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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第6章 監獄惑星編

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第63話 叛逆者たち

 あれから数ヶ月が経った。


 俺、クロウ・フォン・フライハイトは、本拠地であるノルドステーションの執務室で、優雅にコーヒーの香りを楽しんでいた。


 窓の外を見下ろせば、宇宙港にはひっきりなしに客船が出入りしているのが見える。


 その多くは、先日傘下に収めた「ジルブライト領」へ向かう観光船だ。


 ジルブラン保養惑星計画は、予想以上の大成功を収めていた。


「マスター。本日もジルブラン行きの定期便は満席です。フライハイト領のみならず、各寄子たちの領土からも毎日シャトルが運行されており、いずれも稼働率は100%近くを維持しています」


 傍らに控えるドロイドのシズが、淡々と、しかしどこか満足げに報告する。


「ああ、やって正解だったな。領民たちの満足度も高い」


 各寄子の領地で働く労働者たちは、一生懸命働き、その報酬としての福利厚生でジルブランの美しい海と温泉を満喫する。


 リフレッシュした彼らは、愛国心(愛社精神)を高め、さらに熱心に働く。


 俺の直轄領だけでなく、傘下の貴族領全体でこの好循環が生まれているのは大きい。


 だが、順調なのは観光業だけではない。


 俺は手元のホログラムディスプレイに、勢力圏各地の映像を映し出した。


 映っているのは、巨大なクレーンやドックが並ぶ「造船所」の建設風景だ。


 それも一箇所ではない。


 フライハイト領内はもちろん、寄子たちが治める各惑星のあちこちで、大規模な工事が行われている。


「造船事業も、表向きは順調に進んでいるようだな」


「はい。フライハイト領だけでなく、寄子たちの領土に建設中の各造船所において、大型戦艦の建造準備が次々と完了しています。帝国メディアも『フライハイト派閥、銀河規模での造船産業ネットワークを構築』と報じています」


 俺はニヤリと笑った。


 そう、これはあくまで「表向き」のものだ。


 本当ならば、俺の持つ万能物質(マター)製造工場を使えば、戦艦のブロック区画ごと一瞬にして製造し、建設ドロイドを使って組み立てることが可能だ。


 その気になれば、戦艦一隻を建造するのに1週間もかからない。


 だが、それを大っぴらにやるわけにはいかない。


 通常の造船所では、戦艦一隻の建造に半年から一年はかかるのが常識だ。


 もし俺が「パンを焼くような速度」で戦艦を量産していると知られれば、帝国中枢は間違いなくパニックに陥り、なりふり構わず総攻撃を仕掛けてくるだろう。


 まだ、その時ではない。


「帝国に違和感を与えないためのカモフラージュだ。『各領地の経済振興のために造船所を作り、現地で雇用を生み出しながら時間をかけて建造している』というポーズが必要だからな」


 実際には、裏で工場ラインをフル稼働させて作った完成品に近いパーツを、夜間にこっそり運び込んで「組み立てているフリ」をしているだけなのだが。


 それでも、寄子たちにとっては「領内に巨大産業が来た」ことになり、雇用も税収も潤う。


 経済状況は極めて順調だ。


「ジルブライト領以外の寄子の数は、あれ以来増えてはいないが……」


 俺は地図を見る。


 急激な拡大は歪みを生む。


 今は地盤固めの時期だ。


 その代わり、領境に接する中小の領主たちには、経済支援や技術提携という形で恩を売り、実質的に懐柔している。


 彼らは名目上は帝国の貴族だが、財布の紐は俺が握っている。


 いざという時、彼らは帝国との優秀な「緩衝地帯」になってくれるだろう。


「ふぅ……少し休憩するか」


 仕事が一段落し、俺が席を立とうとした瞬間だった。


 デスクの通信端末が明滅し、特定の呼び出し音が鳴った。


 表示された名前は『ビアンカ・フォン・ステラ女男爵』。


 旧ローゼンバーグ領を任せている、あの試験1位の才女だ。


「ビアンカか。珍しいな」


 俺は再び椅子に座り、通信を繋いだ。


 空中にホログラムが展開され、凛とした軍服姿の美女が現れる。


『勇爵閣下、お忙しいところ申し訳ありません。ビアンカです』


「ああ、どうした?何かあったか?また反乱分子でも湧いたか」


 俺が軽口を叩くと、ビアンカは少し困ったように苦笑した。


『いえ、領内は至って平穏です。閣下のドロイド軍によるパトロールは完璧ですので。……ただ、そのパトロール中に少し厄介な連中を捕縛しまして』


「厄介な連中?」


『はい。領内の廃工場跡地に潜伏していた集団を拘束したのですが……照合したところ、帝国から指名手配されている「反帝国のレジスタンス組織」の幹部クラスであることが判明しました』


「反帝国?レジスタンスか」


 俺は眉をひそめた。


 腐敗した帝国に反旗を翻す組織。


 彼らは各地でテロやサボタージュを行っており、帝国軍の目の敵にされている存在だ。


『彼らの処遇はいかがいたしましょうか?帝国法に照らし合わせれば、即刻処刑、あるいは帝国軍への引き渡しが義務付けられていますが』


 ビアンカは試すような目でこちらを見ている。


 俺は少し考え、すぐに結論を出した。


「すぐに処分をと言いたいところだが……悪いがビアンカ、そいつらをノルドステーションまで送ってくれないか?」


 その言葉に、ビアンカは「やはり」といった顔で溜息をついた。


『また閣下の悪巧みですか?……なんとなく、閣下のことが分かってきた気がします。普通に処刑するような方なら、そもそも私たちのような者を登用しませんものね』


「人聞きの悪いことを言うな。ただの有効活用だ」


『ふふ、了解です。至急、厳重な警備をつけてそちらへ移送します。くれぐれも、寝首をかかれないようご注意を』


 通信が切れる。


 横で聞いていたシズが、冷ややかな声で尋ねてきた。


「マスター。反帝国のレジスタンス組織をどうなさるおつもりですか?彼らは危険分子です。帝国への忠誠を示すなら引き渡すべきですし、リスクを避けるなら処刑すべきです」


「帝国への忠誠なんて、鼻紙にもならんよ」


 俺は鼻で笑った。


「フライハイト家は確かに強大になった。だが、帝国全土を網羅しているわけではない。俺たちの目は、あくまで『表社会』にしか届いていないんだ」


 俺は指を組んだ。


「レジスタンスは、帝国の厳しい監視網をかいくぐり、数百年も活動を続けてきた。彼らが持つ『地下ネットワーク』、裏の流通ルート、隠れ家、そして帝国軍内部の情報源……それらは、今の俺たちが持っていない強力な武器だ」


「それを手に入れる、と?」


「ああ。金や武力で買えない情報を持っているなら、手を組む価値はある」


 シズはしばらく計算するように沈黙していたが、やがて小さく頷いた。


「……承知しました。確かに、情報網の拡大は急務です。ですが、相手は思想犯です。狂信的な正義感は、時に損得勘定を超えます」


 シズが一歩前に出る。その瞳が鋭く光った。


「どうせ彼らと直接面会するとおっしゃるんでしょう?私と、武装したドロイド兵100体を同行させてください。彼らの思想が、マスターに仇なすものだと判断した瞬間、即座に排除します」


「100体か。狭い面会室がパンパンになるな」


 俺は苦笑したが、拒否はしなかった。


「ああ、分かっているよ。人を信用しすぎるのは良くないからな。用心棒は頼もしいに限る」


 ***


 数日後。


 ノルドステーションの地下深くに設けられた特別尋問室。


 そこには、手錠と足枷を嵌められ、薄汚れた服を着た数名の男女が座らされていた。


 その中央に、一際鋭い眼光を放つ小柄な女性がいた。


 彼女の首筋には、5等民が装着させられている爆発首輪を外した跡があった。


 本来は貴族にしか外せない代物だが、どうやらレジスタンスの技術で解除に成功したらしい。


 名前はクロエ。


 今回の捕縛者たちのリーダーだ。


 彼女たちの周りには、シズの要請通り、100体の戦闘ドロイドが壁のように整列し、赤いセンサーの光を向けている。


 ガチャリ、と重い扉が開く。


 俺は悠然と部屋に入り、彼らの対面に置かれた革張りの椅子に座った。


 シズが背後に立ち、その手にはいつでも抜けるように隠しナイフが握られている気配がする。


「ようこそ、ノルドステーションへ。居心地はどうだ?」


 俺が声をかけると、クロエは顔を上げ、憎々しげに俺を睨んだ。


「……勇爵、クロウ・フォン・フライハイトか」


 ハスキーだが、よく通る声だ。


「帝国の犬め。貴様のような成り上がり貴族に捕まるとは、私たちも運が尽きたわね。さっさと殺しなさい。私たちは何も喋らない」


 典型的な反応だ。


 貴族=悪、という図式が骨の髄まで染み付いているのだろう。


「殺す?なぜそんな無駄なことをしなきゃならん」


 俺は肩をすくめた。


「俺は『生産者』だ。無益な破壊や殺戮は好まない。俺が興味あるのは、お前たちの命ではなく、お前たちが持っている機能だ」


「機能だと?我々を奴隷にするつもりか!」


「人聞きが悪いな。ビジネスパートナーと言ってくれ」


 俺は指を鳴らした。


 ドロイドの一体が、テーブルの上に盆を置く。


 そこには湯気の立つ温かいスープと、焼きたてのパンが乗っていた。


 レジスタンスたちの喉が、ゴクリと鳴るのが聞こえた。


 彼らは痩せ細り、慢性的な栄養失調状態にあることは明白だった。


「食えよ。毒なんて入ってない」


「……貴族の施しなど!」


「施しじゃない。これはプレゼンテーションだ」


 俺は彼らの目を見据えた。


「お前たちは帝国を倒したい。民を飢餓と圧政から解放したい。立派な思想だ。だが、現実はどうだ? お前たちが地下でコソコソと爆弾を作っている間にも、帝国の民は飢え、搾取されている。お前たちの活動は、民を救うどころか、治安悪化を招いて逆に苦しめている側面もあるんじゃないか?」


 クロエが唇を噛む。痛いところを突かれた顔だ。


「俺を見ろ。俺の領地では、誰も飢えていない。民は豊かで、安全で、未来に希望を持って働いている。帝国という枠組みの中にいながら、俺はすでに『理想』を実現しているぞ」


「それは……あんたが金を持っているからよ!汚い金で!」


「金も力だ。だが、俺が本当に持っているのは『生産力』だ」


 俺は身を乗り出した。


「単刀直入に言おう。俺に協力しろ。お前たちの持つ情報ネットワークを俺に寄越せ。代わりに、俺はお前たちに『力』を与える」


「力……?」


「資金、武器、隠れ家、そして食料だ。俺の庇護下に入れば、お前たちは凍えることも飢えることもなく、より効率的に帝国と戦う準備ができる」


 室内が静まり返る。


 クロエは出されたパンと、俺と、そして周囲のドロイドを交互に見た。


 葛藤している。


 プライドと、実利の間で。


「……いい話ね。確かに、今の私たちは限界に近い。あんたの庇護下に入れば、少なくとも飢え死にすることはなさそう」


 彼女はスープに手を伸ばしかけて、止めた。


 そして、俺を真っ直ぐに見据えた。


「でも、それだけじゃ足りないわ」


「ほう?命拾いした上に衣食住まで保証してやるというのに、まだ条件があるのか?」


「あるわ。もしあんたが本気で帝国と戦う気があるなら……『アインザッツ強制収容所』に囚われている私たちの仲間を解放して」


 その名前に、俺は眉をひそめた。


「アインザッツ……?聞いたことあるな。もしかして、あの元老院議長の領地か!?」


「マスター、その通りです」


 背後に控えていたシズが、即座に補足情報を読み上げる。


「ヴァルター・フォン・アインザッツ元老院議長。彼は元老院のトップであると同時に、帝国司法省大臣も代々務められています。法の番人を自称していますが、その実態は、反逆者を合法的に処理する施設を多数運営する、帝国の暗部そのものです」


 シズはそこで一呼吸置き、さらに不穏な情報を告げた。


「そして何より、彼が保有する私兵団は『アインザッツ特別行動部隊』と呼ばれ、その残虐性から帝国全土で恐れられています。彼らが通った後には、草木一本、子供一人残らないと言われるほどの……」


「特別行動部隊、か」


 俺はヴァルター議長の顔を思い出し、冷笑した。


 アインザッツ強制収容所。


 一度入れば二度と出られないと言われる、地獄の如き監獄だ。


「そこに、私たちの参謀役と多くの仲間が捕まっているの。彼らを助け出してくれたら、私たちの組織のすべてをあんたに預ける。命ごとね」


 クロエの瞳には、悲壮なまでの決意が宿っていた。


 これは、彼女なりの踏み絵なのだ。


 俺が口先だけの貴族か、それとも本当に帝国に牙を剥く覚悟がある男なのかを試している。


「……面白い」


 俺はニヤリと笑った。


「売られた喧嘩は買う主義でね。それに、あの議長の顔に泥を塗ってやるのも悪くない」


「ほ、本当にやる気なの!?あそこは鉄壁の監獄惑星よ!それに、あの特別行動部隊が出てきたら……!」


「鉄壁?特別行動部隊?俺の前では紙切れ同然だ。安心しろ、全員無傷で連れ戻してやる」


 俺は立ち上がり、シズに指示を出した。


「シズ、作戦準備だ。今度は隠密行動になるかもしれんが、派手にやるぞ」


「承知しました、マスター。……また忙しくなりそうですね」


 シズは呆れたように言ったが、その表情はどこか楽しげだった。


 こうして、俺たちは新たな火種へと自ら飛び込んでいくことになったのだった。

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