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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第5章 ジルブライト領編

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第62話 未来への盟約

 白銀の巨艦、戦艦『フェンリル』が、惑星ジルブランの重力圏へと滑り込む。


 つい先刻まで、この星の軌道上を埋め尽くしていた1万の悪意は、もはや宇宙の彼方へと消え失せていた。


 あるのは静寂と、変わらぬ輝きを放つ青い海、そして深い緑の大地だけだ。


「着陸シークエンス、完了。エンジン停止」


 シズの報告と共に、フェンリルが地響きを立てて宇宙港に着陸した。


 プシューッ、という減圧音と共にハッチが開く。


 俺、クロウ・フォン・フライハイトは、親友のアレクと共にタラップの上に立った。


 その瞬間。


『うぉおおおおおおおおおおっ!!!』


『万歳!フライハイト勇爵万歳!』


『ジルブライト万歳!俺たちの星が助かったぞぉぉぉ!』


 大地を揺るがすような大歓声が、俺たちを迎えた。


 宇宙港を埋め尽くしているのは、ジルブライト領の領民たちだ。


 彼らは皆、空を見上げ、涙を流しながら手を振っている。


 無理もない。


 彼らはつい数十分前まで、「宇宙海賊による略奪と死」という絶望の淵に立たされていたのだ。


 それが、たった一隻の戦艦によって奇跡的に救われた。


「すごい……。みんな、来てくれたんだ」


 アレクが感極まったように呟く。


 1万隻の艦隊を1隻で打ち破るなど、帝国の長き歴史の中でも聞いたことがない。


 それは神話の再現であり、奇跡そのものだった。


「人気者は辛いな、アレク。手くらい振ってやれ」


「茶化さないでくれよ。……でも、ありがとう。本当に」


 俺たちがタラップを降りていくと、歓声はさらにボリュームを上げた。


 警備兵が必死に人波を抑えているが、その興奮は最高潮に達している。


「勇爵様ー!こっち向いてー!」


「一生ついていきます!」


「あんたは神様だ!」


 俺は笑顔で手を振りながら、その熱狂の中を歩いていた。


 その時だった。


「ど、どいてぇぇぇぇっ!そこを通してぇぇぇぇッ!」


 人混みの中から、悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。


 警備の列を強引に突破し、猛スピードで走ってくる影がある。


 ボサボサになった髪、ズレた眼鏡。


 そして手には白い色紙とマジックペン。


「はぁ、はぁ、はぁっ!勇爵閣下!閣下ァァッ!」


 それは、フェンリル到着時に通信で絶叫していた、あの女性管制官だった。


 彼女は肩で息をしながら、俺の目の前で急停止した。


「か、感動しました!あのレーザー!ドギュンって!海賊たちが一瞬で!もう、最高にスカッとしました! 私、一生の思い出です!」


 彼女は興奮のあまり早口でまくし立てると、震える手で色紙を突き出した。


「お、お願いです!サインを!家宝にしますから!あと握手も!いや、むしろ踏んでください!」


「……踏みはしないが、サインくらいならいいぞ」


 俺は苦笑しながらマジックを受け取り、サラサラとサインを書いた。


『祝・完全勝利クロウ・フォン・フライハイト』


「ほらよ」


「ひゃあぁぁぁぁッ!ありがとうございますぅぅぅ!死んでも離しません!」


 彼女は色紙を抱きしめ、その場でへなへなと崩れ落ちた。


 シズが「迷惑です、下がってください」と冷たくあしらっているが、彼女は至福の表情で気絶しかけている。


 なんとも騒がしいが、平和な光景だ。


 ***


 騒ぎを抜けた先には、家族が待っていた。


「パパッ!おかえりなさーい!」


 ルルが弾丸のように飛び込んでくる。俺はそれをガシッと受け止めた。


「ただいま、ルル。いい子にしてたか?」


「うん!あのね、お空がピカッて光って、パパが勝ったの分かったよ!パパかっこいい!」


「おかえりなさいませ、クロウ様。ご無事で何よりです」


 シャルロットが安堵の笑みを浮かべて歩み寄る。ギリアムも深々と頭を下げた。


「旦那様、お見事でした。屋敷から拝見しておりましたが、あの花火は少々派手すぎましたな」


「ハハハ、掃除には強力な洗剤が必要だからな」


 そして、その奥からアーネスト・フォン・ジルブライト男爵が進み出た。


 彼の目は赤く腫れていたが、その表情は晴れやかだった。


「勇爵閣下……。この度は、本当に……本当にありがとうございました。貴方様のおかげで、この星の自然も、民の命も守られました」


 男爵は俺の手を両手で握りしめ、深々と頭を下げた。


「礼には及びません、男爵。友人の家が荒らされそうだったから、追い払っただけのこと」


「貴方にとっては『追い払った』程度かもしれませんが、我々にとっては歴史に残る救済です」


 そこに、フラッシュの光が焚かれた。


 ジルブライト領のローカルメディアたちが、囲み取材のために集まっていたのだ。


 カメラとマイクが俺たちに向けられる。


「フライハイト勇爵!今回の勝利について一言!」


「あの巨大戦艦の強さは一体!?」


「今後のジルブライト領との関係は!」


 矢継ぎ早に飛んでくる質問。


 俺は一度咳払いをして、アレクと男爵を両脇に招いた。


「いいだろう、説明してやる。……だがその前に、俺とジルブライト男爵から、重大な発表がある」


 俺はカメラに向かって、堂々と宣言した。


「今回、俺たちがここに来たのは、単なる観光ではない。この美しい惑星ジルブランと、我がフライハイト家による共同プロジェクト、『ジルブラン保養惑星計画』を始動させるためだ!」


 記者たちがざわめく。


「保養惑星計画、ですか!?」


「そうだ。今まで帝国のリゾートといえば、一部の特権階級だけのものだった。だが、俺はそれを変える」


 俺は言葉に力を込めた。


「今後、フライハイト領の一般市民、つまり平民たちが多くこの星へやってくることになる。彼らのほとんどは、無機質な宇宙コロニー育ちだ。海も、森も、本物の空も知らない」


 俺は周囲に広がる緑を見渡した。


「だが、このジルブランにはそれがある。俺の領民たちは、この自然を見たら泣いて喜ぶだろう。俺は、彼らに『生きる喜び』を知ってほしいんだ」


 そして、俺は領民たちに向かって呼びかけた。


「ジルブライト領の皆も、彼らを優しく迎えてやってくれ!彼らは金持ちではないが、勤勉でいい奴らだ。彼らがこの星で癒やされ、その対価としてこの星に経済的な潤いがもたらされる。これは、双方にとっての希望の計画だ!」


 俺の言葉が終わると、一瞬の静寂の後、再び割れんばかりの拍手が巻き起こった。


「ようこそ!」「歓迎するぞ!」という声が飛び交う。


 よそ者を排除するのではなく、受け入れることで共に栄える。


 そのビジョンが共有された瞬間だった。


 続いて、アーネスト男爵が一歩前に出た。


 彼は緊張した面持ちで、しかしはっきりとした口調で告げた。


「……加えて、私からも発表があります」


 男爵は俺の方に向き直り、その場に片膝をついた。


 それは、貴族としての最大の礼節であり、服従のポーズだ。


「アーネスト・フォン・ジルブライトは、ここに誓います。……フライハイト勇爵閣下。この度は我が領を救っていただき、また未来への希望を示していただき、ありがとうございました。我が領は、貴方様の『寄子』となりたく存じます!」


 その宣言に、記者たちも、民衆も息を呑んだ。


 寄子になるということは、事実上の傘下に入り、運命を共にすることを意味する。


 だが、そこには強制された屈辱感はない。


 あるのは、強力な守護者を頼る安堵と、未来への期待だけだ。


 俺は男爵の手を取り、立たせた。


「ああ、受けて立とう。この星は、俺たちにとっても守るべき『希望』だ。もちろんだとも、歓迎するよ、男爵。いや、これからは同志と呼ばせてもらおう」


「はっ……!光栄の極みです!」


 固い握手が交わされた。


 カメラのフラッシュが、その歴史的瞬間を切り取る。


 こうして、フライハイト勇爵家の勢力圏に、新たに「ジルブライト男爵領」という、かけがえのない楽園が加わることになったのだ。


 ***


 一通りの式典と取材を終え、出発の時が来た。


 フェンリルのエンジンが再び火を噴き、離陸準備に入る。


「じゃあな、アレク。またすぐに来る。第一陣の観光客船団は、再来週には到着する手はずだ」


「ああ、待ってるよクロウ。……本当にありがとう。君は最高の友人だ」


 アレクと拳を合わせる。


 言葉は多くいらない。学生時代からの絆は、この戦いと計画を通じて、より強固なものになった。


「パパ、また海きたい!」


「ああ、今度は水着を持ってこなきゃな」


 シャルロットとルルも、名残惜しそうに手を振っている。


 俺たちはフェンリルに乗り込んだ。


 ハッチが閉まり、ブリッジへと上がる。


「フェンリル、発進」


 轟音と共に、白銀の巨体が空へと舞い上がる。


 眼下には、手を振り続けるアレクたちと、無数の領民たちの姿が小さくなっていく。


 そして、その周囲には青い海と緑の大地が広がっている。


「いい星だ」


 俺は呟いた。


「マスター。今回の遠征、収支計算および政治的効果、共に『極めてプラス』です」


 シズが満足げに報告する。


「ああ。だか、それ以上のものを得た気がするな」


 俺はモニターに映る青い惑星を見つめた。


 守るべきものが増えた。


 それは弱点にもなり得るが、今の俺にとっては、帝国と戦うための新たな力だ。


「さあ、帰るぞ!俺たちの領地も、もっと忙しくなるぞ!」


 フェンリルは推進剤の光跡を残し、大気圏を突破する。


 颯爽と宇宙の彼方へ飛び去るその姿は、新たな時代の風が吹き始めたことを、銀河中に告げているようだった。

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