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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第5章 内政編

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第54話 元老院の憂鬱

 フライハイト勇爵が行った「大粛清」から1ヶ月後。


 帝国首都星(セントラル)


 その中枢に位置する「帝国元老院」の議場には、澱んだ空気が立ち込めていた。


 普段であれば、派閥争いや利権の奪い合いで怒号が飛び交うこの場所も、今日ばかりは葬式のような静けさと、隠しきれない恐怖に支配されていた。


 議題はただ一つ。


『勇爵クロウ・フォン・フライハイトによる、大規模粛清と領地経営の成功について』である。


「……ありえん。これは悪夢だ」


 一人の老議員が、震える手でレポートを握りしめながら呻いた。


 そのレポートに記されているのは、彼らの予想を遥かに超える、絶望的な現実だった。


 彼らはクロウに銀河の1割という広大な、しかし荒廃した「ゴミ捨て場」のような領地を押し付けた。


 その狙いは明白だった。


 いかに勇爵といえど、これほど広大な領地の統治には忙殺されるはずだ。


 インフラは崩壊し、汚職役人は蔓延り、治安は最悪。


 そんな場所を押し付ければ、クロウは内政の泥沼に足を取られ、その莫大な財産を浪費し、やがては自滅するか、少なくとも帝国中央に牙を剥く余裕などなくなるだろう――。


 それが、元老院の、そして帝国の描いたシナリオだった。


「なぜだ……!なぜ奴は、あの『汚泥の海』を立て直すことができたのだ!?」


「代官の募集……まさか、あんな手を打つとは」


 別の議員が、悔しげに唇を噛む。


 クロウは自らがすべてを統治するのではなく、経営手腕のある者を「代官」として公募した。


 それだけならまだしも、彼は帝国への莫大な寄付金を用意し、その代官たち全員を「男爵」へと叙爵させたのだ。


 金に物を言わせた、前代未聞の身分売買。


 だが、手続き自体は合法的であり、誰も文句は言えなかった。


 そして、極めつけは「武力」の供与だ。


「新米領主たちに、合計1兆体もの戦闘ドロイドを与えただと……?1兆だぞ!?帝国の正規軍ですら配備できていない数を、奴は惜しげもなく!」


「そのドロイド軍による『大粛清』の報告も上がってきております。現地に根を張っていた汚職文官、犯罪組織……それらが、数日のうちに『物理的に』消滅しました」


「消滅……」


 議場に戦慄が走る。


 彼らの手元にある報告書には、凄惨な現場写真――ではなく、単に更地になった役所や、綺麗に掃除された街並みの写真が添付されていた。


 死体の山などない。


 すべてはドロイドによって効率的に処理され、あるいは対消滅縮退炉によって塵に帰したのだ。


「奴の残虐性は異常だ……。噂では、数千億人の汚職関係者が、たった一日で皆殺しにされたとか……」


「我々の息がかかった文官たちも含まれていたのだぞ!奴の足を引っ張り、内部から腐らせるはずだった駒が、ことごとく排除された!」


「次は……我々の番か……?」


 誰かが呟いたその言葉に、全員が息を呑んだ。


 自分たちが安全な首都星から操っていた糸は、すべて断ち切られた。


 そして、その刃の切っ先は、今や自分たちの喉元に向けられているような気がしてならなかった。


 さらに悪いニュースは続く。


「経済省からの報告です。フライハイト領に隣接する帝国領から、民の流出が止まりません。『あそこに行けば、税は安く、生活は豊かで、安全が保障される』という噂が広まり、夜逃げ同然に領境を越える者が後を絶ちません」


「馬鹿な!皇家の威光よりも、成金の餌が良いというのか!」


「事実です!このままでは、我々の領地は老人と無能な役人だけになり、生産能力が破綻します!」


 軍事的な脅威だけでなく、経済的、社会的な敗北までもが目前に迫っていた。


 フライハイト領は、まるでブラックホールのように帝国の国力を飲み込み、肥大化を続けている。


 議場全体が沈黙と絶望に包まれる中、一人の議員がおずおずと手を挙げた。


「……不敬を承知で申し上げますが」


 彼の声は震えていたが、そこには切羽詰まった決意があった。


「もはや、奴と戦うのはやめて……懐柔策に出るべきではないでしょうか?例えば、皇女殿下を降嫁させるなりして、奴を皇族に取り込むのです」


「なっ……!?」


 議場がどよめいた。


 それは、帝国のプライドを捨て、クロウに膝を屈するに等しい提案だった。


 だが、口にこそ出さないが、多くの議員が内心で「よく言ってくれた」と思っていた。


(正直、このままではマズい……!)


(奴に帝国ごと飲み込まれて、『フライハイト朝銀河帝国』になってしまうぞ!)


(自分たちの地位と財産が守れるなら、名前などどうでもいい!)


 彼らの脳裏には、玉座に座るクロウと、その足元で傅く自分たちの姿がリアルに浮かんでいた。


 それは屈辱的だが、「処刑」されるよりはマシだ。


 しかし、その弱気な空気を、一喝が切り裂いた。


「ならん!!」


 演壇の中央に座る、ヴァルター元老院議長が拳を叩きつけた。


「帝国は神聖不可侵であるからこそ帝国なのだ!成り上がりの、どこの馬の骨とも知れぬ若造に、高貴なる皇家の血を入れるなど言語道断!今の発言は聞かなかったことにする!」


「しかし議長!ではどうしろと言うのです!奴の軍事力はもはや一貴族のレベルを超えています!」


「黙れ!誇りを失った貴族など豚に等しいわ!」


 議論は平行線を辿り、ただ感情的な怒号だけが空回りする。


 そんな中、業を煮やした一人の強硬派議員が、矛先を変えて声を荒げた。


「そもそもだ!奴にあのような広大な領地を与えようと言い出したのは誰だ!ゼルク殿下!貴方でしょう!」


 視線が一斉に、議場の最上段、一段高い場所に設けられた「皇族席」へと集まる。


 そこには、優雅に足を組み、退屈そうに爪を眺めている第3皇子、ゼルク・フォン・グラングリア殿下の姿があった。


「……おや。私のせいになりますか?」


 ゼルクは顔を上げ、薄い笑みを浮かべた。


 非難の視線を浴びても、彼は動じる様子など微塵もない。


「貴方が!『どうせ統治などできまい』と仰って、奴に銀河の1割を譲渡する案を推したから、このような怪物が育ってしまったのですぞ!どう責任を取るおつもりか!」


 議員の唾が飛びそうなほどの剣幕に対し、ゼルクはひらひらと手を振ってあしらった。


「いやはや、勇爵の手腕には驚かされますな。まさか、あのゴミ溜めをあそこまで磨き上げるとは。私の予想を良い意味で裏切ってくれた」


「『驚かされますな』ではありません!事態は深刻なのです!」


「そうカッカなさらぬよう。彼の領地が豊かになったのなら、それは帝国の資産が増えたということ。喜ばしいことではありませんか」


「殿下は事の重大さを理解しておられない!」


 議員たちは口々に嘆き、あるいは憤る。


 だが、ゼルクの瞳の奥には、彼らが決して見ることのできない、冷徹な光が宿っていた。


(……騒ぐな、定命の小物どもが)


 ゼルクは内心で冷ややかに毒づいた。


 彼らが恐れるクロウの戦力。


 確かに1兆のドロイドや60万の艦隊は脅威だ。


 常識的に考えれば、帝国を転覆させるに十分な力だろう。


 だが、ゼルクは知っている。


 この帝国の地下深く、不老不死者(イモータル)のみが知る「真の兵器」の存在を。


(クロウ・フォン・フライハイト。確かに君は優秀だ。私の想定を超えてきた特異点だ)


 ゼルクは組んだ指の上で顎を乗せ、虚空を見つめる。


(だが、君が見ているのはあくまで『表層の帝国』に過ぎない)


 ゼルクにとって、クロウはまだ「管理可能な脅威」の範疇だった。


 むしろ、腐敗しきった元老院を揺さぶり、古い膿を出すための都合の良い道具ですらある。


「……まあ、議論が尽きないようですし、今日のところは散会としては?」


 ゼルクは気怠げに立ち上がった。


「勇爵については引き続き監視を強化し、必要であれば……私が『教育』して差し上げますよ」


 その言葉に含まれた不穏な響きに気づく者は、混乱する議場には誰もいなかった。


 ヴァルター議長も、渋々といった様子で閉会を宣言する。


「……本日の会議はここまでとする!各員、領地の引き締めを図れ!これ以上の失態は許されんぞ!」


 結局、具体的な対策は何一つ決まらないまま、会議は終わった。


 残されたのは、増大し続けるクロウへの恐怖と、根拠のないプライドにしがみつく老人たちの嘆きだけ。


 元老院の回廊を歩きながら、ゼルクは一人、嗜虐的な笑みを深めていた。


「さて、勇爵。次は何を見せてくれるのかな?精々、私を楽しませてくれたまえよ」


 帝国の闇は深く、そして重い。

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