。


「あの森の高い木みたいになれたら、クマがどこにいたってわかるのにな」


 そこで、彼は木に変身してみることにしました。



 ポンッ!



 けれど、変身できたのは、切り株でした。


「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」


 切り株でも、自分がそれになっていると、森の一部になっている気がしました。自分が森なら、魚を持って逃げていったクマもさがしだせる気がしました。


 うれしい気持ちで満みたされると、シカの子供がやってきて、切り株をテーブルに、ごはんを食べ始めました。


 別の動物たちも集まってきて、切り株をかこむようにみんなでごはんを食べました。


 すると、雨がふってきて、みんな、雨やどりしにどこかへ行ってしまいました。


 雨にぬれた彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。




 けれど、動物たちが持ってきた食べ物が、まだ山のようにありました。彼の大好きなものばかりです。


「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」


 彼はよろこびましたが、おなかをすかせた人間の家族が、その食べ物を持って町へいってしまいます。


「あー、待って! せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」


 彼は追いかけようとしましたが、人間の町へいくにはちょっと勇気がいります。


「あー、ぼくも人間になれたらなぁ。もっとおいしいたべものもたくさんたべられるだろうに」


 そこで、彼は人間に変身してみようと思いました。


 ところが、彼は人間に変身するのが苦手です。


 おとうさんやおかあさんは、人間に変身するのも得意です。家に戻って二人に相談してみようかなと思いましたが、


「でも、ひとりでがんばってやってみよう」


 彼は人間に変身してみました。



 ポンッ!



 姿すがたは人間の子供っぽくなれましたが、耳やしっぽはついたままです。


「でも、なんかちょっとなりたいものに近づいた」


 彼はその姿で、人間の町へいってみることにしました。


 町について、道をあるいていても、人間から変な目でみられません。


 どうやらまちでは大きなお祭りがもよおされているらしく、みんな変なかっこうをしています。


 耳やしっぽがはえたままの彼よりも、もっと変なかっこうです。おばけのかっこうをしていたり、モンスターのかっこうをしていたり。


 お祭りを楽しみながら歩いていると、たくさんの人間からおかしをいっぱいもらいました。


「やった、ぼくはとてもしあわせものだ!」


 すると、町を出る前に、彼は元の姿に戻りました。彼は長く変身し続けていることはできないのです。


 彼はだれにも気づかれないように、にげようとしましたが、二人の人間につかまってしまいました。


「うわ、どうしよう! せっかく手に入れたぼくの幸せなのに!」


「こんなところで、なにをしているの」


 彼をつかまえた人間は、きつねのすがたになりました。


「おとうさんとおかあさんだ!」


「うまく化けていましたね」


 おとうさんとおかあさんはほめてくれました。



 人間のお祭りを楽しんだ三匹は、たべものをいっぱいもってなかよく家に帰りました。


 彼はおとうさんとおかあさんにほめられて、とてもしあわせでした。


 それに、家には桜の花も、鳥も、魚もありましたし、立派な木々にも囲まれていました。彼のほしいものは全部そこにあったのです。




おわり

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