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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第5章 ジルブライト領編

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第57話 原生林の都

 戦艦『フェンリル』が、惑星ジルブランの宇宙港に静かに着陸した。


 プシューッ、という減圧音と共にハッチが開き、タラップが大地へと伸びる。


「うわあ……!」


 最初に飛び出したのは、ルルだった。


 続いて俺、シャルロット、シズ、ギリアムと続く。


 船を降りた瞬間、俺たちの鼻孔をくすぐったのは、錆びた金属やオイルの臭いではない。


 濃厚な緑の香りと、湿り気を帯びた土の匂い。


 そして、どこか甘い花の香りだった。


「これが、自然の空気ですか……!」


 シャルロットが胸いっぱいに空気を吸い込み、恍惚とした表情を浮かべる。


 目の前に広がっていたのは、無機質なコンクリートの壁ではなく、視界を埋め尽くすほどの深い森だった。


 宇宙港といっても、森を切り開いて滑走路を作っただけの、極めてシンプルなものだ。


 だが、それが逆に心地よい。


 風が吹くたびに木々がざわめき、見たこともない極彩色の鳥たちが空を舞っている。


「すごいな。帝国の惑星とは大違いだ。どこを見ても緑、緑、緑だ」


 俺が感嘆していると、森の奥から一台のエアカーが滑るように近づいてきた。


 少し塗装が剥げているが、手入れの行き届いたエアカーだ。


 運転席から、亜麻色の髪をした青年が降りてくる。


「クロウ!」


「アレク!久しぶりだな!」


 俺たちは歩み寄り、ガシッと互いの腕を掴み合った。


 アレク・フォン・ジルブライト。


 学生時代の友人は、少し日焼けし、落ち着きを身に纏っていたが、その人懐っこい笑顔は変わっていなかった。


「本当に来てくれるなんてね。それにしても、あんな大きな船で来るとは思わなかったよ。港の端から端まで埋まっちゃったじゃないか」


 アレクが苦笑しながらフェンリルを見上げる。


 3000メートル級の戦艦は、こののどかな宇宙港にはあまりに場違いな威容を誇っていた。


「ハハハ、これでも(ラグナロクに比べたら)小さい方なんだがな...」


「相変わらず規格外だね。テレビでクロウのニュースも沢山見たよ。あちこちの領地を改革したり、ドロイド軍を率いたり……相変わらずすごいよ、君は」


「まあな。巷では、帝国首都星に60万隻で乗り込む男、銀河の1割を統べる男、帝国一の大富豪、元老院の悩みの種って呼ばれているらしいぞ。少しくらい派手に登場しないとな!」


 俺が胸を張って高笑いすると、アレクは呆れるどころか、嬉しそうに目を細めた。


「うん、君がすごすぎて、嫌味にも聞こえないよ。昔から『やる時はやる』って言ってたけど、本当に銀河を動かす男になっちゃうんだもんなあ」


「ふん、俺を誰だと思ってる。……紹介しよう。妻のシャルロットと、娘のルル、執事のギリアム」


「初めまして、アレク様。夫がいつもお世話になっております」


「はじめまして!ルルだよ!」


 シャルロットが優雅にカーテシーをし、ルルが元気に手を振る。


「やあ、初めまして。こんな何もない田舎へようこそ。歓迎するよ」


 アレクは二人にも気さくに挨拶を返すと、エアカーのドアを開けた。


「早速だけど、我が家の屋敷に案内するよ。ここから少し距離があるんだ。……まあ、帝国の一般的な貴族の様式ではないから、びっくりすると思うけど」


「ほう?びっくりする様式?」


 俺たちは顔を見合わせながら、エアカーに乗り込んだ。


 ***


 エアカーは森の上空を滑るように進んでいく。


 窓の外には、延々と続く原生林が広がっていた。時折、巨大な滝や、霧に包まれた渓谷が見える。


 人工物はほとんど見当たらない。


「本当に人が住んでいるのか?」


「ああ、人口は少ないけどね。みんな森と共生して暮らしているんだ。無理に開発するよりも、この自然の恵みを活かしたほうが豊かに暮らせるからね」


 アレクがハンドルを握りながら答える。


 数時間のフライトの後、エアカーは山岳地帯へと差し掛かった。


「見えてきたよ。あれが僕の家、ジルブライト男爵家の屋敷だ」


 アレクが指差した先を見て、俺たちは言葉を失った。


「な……なんだ、あれは!?」


 そこには、山の中腹にそびえ立つ、一本の「巨木」があった。


 ただの大木ではない。雲を突き抜けるほどに高く、太さは都市一つが入りそうなほど巨大だ。


 その幹のあちこちに窓があり、バルコニーが張り出し、枝の上にはテラスが作られている。


 夜になれば発光する苔や植物が明かりとなり、巨木全体が優しい光に包まれているのが見えた。


「天にも昇るような大樹をくり抜いて、屋敷が作られているのか……!?」


「まるで、森の妖精が住んでいそうな家ですね……!」


 シャルロットが目を輝かせる。


 コンクリートや金属で作られた要塞のような貴族の屋敷とは、根本的に概念が違う。


 それは自然そのものであり、同時に住居でもあった。


 エアカーが巨木の中腹にあるランディングポート(これも巨大な枝を加工したものだ)に着陸する。


 降り立つと、足元の木の床からは、微かな温もりが伝わってきた。


「すごい驚いてるね。でも、うちの領地じゃこの様式で家を作るのが一般的なんだ」


 アレクが誇らしげに巨木の幹を叩いた。


「この木は『ユグドラシルウッド』の亜種でね、非常に丈夫なんだ。こうして中をくり抜いて居住スペースを作っても、元気に生きている。樹液がパイプ代わりになって水を運んでくれるし、葉っぱが光合成をして新鮮な酸素を部屋に送ってくれる。まさに『生きてる家』だね」


「生きてる家……!」


 俺は壁に手を触れた。冷たい金属ではなく、脈打つような生命の鼓動を感じる。


 最新のテクノロジーを駆使した俺の要塞も凄いが、これはベクトルが違う「凄み」がある。


「パパ!ここ、妖精さんのお家なの!?」


 ルルがはしゃいで飛び回っている。


「ほっほっほ、これは素晴らしい。長年建築を見てきましたが、これほど見事な自然との調和は見たことがありませぬ」


 ギリアムも感心しきりだ。シズだけは「構造強度計算……問題なし」と冷静に分析していたが。


「着いて早速なんだけど、僕の父さんに挨拶して行きなよ。君たちが来るのを楽しみにしてたんだ」


「ああ、そうだな。挨拶させてもらおう」


 俺たちはアレクに案内され、巨木の中へと入っていった。


 内部は木目の美しさを活かした温かい色調で統一されており、家具もすべて職人の手作りと思われる木製のものばかりだ。


 豪華なシャンデリアや金の装飾品はないが、窓から差し込む木漏れ日が、どんな宝石よりも美しく室内を彩っていた。


 広間に通されると、一人の初老の男性が待っていた。


 質素だが品のある服を身にまとい、柔和な笑みを浮かべている。


 彼が、ジルブライト家の現当主、アーネスト・フォン・ジルブライト男爵だ。


「ようこそ、フライハイト勇爵閣下。そしてご家族の皆様。このような辺境の地へ、よくぞお越しくださいました」


 アーネスト男爵が深々と頭を下げる。


 俺は慌ててそれを制した。


「顔を上げてください、男爵。今日は友人として遊びに来ただけです。堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」


「ははは、そうですか。アレクから話は聞いておりましたが、本当に気さくな方だ。……いや、しかし本当に驚きましたよ。まさか、あの伝説の戦艦フェンリルが我が家の庭に降り立つとは」


 男爵は目を丸くして笑った。


「この地はご存知の通り、文明から取り残されたような場所でしてな。他所の家の方が、ましてや勇爵家のような雲の上の方がいらっしゃるなど、開拓以来初めてのことなのです。領民たちも『神様が降りてきた』と大騒ぎしておりますよ」


「神様とは大袈裟な。ですが、この星の美しさは、帝国のどの惑星よりも価値があります。感動しました」


「そう言っていただけると、守ってきた甲斐があります」


 男爵の目は、慈愛に満ちていた。


 欲にまみれた帝国の貴族たちとは違う。彼は本当にこの土地と、そこに住む人々を愛しているのだと伝わってくる。


「さあ、今日はもう遅い。積もる話もありましょうが、まずは旅の疲れを癒してください。森で採れた食材と、湧き水を使った料理しか出せませんが、歓迎いたしますぞ」


 その夜、俺たちは大樹の広間で、見たこともないほど新鮮な野菜や果物、そして川魚の料理をご馳走になった。


 味付けはシンプルだが、素材の味が濃厚で、どんな高級レストランよりも美味かった。


 ルルも口の周りを果汁だらけにして頬張っている。


 窓の外では、虫の音がオーケストラのように響き、夜光植物が幻想的な光を放っている。


 俺は木のカップに入った果実酒を飲みながら、アレクと学生時代の話に花を咲かせた。


「明日はどうするんだい?案内するよ」


「そうだな……やっぱり『海』が見てみたいな。ルルとの約束もあるし」


「わかった。とびきり綺麗なビーチに連れて行くよ」


 こうして、俺たちフライハイト家一行の、ジルブランでの最初の夜は更けていった。


 帝国の喧騒も、迫りくる戦争の気配も、この深い森の中では遠い世界のことのようだった。

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