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銀河戦記フライハイト 〜廃棄惑星から始まる銀河帝国滅亡史〜【祝40万PV】  作者: 廣瀬誠人
第9章 分離独立編

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第87話 映画公開

 数週間後。


 銀河帝国のエンターテインメント界に、激震が走った。


 クロウ・フォン・フライハイト勇爵、監督・脚本・そして主演作品。


『キャプテン・クロウとネメシスの伝説』。


 ギャラクティカ・ムービー社による大規模なプロモーションと共に、帝国内の主要な全映画館で同時公開されたその映画は、公開初日から伝説となった。


 ***


 帝国首都星(セントラル)の映画館。


 エンドロールが流れ終わり、館内の照明が点灯しても、観客たちは誰一人として席を立つことができなかった。


 あまりの衝撃に、腰が抜けていたのだ。


 数秒の静寂の後。


 誰かが震える声で呟いた。


「……すげえ」


 それが引き金となり、爆発的なざわめきが広がった。


「おい見たか!?なんだあれ!今まであんなリアルな映画見たことないぞ!」


「CGのクオリティがおかしいだろ!ネメシスのあのヌメヌメした質感とか、爆発した時の肉片の飛び散り方とか……まるで実写みたいだったぞ!」


 そして、興奮の矛先は映像美だけではなく、スクリーンの中心で暴れ回っていた「あの男」にも向けられた。


「それにしても……主演があのフライハイト勇爵本人ってマジかよ!?」


「ああ!パンフレットにも書いてある!スタントなしで本人が演じてるらしいぞ!」


「貴族様が自らアクション映画の主演なんて前代未聞だろ……。でも、悔しいけどめちゃくちゃ様になってたな!あの不敵な笑み、男でも惚れるぜ!」


「最後の『スーパー・ノヴァ』発射の時の決め顔、痺れたわ……!あんなカッコいい貴族、他にいないって!」


 帝国中で、同様の光景が繰り広げられていた。


 SNSや銀河ネットワークは、映画の感想一色に染まり、ハッシュタグ「#キャプテン・クロウ」「#戦う勇爵」がトレンドを独占した。


 ***


 帝国首都星、中央放送局。


 ニュース番組のスタジオでは、アナウンサーが興奮気味に原稿を読み上げていた。


『――速報です!先日公開されたクロウ・フォン・フライハイト勇爵の初監督作品、『キャプテン・クロウとネメシスの伝説』ですが、まさに社会現象となっております!』


 画面には、映画館に長蛇の列を作る人々の映像と、跳ね上がる興行収入のグラフが表示される。


『初週の興行収入は、過去のあらゆる記録を塗り替え、歴代最速で1000億クレジットを突破!配給元のギャラクティカ・ムービー社の株価はストップ高となっております!』


 さらに、画面には映画のポスター――不敵に笑うクロウと、背後のラグナロクが描かれたもの――が大写しになる。


『本作は、監督のみならず、主演男優も勇爵ご本人が務めるという異例のキャスティングが大きな話題を呼んでいます!高貴な身分でありながら自ら前線で戦う「闘う貴族」としての姿に、帝国中の女性ファンが急増中!劇中に登場する超弩級戦艦「ラグナロク」のプラモデルや、クロウ閣下のブロマイドなどの関連グッズは、発売と同時に即完売!帝国全土に、空前の「キャプテン・クロウ旋風」が巻き起こっています!』


 ***


 フライハイト勇爵領、ノルド・ステーション。


 その一角にある領主執務室で、俺はホログラム・ニュースを見ながら、満足げに脚を組んでいた。


「ふん。……『実写みたいなクオリティ』だってよ」


 俺はグラスを傾け、ニヤリと笑った。


「そりゃそうだ。実は本当に『実写映画』だからな。……CGクリエイターが聞いたら、商売あがったりだと泣くレベルだろ」


 誰も、あの映像が「隣の銀河で実際に起きた虐殺劇」だとは思っていない。


 平和ボケした帝国臣民にとって、あれは極上のエンターテインメントであり、俺は「才能ある映画監督」にして「銀河一の映画俳優」として認知されたわけだ。


 傍らに控えるシズが、タブレットを確認しながら報告する。


「マスター。ギャラクティカ・ムービー社より、初週分の利益配当が振り込まれました。……莫大な金額です。これだけで、領内のインフラ整備予算が数年分賄えます」


「はっはっは!ボロい商売だな。ローレンスの奴も、今頃笑いが止まらん顔をしてるだろうよ」


 俺は立ち上がり、窓の外に広がる宇宙港を見下ろした。


 そこには、映画の影響で観光客が増えたのか、以前より多くの民間船が行き交っている。


「だがシズ。……これだけじゃ終われないな」


「と、おっしゃいますと?続編の製作ですか?」


「いや。……とどめの一撃だ」


 俺は瞳を鋭く光らせた。


「ローレンスに連絡しろ。『公式ガイドブック』を出版するとな」


「ガイドブック、ですか?」


「ああ。映画の設定資料集という名目で……『ネメシスの詳細な生態図鑑』を出版するんだ」


 俺は悪戯っぽく笑った。


「奴らの繁殖方法、弱点、身体構造、攻撃パターン……。ゼーベックたちから得た本物のデータを、事細かく書いてバラ撒いてやる。『監督・主演を務めたクロウ閣下のこだわり設定』としてな」


 シズが目を丸くした後、微かに口元を緩めた。


「……なるほど。一般市民には『凝った設定』として楽しまれますが、ネメシスの正体を知る『皇族』にとっては……」


「自分たちの飯のタネである『極秘情報』が、一般書店で1000クレジットで売られることになる。……顔面蒼白になるだろうぜ」


 俺は指を鳴らした。


「それに、もし将来ネメシスが攻めてきた時、このガイドブックが国民にとっての『攻略本』になる。……一石二鳥だろ?」


「承知しました。ローレンス社長にもその件を伝えます。彼もこの盛況ぶりなら、二つ返事で大歓迎でしょう」


「頼んだぞ。……さあ、面白くなってきやがった」


 俺の映画製作は大成功だった。


 金も、名声も手に入れた。


 だが、本当の「効果」が現れるのはこれからだ。


 俺はグラスの酒を干し、不敵な笑みを浮かべた。


 皇宮の奥深くで震えているであろう、名も知らぬ「観客」たちのことを思いながら。

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