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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第5章 ジルブライト領編

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第60話 宇宙海賊再び

 ジルブライト家の自慢である「生ける大樹の屋敷」。


 その幹の中腹に設けられたダイニングルームは、温かいオレンジ色の光に包まれていた。


 テーブルには、今日見てきたばかりの海で獲れた新鮮な魚介類や、森の恵みである山菜や果実をふんだんに使った料理が並んでいる。


 どれも、帝国の高級レストランで出されるような過剰な味付けのものではなく、素材の生命力をダイレクトに感じる、滋味深い味わいだ。


「……なんと。そのような計画を、本気で考えてくださるのですか?」


 メインディッシュの魚料理に舌鼓を打っていた時、俺が切り出した『ジルブラン保養惑星計画』を聞いて、当主であるアーネスト男爵はフォークを取り落とさんばかりに驚いていた。


「ああ、本気だ。俺の領地の労働者たちへの福利厚生として、この星への観光旅行をプレゼントする。旅費は全額俺が出すし、観光インフラの整備費用もフライハイト家が負担しよう。その代わり、ジルブライト家には彼らの受け入れと、この素晴らしい自然環境の維持をお願いしたい」


 俺が改めて説明すると、アーネスト男爵の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「ありがとうございます……!本当に、ありがとうございます……!」


 男爵は震える声で感謝を述べた。


「実は、領地の財政は火の車でしてな。この豊かな自然を守るには金がかかる。かといって、資源を乱獲して自然を壊すことはしたくない……八方塞がりだったのです。このままでは、我が領地は100年後も発展しないまま、いずれ立ち行かなくなるだろうと覚悟しておりました」


「父さん……」


 アレクも父親の苦労を知っているだけに、感極まった表情をしている。


「ですが、勇爵閣下の計画ならば、自然を守りつつ、領民たちにも新たな産業をもたらすことができる。まさに理想的な解決策です。貴方様は、我々にとっての救世主です!」


「よしてください、男爵。これはビジネスです。俺も領民の生産性が上がって得をする。Win-Winというやつですよ」


 俺はワイングラスを傾けながら笑った。


 これで話はまとまった。


 あとは細かい契約内容や、第一陣のツアー日程などを詰めるだけだ。


「シズ、あとの事務的な手続きは任せていいか?」


「承知しました、マスター。すでに契約書は作成済みです。のちほど男爵様の端末へ送信いたします」


 平和な時間が流れていた。


 ルルもデザートのフルーツタルトを頬張り、「おいしー!」と笑顔を振りまいている。


 このまま楽しい夜が更けていくはずだった。


 ――その時だった。


『ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』


 突然、屋敷中に不快な警報音が鳴り響いた。


 ダイニングルームの照明が赤く明滅し、楽しげな空気が一瞬にして凍りつく。


「な、なんだ!?」


 アーネスト男爵が立ち上がる。


 直後、部屋の中空にホログラムウィンドウが強制展開された。


 映し出されたのは、政庁の詰め所にいる文官の姿だ。


 彼は顔面蒼白で、脂汗を流しながら叫んでいた。


『緊急事態発生!男爵様、領内に敵影あり!正体不明の艦隊がワープアウトしてきました!』


「敵だと!?こんな辺境にか?識別信号は!」


『照合完了……「ブラッディ・スカル」!宇宙海賊です!』


「宇宙海賊……ッ!」


 アレクが息を呑む。


 宇宙海賊。


 それは、帝国の支配が行き届かない辺境宙域を荒らし回るハイエナどもだ。


 彼らは略奪、誘拐、破壊の限りを尽くし、草木一本残さず奪い尽くす。


『敵艦隊の規模、およそ1万隻!すでに軌道上のシールドジェネレーターが破壊されました!』


「い、1万だと……!?」


 その数字に、アーネスト男爵が椅子に崩れ落ちそうになる。


「馬鹿な……。我が領の戦闘艦は、旧式の巡洋艦を含めても1000隻にも満たないんだぞ!?10倍以上の戦力差など、勝負にすらならん!」


「周辺領主への応援要請は!?」


 アレクが叫ぶが、文官は首を横に振った。


『ダメです!敵は強力なジャミングを展開しており、通信が遮断されています!完全に孤立しました!くそっ、奴ら、最初からこの星を根こそぎ奪うつもりだ!』


 通信の向こうで、爆発音が聞こえる。


 すでに地上砲撃が始まっているようだ。


「なんということだ……」


 アーネスト男爵は絶望に顔を歪めた。


「こんな田舎の領地ではあるが、私たちが代々守り抜いてきた自然の宝がある。美しい森も、あの青い海も……奴らに踏み荒らされ、焼かれてしまえば、この星は何もなくなってしまう……!」


 彼らの脳裏に浮かぶのは、美しい故郷が火の海になり、領民たちが虐殺される地獄絵図だ。


 10対1。


 誰がどう見ても、詰んでいる。


 だが。


 この場には、その「常識」が通用しない男が一人いた。


「……おい、シズ。食べ終わったか?」


 俺はナプキンで口元を拭いながら、静かに立ち上がった。


「はい、マスター。大変美味しゅうございました」


「ならいい。行くぞ」


 俺の落ち着き払った態度に、アレクが呆然とする。


「い、行くって……どこへ?」


「決まっている。害虫駆除だ」


 俺は窓の外、夜空を見上げながら言った。


「先ほど決まっただろう?この星は、フライハイト家の『保養惑星』とすることが。つまり、この惑星ジルブランは、今この瞬間から俺の庇護下にあると言っても過言ではない」


 俺は男爵とアレクを見据えた。


「俺の所有物に手を出そうなんざ、いい度胸だ。……消すしかないな」


 その言葉には、絶対的な冷徹さと、傲慢なまでの自信が込められていた。


「ク、クロウ、それは無茶だよ!」


 アレクが慌てて俺の前に立ち塞がる。


「気持ちは嬉しいけど、相手は1万隻だぞ!?ジルブライト領の全戦力を投入しても数分で全滅する規模だ!いくらフェンリルが一騎当千の最新鋭艦でも、たった一隻で1万隻を相手にするなんて無謀すぎる!」


 アレクの言うことはもっともだ。


 通常の戦術論で言えば、10000対1など自殺行為でしかない。袋叩きにされて終わりだ。


「無謀?ふっ、違うなアレク」


 俺は不敵に笑い、親友の肩を叩いた。


「お前は忘れたのか?俺は半年前、たった1万の艦隊で、300倍近い大艦隊相手に完全勝利した男だぞ?」


「そ、それは地の利があったから……!」


「今回もあるさ。『フェンリル』という、最強の地の利がな」


 俺はシズに目配せをする。シズはすでに戦闘モードへの移行準備を完了していた。


「それに、お前はフェンリルの『本当の強さ』を知らない。あの船は、ただデカいだけの戦艦じゃないんだ。……まあ、見ていれば分かる」


「で、でも……!」


「安心しろ。あと、ジルブライト家の軍艦は一隻も出さなくていい。下手に動かれると射線に入って邪魔だ。フェンリルだけで十分だ」


 言い切る俺の姿に、アレクは言葉を失った。


 だが、その瞳には迷いがあった。親友を死地に行かせていいのか、という葛藤だ。


「……分かった」


 数秒の沈黙の後、アレクは顔を上げた。その目には決意の光が宿っていた。


「じゃあ、僕もついて行く!」


「アレク!?」


 男爵が驚くが、アレクは引かなかった。


「クロウ一人に行かせるわけにはいかない!これは僕の領地の問題だ。それに、もし君が言う通り『勝てる』なら、その戦いを目に焼き付けておきたい。次期領主として!」


「……ほう」


 俺はニヤリとした。


 怯えて逃げ出すのではなく、共に死地へ踏み込む覚悟を決めたか。


 やはり、こいつは俺の親友に相応しい男だ。


「いいだろう。特等席を用意してやる。フェンリルに乗れ」


「ありがとう!」


「シャルロット、ルル。俺たちはちょっと『掃除』に行ってくる。お土産は期待するなよ」


「はい、あなた。お気をつけて」


「パパ、がんばってー!わるい人たちをやっつけてね!」


 シャルロットは微塵も心配していない様子で微笑み、ルルは無邪気に手を振った。


 彼女たちは知っているのだ。俺が負けることなどあり得ないということを。


「ギリアム、二人の護衛を頼む」


「御意。二人には指一本触れさせませんぞ」


 ***


 俺、シズ、そしてアレクの三人は、エアカーでフェンリルの停泊している宇宙港へと移動した。


 先ほどまでの和やかな空気は消え失せ、その艦内は戦闘配備の冷たい静寂に包まれている。


「動力炉、臨界接続。全システム、オールグリーン。重力アンカー解除」


 シズがオペレーター席に座り、流れるような手つきでコンソールを操作する。


 俺は艦長席に座り、隣の副官席にアレクを座らせた。


「フェンリル、発進!」


 ズズズズズ……と地響きが鳴り、白銀の巨艦が浮上する。


 夜の闇の中で、フェンリルの流体金属装甲が月光を反射し、青白く輝く。


 大気圏を突き破る速度で上昇を開始すると、あっという間に星空が近づいてきた。


「高度100km、宇宙空間へ到達。敵艦隊を捕捉しました」


 メインモニターに、無数の赤い光点が映し出される。


 まるでイナゴの大群だ。


1万隻の宇宙海賊船が、ジルブランの軌道上を埋め尽くしている。


 粗悪な改造戦艦や、略奪した輸送船を武装化したものばかりだが、数は暴力だ。


『あぁん?なんだありゃ?一隻だけで上がってきたぞ?』


 敵からのオープン回線が入る。


 下卑た笑い声と、嘲るような言葉。


『おい見ろよ!ピカピカの高級船だ!領主の逃走用か!?』


『へへへ、いただきだ!中には金銀財宝がどっさり積んであるに違いねえ!』


『野郎ども、囲め囲め!傷つけずに拿捕して、中身をいただくぞ!』


 海賊たちはフェンリルの美しさに目を奪われ、それが自分たちを滅ぼす死神であることに気づいていない。


「……舐められたものだな」


 俺は冷ややかに呟いた。


「クロウ、囲まれるぞ!シールドを最大展開して……」


 アレクがモニターを見て焦る。


 1万の砲門がこちらに向けられているのだ。生きた心地がしないだろう。


 だが、俺は足を組み、優雅に指を鳴らした。


「慌てるなアレク。……シズ、教育の時間だ」


「イエス、マスター」


 シズが無表情のまま、ウェポンシステムのロックを解除する。


「敵さんは数が多くて元気なようだが、あいにく俺は食事のあとで眠いんだ。手早く終わらせるぞ」


 俺はモニターに映る1万の光点を見据え、死刑宣告を下した。


「フェンリル、主砲発射準備。出力最大」


「了解。大出力レーザー砲、リミッター解除。エネルギー充填、完了しました」


 その瞬間。


 白銀の巨艦が、生物のように脈動を開始した。


 アレクの目が、驚愕で見開かれる。


 宇宙海賊たちが「恐怖」という感情を理解するまで、あと数秒。


 ジルブライト領の夜空に、流星群よりも鮮烈な閃光が走ろうとしていた。

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