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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第4章 懲罰戦争編

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第43話 元老院の策謀

 帝国首都星(セントラル)、帝国元老院。


 数十万人の議員を収容する、都市そのもののように巨大なドーム状の議場は、先ほどまでの「断罪の場」としての熱狂が嘘のように、重苦しい沈黙と、底知れぬ恐怖に包まれていた。


 元凶であるグライム・フォン・ローゼンバーグ公爵は、もはやこの場にはいない。


 彼は、元老院の地下から現れた黒衣の近衛兵たちの手によって、闇の中へと引きずられていった。


 彼を待っているのは、死よりも恐ろしい監獄棟(プリズン)「特別室」での、永遠に続く責苦だ。


 その身の毛もよだつ光景に対する戦慄もさることながら、この場に残された数十万の議員たちの心を支配していたのは、もっと直接的で、物理的な「暴力」への恐怖だった。


 議長席のヴァルター・フォン・アインザッツ公爵が、重い口を開いた。


 その声は、広大な議場の隅々までスピーカーを通して響き渡った。


「……諸君。グライムの処遇は決まった。だが、我々にはまだ、解決せねばならない別の、そして最大の問題が残っている」


 ヴァルターは手元のホログラム・スイッチを操作した。


 議場中央の空中に、現在の帝国首都星(セントラル)上空の映像が投影される。


「……これだ」


 映し出されたのは、美しい帝国首都星(セントラル)の空を黒く塗り潰す、おびただしい数の艦艇群だった。


 第一区画の特別ドックを埋め尽くし、入りきらない艦が軌道上を何重にも取り囲んでいる。


 その数、60万隻。


 帝国正規軍の一個方面軍に匹敵する大戦力が、今、帝国首都星(セントラル)の喉元に突きつけられているのだ。


 ヴァルターは告げた。


「フライハイト卿には、『取り潰しされた所領の再編について協議する必要があるため、明朝また出頭せよ』と伝えてある。だが……本質はそこではない。諸君も理解しているはずだ。この『怪物』を、どう扱うかだ」


 その言葉を皮切りに、数十万人がひしめく議場はパニックに陥った。


「異常だ!異常すぎる!」


 一人の議員が吠えた。


「たかだか一人の男爵が!私兵として60万隻を保有するなど、帝国建国以来の事態だぞ!しかも、彼はそれを『護送船団』だと言い張って、強引に帝国首都星(セントラル)へ乗り込んできた。これは明らかに我々に対する威圧だ!宣戦布告スレスレの行為だ!」


「その通りだ!」


 別の議員も立ち上がり、唾を飛ばして同調する。


「グライムの馬鹿め!奴が余計な戦争を仕掛けたせいで、我々は『戦争の天才』に餌を与えて太らせてしまった!1万隻ならば、帝国正規軍でどうにでもなる。だが、60万隻となれば話は違う!これはもはや、一個の独立国家レベルの軍事力だ!」


 議場がざわめく。


 数十万人の恐怖が共鳴し、地鳴りのような騒音となってドームを揺らす。


 彼らの脳裏には、先日の「セイレーン回廊」での一方的な虐殺劇が焼き付いている。


 あの男は、数的不利などものともしない。


 むしろ、敵が多ければ多いほど、それを逆手に取って食い尽くす戦術眼を持っている。


 軍事委員会の席から、制服組の議員が蒼白な顔で発言した。


「……試算が出ました。もし、フライハイト男爵が叛旗を翻し、帝国首都星(セントラル)攻略を開始した場合……我々が彼を撃退するために必要な戦力についてです」


「ど、どれくらいだ?倍の120万か?それとも200万か?」


「いえ……」


 軍事委員は震える声で告げた。


「彼は、300万の敵を、わずか1万で完封しました。その撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)をそのまま適用すると……彼が率いる60万隻を打ち破るには、その300倍。すなわち、1億8000万隻の艦隊が必要になります」


「い、1億……ッ!?」


 議場が凍りついた。


 1億8000万隻。


 それは数字上の遊びでしかない。


 天文学的な数字だ。


 財務委員が悲鳴を上げた。


「帝国の総人口は1000兆人。兵士の確保自体は可能でしょう。しかし!財政が破綻します!」


 彼はホログラムで真っ赤なグラフを表示した。


「1億8000万隻もの戦艦を建造するには、帝国の国家予算の数千年分が必要です!さらに、それを維持するための燃料、弾薬、整備費……。たとえ人がいても、金がない!そんな軍拡を行えば、戦う前に帝国経済が死滅します!」


 さらに、内務委員が頭を抱えて追加する。


「それに、彼はあの『音速の殺戮者』です。同じ貴族だろうとも、容赦なく殺します。交渉が不備に終われば、明日にはこの議事堂が消し飛ぶかもしれません!」


「誰か!誰か妙案はないのか!」


 怒号と悲鳴が飛び交う。


 だが、具体的な解決策は誰も出せない。


 討伐すれば返り討ちに遭う。


 かといって放置すれば、いずれ帝位を脅かす存在になる。


 議論は空転し、時間は無駄に過ぎていく。


 まさに「会議は踊る、されど進まず」。


 帝国の最高意思決定機関は、たった一人の男爵の影に怯え、機能不全に陥っていた。


 その時だった。


 喧騒の渦中にある議場に、凛とした、涼やかな声が響いた。


「――発言、いいだろうか?」


 その声は決して大きくはなかったが、不思議と数十万人の議員の耳に届き、パニックを鎮める力を持っていた。


 全員の視線が、議場の最上段、一段高い場所に設けられた「皇族席」へと向けられた。


 そこに座っていたのは、一人の青年だった。


 透き通るような金髪、宝石のようなアメジストの瞳。


 その美貌は彫刻のように整っているが、口元には常にシニカルな笑みを浮かべている。


 帝国第3皇子、ゼルク・フォン・グラングリア殿下。


 現皇帝の孫にあたり、その聡明さと冷徹さで「氷の貴公子」と呼ばれる人物だ。


 議長のヴァルターが、慌てて最敬礼をした。


「こ、これはゼルク殿下!?このような泥仕合の場にて、ご発言いただけるとは……。いかがなさいましたか?」


 ゼルクは優雅に足を組み替え、退屈そうに頬杖をついた。


「いや、あまりにも諸卿の議論が不毛でね。見ていられなくなったのだよ。1億8000万隻が必要だ?……プッ、馬鹿馬鹿しい。君たちは算数はできても、政治はできないようだね」


 議員たちが屈辱に顔を赤くするが、相手は皇族だ。


 誰も反論できない。


「殿下……。では、殿下には何か、あの怪物を制御する妙案がおありで?」


「あるよ。簡単なことだ」


 ゼルクは薄く笑った。


「取り潰しされた、銀河の1割にもなるローゼンバーグ貴族連合の所領……その統治を、全てフライハイト卿に任せるというのはどうだろうか?」


 一瞬の沈黙の後、議場が爆発した。


「な、なんですと!?」


「殿下!ご乱心ですか!?」


「それでは、奴の力をさらに強めるだけですぞ!」


「あの大軍勢に加えて、広大な領地と資源まで与えれば、もはや彼は誰にも止められなくなります!」


「虎に翼を与えるようなものです!」


 議員たちは口々に反対した。


 敵の力を削ぐのが常道だ。


 それを逆に増やすなど、自殺行為にしか思えない。


 だが、ゼルクは動じなかった。


 彼は冷ややかな瞳で、騒ぐ議員たちを見下ろした。


「……浅はかだな。君たちは『銀河の1割』という言葉の意味を、本当に理解しているのかい?」


 ゼルクは立ち上がり、手すりに手を置いた。


「我々の住むこの銀河帝国は、およそ1兆個もの恒星を抱える、超巨大な渦巻銀河だ。その1割。つまり、フライハイト卿に与える領地とは……『数千億の星系』ということだよ」


 数千億。


 その言葉の重みに、議員たちは言葉を失った。


「普通なら名誉なことだと考えるだろうね。だが、よく考えたまえ。彼は、ついこの間爵位を買ったばかりの、新興の男爵家だ。金と武力で成り上がっただけで、確固たる地盤も、歴史も、優秀な文官団も持っていない」


 ゼルクの声に、熱がこもる。


「そんな彼に、数千億もの星系を、いきなり統治させてごらん?それも、彼に恨みを持つ旧ローゼンバーグ派閥の残党が潜み、経済的に疲弊した惑星が無数にある。数千億の星々からの陳情、税収管理、治安維持、物流確保……。その事務処理量は、一領主どころの話ではない。脳が焼き切れるほどの情報量だ」


 議員たちが顔を見合わせる。


 想像を絶するスケールの話だ。


「……確かに、物理的に不可能ですな」


「巨大な官僚機構を持つ帝国でさえ、この規模の統治には苦労しているのです」


「それを、たった一つの家門で?」


「その通りだ」


 ゼルクは頷いた。


「60万の軍勢を維持するには、莫大な金と物資がかかる。彼は、その維持費を捻出するために、数千億の星系を必死で経営しなければならなくなる。だが、管理が行き届かず、各地で反乱や経済破綻が起きるだろう。彼はその対応に忙殺され、帝国首都星(セントラル)に攻め込む余裕など、向こう1000年は生まれないよ」


 ゼルクは意地悪く笑った。


「力を奪えないのならば、さらに重荷を与えて動きを縛るのだよ。彼自慢の艦隊も、数千億の星々をパトロールするために分散させざるを得なくなる。一点集中型の戦力は拡散し、脅威ではなくなる」


 「広大すぎる領地という宇宙の海に沈める」。


 それがゼルクの提案だった。


 ヴァルター議長が、感嘆の息を漏らした。


「なるほど……。『過ぎたるは及ばざるが如し』。成り上がりの彼を、統治不能なほどの巨大な領地という鎖で縛り付けるのですな」


 他の議員たちも、次第にその意図を理解し、賛同し始めた。


 反対意見は、急速に「これしかない」という確信へと変わっていった。


 だが、ここでまた新たな問題が浮上した。


 儀典長を務める議員が、困惑した顔で手を挙げた。


「しかし、殿下。実務面はそれで良いとして……形式上の問題があります。たかが『男爵家』の当主が、銀河の1割を統治するなど、身分制度の崩壊です。彼には、それ相応の爵位を与えねばなりません」


「うむ。だが、いきなり公爵にするわけにもいくまい」


「広さで言えば大公爵クラスだが……それは、彼の妻であるシャルロットの生家、『フレイア大公家』と同じになってしまう。反逆者の家系を復興させるような真似は、帝国の威信に関わる」


 男爵では軽すぎる。


 公爵では他の名門が納得しない。


 大公爵はタブー。


 ゼルクは、まるで最初から答えを用意していたかのように、即座に答えた。


「爵位か。それなら、新しいものを作ればいい」


「新しい爵位、ですか?」


「ああ。彼は規格外だ。300倍の敵を打ち破り、60万の艦隊を従える男だ。既存の枠組みに当てはめること自体がナンセンスだよ」


 ゼルクは天井を見上げ、芝居がかった口調で言った。


「彼は、帝国の敵を討ち滅ぼした英雄だ。その武勇は銀河に響き渡っている。ならば……『勇者』の爵位。『勇爵』というのはどうだろうか?」


「勇爵……?」


 議員たちがその言葉を反芻する。


 聞き慣れない言葉だ。


 だが、その響きには、特別な名誉と、同時に「既存の貴族階級とは異なる異物」というニュアンスが含まれていた。


「序列としては公爵と同等、あるいはそれ以上とする。だが、世襲は認めない一代限りの名誉爵位とすれば、他の貴族たちの反発も抑えられるだろう。どうだい?彼を『帝国の守護者』として祀り上げ、北方の辺境に縛り付ける鎖の名前としては、悪くないだろう?」


 ゼルクの瞳が怪しく光った。


 それは、クロウという猛獣に、黄金の首輪をつける提案だった。


 議場は静まり返った。


 反論できる者はいない。


 皇族の提案であり、かつ、これ以上の解決策がないことは明白だったからだ。


 これはもはや、決定事項だった。


 その空気を敏感に感じ取ったヴァルター議長が、杖を高く掲げた。


「……決まりだ!」


 ヴァルターの声が朗々と響く。


「全会一致とみなす!フライハイト男爵を、新設する『勇爵』に陞爵させ、帝国領土の1割――数千億の星系に及ぶ旧ローゼンバーグ貴族連合の全領土、その統治権を与える!」


「おおおッ!!」


 数十万人の議員たちが拍手喝采する。


 地鳴りのような拍手がドームを揺らした。


 これで助かった。


 怪物は檻の中だ。


 我々の平和な日常は守られたのだ。


「これにて閉会とする!直ちに詔勅の準備をせよ!明日の『陛下との謁見』にて、彼にサプライズプレゼントを渡してやるのだ!」


 元老院は、安堵と、自分たちの政治的勝利に酔いしれていた。


 彼らは信じて疑わなかった。


 これで奴をコントロールできると。


 数千億の星系という、一人の人間が管理するにはあまりにも巨大すぎる重荷に、彼が押し潰されると。


 ……だが、彼らは知らなかった。


 彼らが与えようとしている「毒」が、クロウにとっては最高の「栄養」になることを。


 第一区画の特別ドックに停泊するフェンリルの一室で、クロウは何も知らずに眠っている。


 明日、自分が「勇爵」というふざけた肩書きと共に、数千億の星々を押し付けられることになるとは露知らず、彼はシャルロットの温もりを感じながら、安らかな寝息を立てていた。


 運命の朝まで、あと少し。

いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます。

おかげさまで、連載開始からちょうど1ヶ月が経ちました。

なんと累計10万PV、ユニークアクセス15000人、そしてブックマークも500件を突破しておりました!

書き始めた当初はここまで多くの方に読んでいただけるとは思っておらず、驚きとともに感謝の気持ちでいっぱいです。

なろうでは「難しい」と言われがちなSFジャンルで、これだけ多くの方に楽しんでいただけていることを本当に嬉しく思います。

皆様の応援が、日々の執筆の最大のエネルギーです。

これからも楽しんでいただけるよう更新を続けていきますので、引き続きお付き合いいただければ幸いです!

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