表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第1章 廃棄惑星編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/62

第9話 失われた大艦隊

 あの日、帝国のパトロール艦隊によって核が投下されてから、早3ヶ月という月日が流れた。


 季節のないこの死の星において、時間の経過を告げるのは、分厚い雲の切れ間から降ってくるゴミの種類の変化だけだ。


 ある時は建築廃材が、ある時はスクラップになった家電が、雪のように降り注ぐ。


 俺たちの拠点は、あの日以来、一度もシールドを解くことなく、完全なステルス状態を維持し続けていた。


 地下深くに張り巡らされた根のように、俺たちは息を潜める。


 生活そのものは、皮肉なほどに安定し、地下鉱脈から採掘される高純度エネルギー鉱石のおかげで、電力は都市一つを賄えるほどに潤沢。


 生産ラインがフル稼働で作る圧縮食料の備蓄は倉庫から溢れんばかりで、向こう数年は食うに困らない。


 ルルの喉の調子も良く、毎晩のように彼女の透き通った歌声が、無機質な金属壁の居住区に響き渡る。


 ギリアムが淹れる紅茶の香り、シズの駆動音が奏でる規則的なリズム。


 一見すれば、平和そのものだ。


 だが、俺の心はずっと重い鉛を飲み込んだままだった。


「……息が詰まるな」


 俺は薄暗い管制室で、モニターに映る「偽装映像(何もない荒野)」を見つめながら呟いた。


 画面の中では、酸の雨がただ虚しく地面を叩いている。


 俺たちは生きている。


 だが、それは死体が腐敗せずに残っているのと同義だ。


「死んだふり」をしているからに過ぎない。


 空を見上げれば、いつまた気まぐれに「掃除」が行われるか分からない恐怖がある。


 あいつらにとって、俺たちは掃除機で吸い取るホコリ以下の存在だ。


 この3ヶ月、俺は暇さえあれば、高出力レーザー砲の増設や、シールド発生装置の多重化に明け暮れた。


 少しでも生存率を上げようと足掻いた。


 だが、どれだけ守りを固めても、胃の腑を焼くような不安は消えない。


 ネズミが巣穴をどれだけ頑丈にしようが、気まぐれな猫の前では無力なのと同じだ。


「欲しいな……」


 俺はコンソールに置いた拳を、ギリギリと握りしめた。


 守るための盾じゃない。


 隠れるための迷彩でもない。


「奴らを震え上がらせるような、圧倒的な暴力(ちから)が」


 その時、沈黙を守っていた通信回線が開いた。


 ノイズ混じりの電子音が、停滞した空気を切り裂く。


 地下深層、誰も知らない暗闇の中で長期間の掘削任務に就いていた、ベンケイからだ。


『……マスター。応答願います。長期任務(ロング・ラン)より、ただいま帰還しました』


 久々に聞く、岩のように重厚な声。


 だが、その音声波形はいつもよりトーンが高く、微かに震えているようにも聞こえた。


 感情を持たないはずのドロイドが、興奮している?


 何かあったな。


 俺の「職人の勘」が、警鐘ではなく吉兆を告げていた。


「ベンケイ。無事だったか?それとも、また厄介な化け物を掘り当てたか?」


『いいえ。化け物ではありません。……歴史そのものを掘り当てました』


「歴史?」


地下鉄(メトロ)網を拡張し、掘り進めていた所、岩盤プレートの下より、旧時代の極秘データバンクを発見。解析の結果、この惑星エンドの「真の姿」が判明しました』


 ベンケイがデータを転送してくる。


 空中に展開されたホログラムに、俺は息を呑んだ。


 そこに映っていたのは、今のゴミだらけの姿ではない。


 かつての、まだこの星が死ぬ前の姿。


 軌道エレベーターが天を突き刺し、地表を埋め尽くす無数のドックが銀色に輝く、巨大な軍事要塞惑星の姿だった。


『記録によれば、旧時代、この惑星は対異生命体戦争における「銀河連合艦隊」の最大母港でした。ここには、全銀河から集結した決戦用宇宙戦艦、巡洋艦、空母など、計1000万隻規模の艦隊が配備されていたのです』


「いっ、1000万……!?」


 俺は椅子から転げ落ちそうになった。


 現在の銀河帝国の正規艦隊ですら、数百万隻単位だと聞く。


 貴族の私兵軍も含めたら1000万隻には届くだろうが、単一の拠点で運用される戦力としては神話級だ。


「おい、待てよ。そんな大艦隊がいたなら、歴史に載ってるはずだろ」


『それが……データバンクに残されていた戦況記録は、現在流布されている公式歴史とは、些か“食い違い”があります。ご覧ください』


 シズがデータを展開し、空中に赤文字のログが羅列される。


 それは、遥か数万年前の軍事ログの断片だった。


 極度の経年劣化により、ほとんどが黒塗りとノイズに埋もれ、判読不能なエラーコードが明滅している。


【極秘:統■■謀本部戦況ロ■/第09ア■■■ブ】[Err:0x99F2-SevereCorruption]


 ■宇宙歴92,042年 銀河外■部……にて未確■異生■体『ネメ■ス』と接敵。


 ……物質を捕食・■化する■質……第[DataLost]艦隊、壊■。


 生存者なし。


 ■宇宙歴92,045年 ……崩壊。


 絶対防衛圏まで後退。


 人■種の存亡……「銀河連■艦隊」を結集。


 ……惑星エンド……最大母港…………1000万隻……。


 ■宇宙歴92,048年 戦況:全■線で劣勢との報■……[FALSE]……※警告※首都星……ルからの定時連■途絶。


 ※警告※……生体デ■タ……[異■]……検知。


[D■A……書換]……[■化]……能■大。


 ■宇宙歴92,049年 作戦名……[ABORT]……新・作戦名『箱■(ア■ク)』へ移行。


 敵は外■にあらず……既に中■は[Err:■■msis]……掌握された。


 ……勝■できな■。


 だが、全滅も許されな■。


 主力艦隊は……地下大深■ドッ■『オメガ』へ封印……。


 い■か人類が、真の■――[偽りの■■者]に気づき…………最後の希■の牙である。


 ■ロ■終了……ForceShutdown


「……なんだ、これ」


 俺は眉をひそめた。


 まるで虫食いだらけの古文書だ。


 文字化けやノイズが酷すぎて、まともに読めない。


 だが、不穏な空気だけは伝わってくる。


 歴史では、人類は異生命体に勝利し、その後に今の銀河帝国が建国されたことになっている。


 だが、このログはまるで、「勝てないから隠した」と言っているようじゃないか。


 それに……『[偽りの■■者]』とはどういう意味だ?


 まるで、誰かが誰かに入れ替わったかのような……。


「シズ、このデータの信憑性は?」


「不明です。データ破損率が88%を超えています。単なる戦争の混乱による誤報か、あるいは敗北主義者によるデマの可能性もあります。ですが……」


 シズが赤い瞳を細めた。


「しかし、『地下に封印された』という記述と、ベンケイの発見は一致します」


 難しい歴史の真偽はともかく、現実は一つだ。


 俺の心臓が早鐘を打った。


 眠っている。


 この足元に。


 あるいは、広大なゴミ山の下に。


 銀河を焼き尽くせるほどの火力が、誰にも知られず、新品同様の状態で眠っているというのか。


「最後の希望」と呼ばれた艦隊が。


「場所は!?その艦隊はどこにある!」


『座標データ、解析済み。現在の工場から見て、惑星の裏側。大深度地下ドック、オメガと呼ばれるエリアに、主力艦隊が集中して保管されています』


「惑星の裏側か……。距離は?」


『直線距離にして、約6万キロメートル』


「ろ、6万キロだと……?」


 俺は絶句した。


 6万キロ。


 しかも、地下鉄(メトロ)網は途中で寸断されている。


 この長大な距離を、酸の雨と放射線、そしてあの凶悪な未知の汚染変異体(ミュータント)が跋扈する地表を走破しなければならない。


 正気の沙汰ではない。


 だが、俺のエンジニアとしての魂が、かつてないほど激しく燃え上がっていた。


 恐怖を上書きするほどの、強烈な野心が湧き上がってくる。


「シズ!今の工場の設備で、戦艦は作れるか!?」


 俺は振り返り、控えていたシズに問うた。


 シズは即答した。


 冷徹な計算に基づく答えを。


「不可能です、マスター。現在の生産設備では、全長50メートル級の小型兵器製造が限界です。宇宙戦艦クラス――全長1000メートル以上を建造するには、工場全域を大規模拡張し、専用の軌道エレベーターと無重力造船所を建設する必要があります」


「大規模拡張かよ……。そんなの、何十年かかるか分からんぞ」


 3ヶ月かかって、ようやく動力炉が安定したところだ。


 悠長に土木工事をしている間に、帝国の気まぐれな爆撃で消し炭にされるのがオチだ。


 俺は舌打ちをした。


 目の前に宝の山があるのに、手が届かない。


 だが。


 シズが、無表情な顔の中で、瞳だけを悪戯っぽく輝かせた。


「ですが、マスター。貴方様には『一から作る』以外の方法があるではありませんか」


「……ああ、そうだったな」


 俺はニヤリと笑った。


 そうだ。


 俺は何者だ?


 ただ工場の言いなりになるような工場長じゃない。


 俺は、ゴミの中から価値あるものを拾い出し、繋ぎ合わせ、蘇らせてきた男だ。


 俺は生産者であると同時に、銀河最強の修理屋(レストアラー)だ。


 作れないなら、直せばいい。


 現物がそこにあるのなら、どんなに錆びついていようが、壊れていようが、俺の手で新品同様――いや、それ以上の性能に蘇らせてやる。


 旧時代の亡霊だろうが、負け犬の艦隊だろうが関係ない。


 俺が使えば、それは最強の矛になる。


「決まりだ。惑星の裏側へ行くぞ。そこに眠る『失われた艦隊(ロスト・フリート)』を、俺たちの手中に収める」


 俺の宣言に、その場にいた全員の空気が変わった。


 3ヶ月間、地下で息を潜めていた鬱憤を晴らす時が来たのだ。


「6万キロ……。途方もない大遠征になりますな」


 ギリアムが地図を見ながら唸るが、その口元は楽しげに歪んでいる。


「しかも、我々は帝国に『死んだ』と思われています。移動中に見つかれば、今度こそ徹底的に爆撃されるでしょう」


「分かってる。だから、最強の『移動要塞』を作る」


 俺はコンソールに向かい、この3ヶ月間、暇つぶしに書き溜めていた設計図の一つを呼び出した。


 いつかここを出ていく時のために、こっそり設計していた切り札だ。


「工場の機能を一部移設し、あらゆる地形を踏破し、帝国軍のレーダーからも消えるステルス装甲戦車。全員で行くぞ。これは『国』ぐるみの引っ越しだ」


 ***


 それからの一週間、工場は戦場のような忙しさだった。


 眠る間も惜しんでアームを動かし、溶接の火花の中で食事を摂った。


 ありったけの資材と、地下から掘り出したレアメタルを惜しみなく投入し、俺たちは一つの巨大なビークルを作り上げた。


『大型水陸両用・全地形対応移動要塞』


 『グランド・タンク』と名付けた。


 全長50メートル、全高20メートル。


 通常の車輪や履帯ではない。


 下部には大型のホバーユニットを採用。


 これにより、6万キロの悪路――荒地、酸の沼地、山脈、瓦礫の山も踏破できる。


 装甲はステルスコーティングを施したオリハルコンとヒヒイロノカネの多重複合装甲。


 帝国軍のセンサーには、ただの移動する岩塊にしか映らないはずだ。


 主砲には、戦艦の副砲クラスである50cm連装高出力ビーム砲を搭載した。


 邪魔なミュータントなど、一撃で蒸発させる火力だ。


 さらに、この主砲はレーザーだけでなく、電磁加速による実体弾の射出も可能にしている。


 もしもの時があれば、核弾頭を発射することだって……いや、それは考え過ぎか。


 だが、それほどの「最悪」を想定しておかなければ、この星では生き残れない。


 内部には、居住区画、医療室、そして心臓部となる簡易的な《万能物質(マター)生産工場》まで搭載している。


 まさに、走る工場。


 陸を行く戦艦だ。


「……できた」


 工場のハンガーデッキに鎮座する、鈍銀色の巨体を見上げ、俺は油まみれの汗を拭った。


 武骨で、洗練さのかけらもない。


 だが、とてつもなく頑丈で、頼りになる俺たちの城だ。


「すごい……お城みたい……」


 ルルが目を輝かせて見上げている。


 彼女が着ている防護服も俺が作ったものだ。


 子供用のサイズだが、機能は大人用と遜色ない。


 これで外の世界に出ても、有毒ガスに苦しむことはないだろう。


「よし、積み込み開始だ!水、食料、エネルギー鉱石、予備パーツ!持てるだけ詰め込め!工場のメインシステムはスリープモードへ移行。防衛システムのみ自律稼働させろ!」


 俺の号令で、シズとベンケイがコンテナを運び込んでいく。


 ギリアムがティーセットを丁寧に梱包し、最後に思い出の詰まった執務室の鍵をかけた。


 数時間後。


 俺たちは『グランド・タンク』のブリッジにいた。


 広角モニターには、見慣れた工場のハンガーゲートが映し出されている。


 住み慣れた我が家。


 だが、ここを守るためにも、一度ここを離れなければならない。


 次に戻ってくる時は、逃げ隠れするためじゃない。


 凱旋するためだ。


「全システム、オールグリーン。ステルスフィールド、展開。外部ハッチ閉鎖」


 シズがオペレーター席で告げる。


 ベンケイが操舵輪を握り、唸りを上げる。


『動力炉、出力120%。いつでも出せます、マスター』


 俺は深く息を吸い込み、前方を指差した。


 その指先は、分厚い壁の向こう、6万キロの彼方を向いている。


「出撃!目指すは惑星の裏側、オメガドック!1000万隻の寝坊助たちを叩き起こしに行くぞ!」


 ズズズズズ……ッ!


 重厚な振動と共に、銀色の戦車が動き出した。


 巨大なゲートが開き、灰色の光が差し込む。


 酸の雨が叩きつける荒野へ。


 帝国よ、今はまだ笑っているがいい。


 高みの見物を決め込んでいればいい。


 俺たちが帰ってくる時、この星は「ゴミ捨て場」から「銀河最強の艦隊基地」へと変わっているはずだ。


 俺たちの反撃の狼煙は、静かに、しかし力強く上がり始めていた。

26/1/17追記

作中に登場した巨大移動要塞「グランド・タンク」は、第二次世界大戦時に大ドイツ国で計画されていた超巨大戦車「P1000 ラーテ」をモデルにしています。

現実では実現しなかった「陸上戦艦」のロマンを、この物語を通じて少しでも感じていただけたなら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ