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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第4章 懲罰戦争編

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第37話 ヒュドラ・システム

 フライハイト領、「セイレーン回廊」。


 無数の岩塊が漂う暗黒の宙域に、俺たちフライハイト艦隊1万隻は潜んでいた。


 艦の動力を最低限に落とし、岩陰に隠れて息を潜める。


 ブリッジで、俺はモニターを睨みつけていた。


 敵の前衛艦隊が、岩礁地帯に侵入してくる。


 センサーが警告音を鳴らし、敵の圧倒的な数が表示される。


 狭い回廊に、数万隻の戦艦が、まるで満員電車のようにひしめき合っている。


『敵先鋒、キルゾーンへ侵入。深度:5000。密度:極大。……条件クリア』


 オーディンの無機質な声が響く。


「まだだ……。もっと引きつけろ。後続がつっかえて、身動きが取れなくなるまで待て」


 俺は汗ばむ手でコンソールを握った。


 ヴォルフからの通信が入る。


『ボス、そろそろいいじゃねえか?連中、完全に舐め腐ってやがる。シールドすら展開してねえぞ』


「焦るな、ヴォルフ。一撃で終わらせるんじゃない。恐怖を植え付けるんだ」


 俺は隣に立つシャルロットを見た。


 彼女はまっすぐに前を見据えている。


 かつて怯えていた少女の面影はない。


「シャルロット、合図はお前が出せ。お前を『物』扱いした連中に、人間としての怒りを叩きつけてやれ」


「……はい!」


 シャルロットが前に進み出た。


 彼女は深呼吸をし、毅然とした声で叫んだ。


「ヒュドラ・システム、起動ッ!私たちの平穏を……返して!」


 彼女がスイッチを押した瞬間。


 暗黒の宇宙に、無数の閃光が走った。


 ドゴォォォォォォン……!!


 最初に敷設しておいた10万個の機雷が一斉に爆発した。


 敵の先鋒艦隊が、予期せぬ方向からの爆撃に包まれる。


 シールドが破られ、装甲が弾け飛ぶ。


 数千隻が瞬時に鉄屑と化した。


 グライム公爵の旗艦では、怒号が飛び交っていた。


「な、なんだ!?機雷だと!?」


「被害甚大!前衛艦隊、30%沈黙!」


「ええい、怯むな!たかが機雷だ!一度爆発すれば終わりだ!残骸を乗り越えて進め!」


 グライムは叫んだ。


 だが、彼の常識は数秒後に崩壊することになる。


 爆発の炎の中で、見えない「種」が撒かれた。


 ナノマシン・シードが、漂うデブリに取り付き、猛烈な勢いで活動を開始する。


 グググ……ガガガ……。


 破壊された戦艦の残骸が、まるで生き物のように蠢き始めた。


 金属が溶解し、再構築され、新たな球体へと変わっていく。


 死体が、機雷になる。


 後続の敵艦隊が、爆発を乗り越えて突っ込んでくる。


「機雷は消えた!道は開いたぞ!」と叫びながら。


 だが、彼らが通過しようとしたその空間に、さっきまで無かったはずの機雷が「生えて」いた。


 ドォォォォォォン!!!


 二度目の爆発。


 さらに多くの艦が沈む。


 そして、その残骸がまた、新たな機雷となる。


 1個が2個に。


 2個が4個に。


 倍々ゲーム。無限増殖。


 狭い回廊は、瞬く間に「死の増殖炉」と化した。


『敵艦隊、パニック状態。進路上の機雷密度、爆発的に増加中。……連鎖反応、継続。ヒュドラ・システム、正常稼働』


 シズの報告に、俺は凶悪な笑みを浮かべた。


「さあ、食事の時間だ。300万の軍勢よ。自分たちの欲望と数の暴力に溺れて、自滅していくがいい」


 モニターの中で、敵艦隊が同士討ちを始め、逃げ場を失って爆発していく様は、まさに地獄絵図だった。


 だが、これはまだ序章に過ぎない。


 増殖した機雷が、やがて大艦隊すべてを飲み込むまで、この悪夢は終わらないのだ。


「な、なんだこれは……!何が起きているのだ!?」


 ローゼンバーグ連合艦隊総旗艦『グラン・ローゼン』。


 その豪華絢爛なブリッジは、阿鼻叫喚の巷と化していた。


 グライム公爵は、手すりにしがみつきながら、メインスクリーンに映し出される光景に戦慄していた。


 前方の宙域が、赤と黒の爆炎で埋め尽くされている。


 味方の通信回線からは、断末魔の叫びが絶え間なく流れ込んでくる。


『第4艦隊、全滅!機雷です!機雷が湧いてきます!』


『馬鹿なことを言うな!機雷が湧くわけがあるか!』


『本当です!隣の艦が爆発したと思ったら、その破片が……うわあぁぁぁ!』


 プツリ。


 通信が途絶える。


 レーダー上の光点が、一つ、また一つと消えていく。


 いや、消えるのではない。


 味方を示す青い光点が消滅した直後、敵性反応を示す「赤い光点」へと変わっているのだ。


「閣下!分析班より報告!」


 顔面蒼白のオペレーターが叫ぶ。


「敵の機雷は……自己増殖型です!


 破壊された艦艇の質量を取り込み、数分で新たな機雷を生成しています!


 現在の機雷総数、推定50万基!


 なおも指数関数的に増加中!」


「ぞ、増殖だと……!?」


 グライムは絶句した。


 そんな兵器は聞いたことがない。


 帝国軍の極秘データベースにも存在しない、悪夢のようなテクノロジーだ。


「馬鹿な……。それでは、我々が艦隊を送り込めば送り込むほど、敵の武器が増えるということか!?」


「その通りです!後続艦隊が密集しているため、破壊された残骸が即座に隣の艦に接触し、誘爆を招いています!このままでは全滅します!」


 300万隻という圧倒的な数。


 それが今、最大の弱点となっていた。


「セイレーン回廊」という狭い回廊に、欲に駆られた貴族たちが我先にと殺到した結果、彼らは自らの体で巨大な「火薬庫」を作り上げてしまったのだ。


 その時、グライムの脳裏をよぎったのは、勝利への執念でも、部下への責任感でもなかった。


 ただ純粋な、自己保身の本能だった。


「ひ、引け!全艦、後退だ!この宙域から離脱せよ!」


 グライムが叫ぶ。


 だが、通信は混線し、混乱の極みにある。


 グライムは舌打ちをし、操舵手に怒鳴りつけた。


「ええい、邪魔だ!どけ!どかんか雑魚どもが!私の艦は高いんだぞ!ここで死ぬわけにはいかんのだ!」


 彼の醜悪な本性が露わになった。


 そして、それは彼だけではなかった。


 この艦隊を構成しているのは、プライドばかり高くて覚悟のない貴族たちだ。


 戦況が不利と見るや、彼らは一斉に我先に逃げ出し始めた。


 友軍同士での押し合い、衝突、そして砲撃戦までもが始まった。


 逃げようとする大型艦が、味方の小型艦を踏み潰して進む。


 300万の軍勢は、自壊した。


 グライムの乗る『グラン・ローゼン』と、それに続く足の速い最新鋭艦たちは、味方を盾にして回頭し、超光速航行(ハイパードライブ)で逃げていく。


「おのれ……おのれ、フライハイトォォォッ!!覚えておれ!この借りは必ず返すぞ!」


 捨て台詞と共に、敵の旗艦は光の中に消えた。


 残されたのは、機雷に囲まれ、進退窮まった膨大な数の敗残艦隊だけだった。


 戦艦フェンリル、ブリッジ。


 モニターには、逃げ去るグライムの艦と、取り残されて動けなくなった無数の敵艦が映し出されている。


「……逃げたか、グライム」


 俺は冷ややかに笑った。


 ヴォルフが悔しそうに唸る。


『閣下!親玉を逃がしていいのか!?今なら追撃できるぜ!』


「いいや、追うな。奴には案内人になってもらう。奴が逃げ帰った先……それこそが、次の俺たちの標的(領地)だ」


 俺は視線を、戦場に取り残された敵艦隊へと移した。


 その数、推定でも100万隻以上。


 多くは損傷しているが、まだ航行可能な艦も多い。


 彼らはヒュドラ・システムの増殖に怯え、完全に戦意を喪失して漂流していた。


「さて……ここからは『収穫』の時間だ」


 俺はマイクを取り、全帯域でのオープンチャンネルを開いた。


 銀河中に響き渡る声で、敗者たちに宣告する。


「聞こえるか、ローゼンバーグ連合の生き残りども。俺はクロウ・フォン・フライハイトだ。勝負はついた。お前たちの命運は、今、俺の手の中にある」


 戦場に静寂が走る。


 誰もが死を覚悟した瞬間だった。


「だが、俺は無益な殺生は好まない。……そこで、慈悲を与えてやる」


 俺はニヤリと笑い、言葉を続けた。


「総員、よく聞け。これより、階級による『選別』を行う」


 選別。


 その言葉に、モニター越しのシャルロットが息を呑んだ。


「まず、2等民(貴族)、3等民、そして4等民の一般兵士たち。お前たちは……逃がしてやる」


 えっ?というどよめきが通信回線から漏れ聞こえてくる。


「脱出艇でも救命ポッドでも、好きなものを使って逃げろ。命だけは助けてやる。さっさと親元の領地へ帰って、ママのミルクでも飲んで寝てろ」


 歓喜の声が上がった。


「助かった!」


「慈悲深い男爵万歳!」


 貴族や士官たちは、我先にとエアロックへ殺到し、脱出艇に乗り込み始めた。


 宇宙空間に、無数の脱出ポッドが放出されていく。


 それはまるで、沈みゆく船から逃げ出すネズミの大群のようだった。


「……だが」


 俺は声を低くし、鋭い眼光でモニターを睨みつけた。


「5等民。お前たちは船に残れ」


 ピタリ、と動きが止まった気がした。


 脱出艇に乗ろうとしていた5等民の作業員たちが、貴族たちに蹴り落とされ、絶望の表情で船内に取り残されている光景が目に浮かぶ。


「繰り返す。5等民は一歩も動くな。脱出することは許さん。そのまま配置につき、俺の命令を待て」


 それは死の宣告のように響いただろう。


 貴族たちは、「ああ、やっぱり奴隷は見殺しか」「身代わりなんだ」と安堵し、嘲笑しながら脱出していく。


 数時間後。


 戦場には、主を失った無人の(正確には5等民だけが残った)100万隻の艦隊が漂っていた。


「……マスター。貴族たちが退去しました。現在、敵艦に残っているのは、機関部や整備班、下級労働に従事していた5等民のみです」


 シズの報告を聞き、俺は深く頷いた。


「よし。これより、本当の演説を行う」


 俺は再びマイクを握った。


 今度は、威圧的ではなく、呼びかけるような声で。


「残された5等民の諸君。……怖がることはない。俺がなぜ、お前たちだけを残したか分かるか?」


 モニターに、各艦の内部映像が映し出される。


 薄汚れた作業着を着た男たち、痩せこけた少年兵、怯える女性整備士。


 彼らは皆、死刑判決を待つような顔をしている。


「貴族どもは逃げた。船を捨て、武器を捨て、お前たちを捨ててな。だが、俺は知っている。実際にこの巨大な船を動かしているのは誰だ?エンジンを整備し、砲弾を運び、汚れた床を磨いているのは誰だ?」


 俺は言葉に力を込めた。


「お前たちだ。口先だけの貴族じゃない。現場で汗と油にまみれるお前たちこそが、この艦隊の真の戦力だ」


 彼らの顔が上がった。


「俺は、かつて5等民だった。お前たちと同じ、泥水を啜る奴隷だった。だからこそ、俺は無能な貴族ではなく、使えるお前たちが欲しい」


 俺は手を差し出した。


「首輪を外せ。今日この瞬間から、お前たちは奴隷ではない。フライハイト軍の正規兵だ」


 どよめきが起こる。


 それは次第に大きなうねりとなり、驚きと歓喜の声へと変わっていった。


「この船は、そのままお前たちにやる。そして、俺と共に来い。俺たちはこれから、お前たちを捨てて逃げたあの臆病な貴族どもを……根絶やしにしに行く」


 ウオオオオオオオオオッ!!!


 通信回線が、爆発的な咆哮で埋め尽くされた。


 それは絶望の叫びではない。


 解放された魂の、復讐と希望の雄叫びだ。


 彼らは知っている。


 貴族の領地の場所も、弱点も、そして何より、彼らに対する尽きせぬ恨みを持っている。


 俺は満足げに頷き、ヴォルフを振り返った。


「おい、ヴォルフ。忙しくなるぞ。そこに浮いている100万隻……いや、稼働可能なのは60万隻くらいか。全部、俺たちのモンだ」


 ヴォルフは口をあんぐりと開け、それから顔をくしゃくしゃにして笑った。


「マジかよ、閣下……!鹵獲なんてレベルじゃねえ!これじゃあ、帝国軍の一個方面軍が丸ごと寝返ったようなもんだ!」


「ああ。5等民たちは操艦にも慣れている。教育の手間も省ける。直ちに再編だ。鹵獲した艦艇で第2、第3艦隊を編成しろ。指揮官は、お前の部下の中から叩き上げを選抜して任せろ」


「了解だ!へへっ、300対1の戦力差が、一瞬でひっくり返っちまったな!」


 ギリアムも感嘆のため息を漏らした。


「敵の戦力を削ぎ、自軍の戦力として吸収する……。しかも、最も忠誠心の高い兵士たちを手に入れるとは。旦那様の悪知恵……いえ、慈悲深さには恐れ入ります」


 シャルロットが、涙ぐみながら俺を見つめている。


 彼女もまた、この光景に救いを見たのだ。


「クロウ様……。貴方は本当に、革命家なのですね」


「ただの強欲な男爵さ。使えるものは何でも使う」


 俺は、膨れ上がった自軍の光点を見つめた。


 1万隻だったフライハイト艦隊は、今や数十万隻の大艦隊へと変貌した。


 しかもその乗員は、全員が帝国への復讐心に燃える元5等民たちだ。


「さあ、準備は整った」


 俺は彼方の星系を指差した。


 そこには、逃げ帰ったグライム公爵たちが、安堵の息をついているはずだ。


「行くぞ。次は、奴らの庭で戦争だ」


 セイレーン回廊での戦いは、フライハイト軍の完全勝利と、戦力の大幅な増強という形で幕を閉じた。


 膨れ上がった「解放軍」は、雪だるま式にその勢力を増し、いよいよ貴族たちの聖域へと侵攻を開始する。

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