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銀河戦記フライハイト 〜廃棄惑星から始まる銀河帝国滅亡史〜【祝40万PV】  作者: 廣瀬誠人
第9章 分離独立編

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第93話 授賞式

 帝国首都星(セントラル)


 今日、この巨大な人工天体の中心部は、かつてないほどの熱狂と厳戒態勢に包まれていた。


 会場となるのは、帝国最大級の収容人数を誇る『インペリアル・ドーム』。


 かつて、俺が代官登用試験を開催した、あの場所だ。


 だが、今日のドームは、無機質な試験会場だった当時の面影など微塵もない。


 外壁はホログラムによる装飾で七色に輝き、エントランスには真紅のカーペットが遥か彼方まで敷き詰められている。


 上空には警備用のドローンが無数に旋回し、地上には着飾った貴族やセレブリティたちが列をなしている。


 その理由はただ一つ。


 銀河帝国皇帝、アーデルハイト・フォン・グラングリア陛下が、皇族代表として参列しているからだ。


「……厳重だな」


 エアカーの窓から外を見ながら、俺は呟いた。


 警備兵の数が尋常ではない。近衛騎士団に加え、最新鋭のセキュリティ・ドロイドが壁のように配置されている。


「当然です、マスター」


 隣に座るシズが、ドレス姿のまま周囲をスキャンする。


「対象は、1000年という悠久の時を生きるとされる生ける伝説。……その身辺警護レベルは、戦艦の防御システムに匹敵します。加えて、マスターに対する警戒レベルも最大級です」


「だろうな。……シズ、装備のチェックは?」


「問題ありません。礼服の下の超小型シールドジェネレーター、正常稼働中。私の体内兵器も、いつでも展開可能です」


「よし。……行くぞ」


 俺は深呼吸をし、俳優としての「笑顔」を貼り付けた。


 ***


 会場内は、まさに豪華絢爛という言葉がふさわしかった。


 数百万人の観客、煌めくシャンデリア、そしてステージ中央に鎮座する巨大な黄金の玉座。


 そこに、彼女はいた。


 アーデルハイト・フォン・グラングリア。


 見た目は20代の美女にしか見えない。


 だが、その存在感は異質だった。


 透き通るような肌、重力を無視して揺らめく髪。


 そして何より、その瞳。


 遠目に見ても分かるほど、そこには人間の温かみが欠落していた。


 宝石のように美しいが、決して体温を感じさせない、絶対零度の冷徹さ。


 あれが、ネメシスを取り込んだ「不老不死」の姿か。


 ドーム内の巨大モニターには、興奮したニュースキャスターの顔が大写しになっている。


『――只今から、帝国映画賞の授賞式が始まります!ご覧ください、この熱気!帝国の歴史に残る夜となることは間違いありません!』


 キャスターの声が会場に響き渡る。


『今回の授賞式では、なんと皇帝陛下御身自らが、受賞者にトロフィーを贈呈します!一介の映画人が陛下に謁見できるなど、なんと栄誉な事なのでしょうか!』


『そして、本日の最注目は……やはりこの作品でしょう!フライハイト監督が手がけられた超大作、「キャプテン・クロウとネメシスの伝説」!主演男優賞、監督賞、撮影賞、そして最優秀作品賞!史上初の四冠を受賞です!!』


 ワァァァァァァァッ!!!


 観客席から割れんばかりの歓声が上がる。


 俺の名前がコールされるたびに、黄色い悲鳴が混じる。


 完全に、俺は「時の人」だった。


 ***


 授賞式が始まった。


 だが、俺の出番は最後だ。


 四冠という偉業を達成したため、番組構成上、トリを飾ることになっている。


 まずは、助演男優賞や脚本賞など、他の受賞者たちが淡々とステージに上がる。


「ありがとうみんな!この賞を母に捧げます!」


「この場に立てることが幸せです!陛下万歳!」


 受賞者たちは感極まり、涙を流しながらありきたりな感想を述べていく。


 彼らは知らないのだ。


 その玉座に座る美女が、自分たちを家畜程度にしか思っていないことを。


 そして、このきらびやかな会場の遥か上空、1光年先には、惑星をも消し飛ばす超弩級戦艦の砲口が向けられていることを。


「……平和なもんだ」


 俺は舞台袖で、冷めた目をして出番を待っていた。


 隣には、ドレスアップしたローレンス社長が緊張でガタガタと震えている。


「ふ、ふふ、フライハイト卿……!い、いよいよですね……!陛下とお会いできるなんて、夢のようです……!」


「ああ。粗相のないようにな」


 そして、その時は来た。


 司会の声が、一段と高く張り上げられる。


『さあ、お待たせいたしました! 本日の主役の登場です!』


 ドラムロールが鳴り響く。


『圧倒的な映像美、心揺さぶるストーリー、そして自ら演じた英雄の姿!帝国映画史を塗り替えた天才! 史上初の四冠を達成した、クロウ・フォン・フライハイト監督に、盛大なる拍手を!!』


 ドォォォォォォォッ!!!


 会場全体が揺れるほどの拍手と歓声。


 スポットライトが俺を射抜く。


「……行くぞ」


 俺はマントを翻し、堂々とした足取りでステージへと歩み出した。


 数百万の視線、無数のカメラのフラッシュ。


 それらが心地よくもあり、同時に肌を刺すような殺気も混じっているのを感じる。


 ステージの中央。


 階段を上がり、俺は玉座の前に立った。


 目の前には、アーデルハイト女帝。


 至近距離で見ると、その「異様さ」がより際立つ。


 美しい。


 だが、それは精巧に作られたビスクドールのような、あるいは捕食者が擬態しているかのような美しさだ。


 彼女からは、微かな匂いがした。


 香水ではない。どこか鉄錆のような、血とオイルが混じったような、戦場の匂い。


 会場は歓喜に包まれているが、このステージの上だけは、真空のような緊張が張り詰めていた。


 俺は礼儀正しく一礼する。


 左手は、いつでもシールドを展開できるように構えながら。


 アーデルハイトがゆっくりと立ち上がった。


 従者が捧げ持つ黄金のトロフィーを手に取り、俺の前に歩み寄る。


「……面を上げよ」


 鈴を転がすような、しかし絶対的な命令権を持つ声。


 俺は顔を上げ、彼女の瞳を真正面から見据えた。


「史上初の四冠を成し遂げた卿に対し、このトロフィーを贈呈する。……見事な仕事であった」


「ははっ。身に余る光栄でございます、陛下」


 女帝の口調は非常に淡々としていた。


 感情の波がない。


 まるで事務処理のように、俺にトロフィーを押し付ける。


 俺はそれを受け取った。


 ずしりと重い。


 だが、この重みは栄光の重みではない。


 彼女からの「宣戦布告」の重みだ。


(……何もなしか?このまま何事もなく終わるのか?)


 拍手が鳴り止まない中、俺は一瞬そう思った。


 公開処刑でも始まるかと身構えていたが、あまりにあっけない。


「では、失礼いたします」


 俺はもう一度一礼し、踵を返そうとした。


 その、瞬間だった。


 アーデルハイトの手が、自身の襟元に伸びた。


 彼女は流れるような動作で、自分のピンマイクのスイッチを切った。


 会場のスピーカーからは、彼女の衣擦れの音さえ消えた。


 そして。


 俺の背中に向かって、その声は放たれた。


「――あとで余の所に来い」


 ピタリ、と俺の足が止まる。


「……話がある」


 それは、今まで聞いたことのない冷徹な声だった。


 先ほどまでの公的な威厳のある声ではない。


 暗闇の中で喉元にナイフを突きつけられたような。


 純粋な、捕食者の声。


 そこには、明確な殺意と、獲物を甚振る愉悦が入り混じっていた。


 俺はゆっくりと振り返り、マイクに乗らない声で、ニヤリと笑って返した。


「……デートのお誘いですか?光栄です」


 アーデルハイトの瞳が、僅かに細められた。


 彼女はもう何も言わず、ただ冷たい微笑を浮かべて玉座に戻っていった。


 司会が叫ぶ。


『クロウ監督でした!今一度、盛大な拍手を!』


 再び湧き上がる歓声の中、俺はステージを降りた。


 背中にはびっしょりと冷や汗をかいていた。


 舞台袖に戻ると、シズが真剣な表情で待っていた。


「マスター。……心拍数が上昇しています。何を言われたのですか?」


「……呼び出しを食らったよ」


 俺はトロフィーをローレンスに放り投げた。


 ローレンスは「おわっ!?」と慌てて受け止める。


「え、ええ!?陛下から直々に呼び出しですか!?す、すごい!異例中の異例ですよ!やはり気に入られたのですね!」


 能天気なローレンスとは対照的に、俺の目は笑っていなかった。


「ああ、気に入られたみたいだ。……『食材』としてな」


 授賞式は無事に終わった。


 だが、それは表向きの祭りが終わったに過ぎない。


 これから始まるのは、レッドカーペットの上ではなく、血塗られた裏舞台での交渉だ。


 俺は懐の端末を握りしめた。


 1光年先に待機するヴォルフへのホットライン。


「……さて、行こうか。魔女の棲む城へ」


 俺はネクタイを少し緩め、シズと共に皇宮への招待状が届くのを待った。


 戦いは、まだこれからだ。

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