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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第1章 廃棄惑星編

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第3話 汚物は資源にリサイクル

 工場のエントランスホールに戻った俺たちの耳に、重苦しい衝撃音が響いてきた。


 ドォン、ドォン、ズガァァァン!!


 まるで巨人が金槌を振り下ろしているかのような、腹の底に響く重低音。


 分厚い特殊合金製のゲートが、悲鳴を上げるように軋んでいる。


 外にいる連中が、その身を挺して扉をこじ開けようとしているのだ。


 ゲートの蝶番部分から、パラパラと白い粉塵が舞い落ちる。


 限界が近い。


「敵性体、数およそ50,000匹。ゲートの耐久値は残り15%を切りました。敵の体液に含まれる強酸による腐食が、予想以上の速度で装甲を浸食しています。突破されるのは時間の問題です」


 シズが淡々とした口調で分析結果を告げる。


 その声には恐怖も焦りもない。


 ただ事実のみを伝える機械的な冷徹さがあった。


 俺はコンソールに飛びつき、外部カメラの映像をメインモニターに投影した。


「……うわぁ、こいつはひでえ」


 モニターに映し出されたのは、悪夢のような光景だった。


 視界を埋め尽くすのは、うごめく黒い波。


 体長2メートル、あるいはそれ以上ある巨大な節足動物のような怪物たちが、工場の周囲を完全に埋め尽くしていた。


 その体表は、廃棄された鉄板やパイプ、錆びついた歯車などを取り込んで殻のように硬質化しており、不規則な金属光沢を放っている。


 クモのような脚、サソリのような尾、そしてカニのような巨大なハサミ。


 それらが無秩序に組み合わさった異形の群れが、口から絶えず緑色の粘液――酸を滴らせながら、我先にとゲートへ殺到していた。


汚染変異体(ミュータント)


 かつての対異生命体戦争末期、敵対勢力がこの惑星に撒き散らした生物兵器の成れの果てだ。


 高濃度の放射線と廃棄物による重金属汚染に適応し、金属を喰らって自己進化する怪物へと変貌を遂げた怪物たち。


 奴らにとって、この純度の高い特殊合金でできた工場は、極上の「餌場」に見えているに違いない。


「マスター、指示を。このままではゲートが破壊され、工場内部への侵入を許します。ゲートを開放し、殲滅行動に移りますか?」


 シズが俺の方を向く。


 その深紅の瞳が、静かに俺の判断を待っている。


「待て待て!殲滅って、お前、丸腰で行く気か!?」


 俺は叫んだ。


 確かにシズは、戦間期における最高傑作とも言える戦闘用アンドロイドだ。


 そのスペックは計り知れない。


 だが、今の彼女は武器を何一つ持っていない「素手」の状態だ。


 しかも、俺が先ほど施した修理は、あくまで再起動させるための応急処置に過ぎない。


 外装甲の一部は剥がれ落ちたまま内部フレームが露出しているし、防水・防塵シーリングも不完全だ。


 あんな酸の雨が降る中に飛び出せば、露出した駆動系やセンサーが腐食し、最悪の場合、中枢回路までダメージが及ぶ可能性がある。


「……私のシミュレーションでは、格闘戦のみでも98%の個体を破壊可能です。損害率予測は40%。機能停止には至りません」


「残りの2%で壊れるってことだろ!それに損害率40%だと?ふざけるな!」


 俺はコンソールを叩き、シズを睨みつけた。


「いいかシズ、俺はエンジニアだ。修理屋だ。壊れると分かっている機械を、対策もなしに戦場に送り出すなんて、エンジニアのプライドが許さねえんだよ!お前を直したのは、使い捨てにするためじゃない!」


「……マスター」


 シズがわずかに目を見開く。


 俺は彼女の反応を待たずに、再びコンソールに向き直った。


 指先が残像が見えるほどの速度でコンソールを操作する。


「検索、検索、検索……!この工場には、かつての強力な兵器のデータが眠っているはずだ!」


 ディスプレイに無数のウィンドウが展開される。


【製造履歴】【設計図アーカイブ】【試作兵器カテゴリー】


 膨大なデータの中から、今の状況を打破できる「解」を探し出す。


 小口径の銃火器では、あの分厚い金属殻を貫通できない。


 爆発物は、工場施設そのものにダメージを与えるリスクがあるため却下。


 必要なのは、圧倒的な「切断力」を持ち、かつシズの機動力を阻害しない近接兵器だ。


 リストをスクロールする俺の目が、一つの項目で止まった。


【超硬スチールソード】【ヒート・アックス】【単分子カッター】……そして、【高周波振動ブレード(試作型)】。


「よし、データは生きているな!」


 さすがは異生命体とやり合っていた旧時代の最重要拠点だ。


 兵器のライブラリも無傷で残っていた。


 俺は安堵すると同時に、瞬時に脳内で設計図を展開し、最適化を開始する。


「シズ!あいつらの甲殻データを解析できるか?材質が知りたい!」


「可能です。……スキャン開始」


 シズの瞳から赤いレーザー光が放たれ、工場の外に居る怪物たちをスキャンする。


「……解析完了。主成分はオリハルコン、およびヒヒイロカネの合成物と推測されます。平均硬度はモース硬度9.5以上です」


「硬ぇな! 対人用のビームライフル程度じゃ話にならないな。爪楊枝にもなりゃしねえ!」


 オリハルコンやヒヒイロカネといえば、宇宙戦艦の装甲に使われるほどの超硬度素材だ。


 それを生身で身に纏っているとは、恐ろしい生物だ。


「……突破するには、俺流のカスタムが必要だな」


 クロウはこの状況を打破する武器のイメージをすでに思い浮かべている。


 武器に使う素材は万能物質(マター)で作り出した「オリハルコン合金」を惜しみなく使用。


 だが、敵が纏う装甲と、俺が扱える最強の素材は基本的に同じ。


 同じオリハルコン同士でぶつかり合ったところで、いくらやっても埒が明かない。


 強固な盾を同じ素材の矛で突くような不毛な消耗戦になるだけだ。


 だが、逆に言えば「物質」である以上、結合を解く方法は必ずある。


「『高周波振動ブレード』の設計図...こいつをベースに、対ミュータント用にフルカスタムだ!」


 形状は、乱戦に対応できるよう、シズの体格に合わせた長めの刀身にリサイズ。


 重心を手元に寄せ、振り抜き速度を向上させる。


 だが、ただ硬いだけの剣では、あの甲殻を叩き割るのに数撃を要する。


 一撃必殺でなければ、50,000匹の群れには到底勝てない。


「刃の振動発生装置のリミッターを解除。冷却機能を犠牲にして、振動数を極限まで引き上げる。毎秒5万回……いや、6万回だ!分子レベルで敵の殻を剥離させる!」


 コンソールを叩く音が、まるで機関銃のように室内に響く。


「さらに、刀身の表面に『イオン化プラズマ・フィールド』を展開する機構を組み込むぞ。刃の周囲に超高熱のプラズマ膜を作ることで、敵の酸を中和しつつ、物理的な接触を待たずに装甲を溶断可能だ!」


 それは、理論上は可能でも、整備性やコストを度外視した「欠陥兵器」だ。


 だが、今必要なのは安定性じゃない。


 目の前の怪物を薙ぎ払う、絶対的な暴力だ。


「設計完了!製造ライン、緊急稼働!最優先プロセスで生産しろ!」


 俺が生産命令を出した瞬間。


 ズズズズズ……!


 足元の床が震え、工場全体が唸りを上げた。


 高炉の火が燃え上がり、超高速で動作する多関節アームが、溶解した金属を空中で鍛造していく。


 プレス、研磨、回路埋め込み、コーティング。


 通常なら数週間かかる工程を、ナノマシン形成技術が数秒に圧縮する。


 ブゥゥゥン!!


 排熱ダクトから白い蒸気が噴き出し、武器が完成した。


 そこにあるのは、一本の「刀」。


 全長1.5メートル。


 漆黒の鞘に収められているが、その隙間からは、隠しきれない青白い燐光が漏れ出している。


 俺はそれを掴み取った。


 ずしりとした心地よい重み。


 俺はそのまま振り返り、それをシズへと放り投げた。


「シズ、これを使え!俺の特製だ!」


 シズは空中でそれを片手で受け止めた。


 彼女の指が柄に触れた瞬間、内蔵された認証システムが起動する。


「……武装、認識。『試作型・対装甲高周波ブレード・改』。……エネルギーパス、接続」


 チャキッ。


 その音が合図だった。


 ブォン!


 抜刀された刃が、空気を切り裂くような異音を奏でた。


 刀身は闇を吸い込んだような漆黒。


 だが、その刃先には青白い雷光のようなプラズマが纏わりつき、触れるものすべてを消滅させるほどのエネルギーを放っている。


 シズが軽く手首を返して振るっただけで、周囲の空気が熱膨張を起こし、ビリビリと肌を刺すような衝撃波が走った。


「素晴らしい適合率です、マスター。重心バランス、エネルギー伝導率、共に完璧です。これなら……奴らを切れます」


 シズの瞳が、戦闘モードを示す鮮烈な深紅に染まった。


 彼女はゲートに向き直る。


 その背中からは、先ほどまでの儚さは消え失せ、戦場を支配する「戦乙女(ヴァルキリー)」の威圧感が立ち上っていた。


「ゲート開放!行ってこい、シズ!思う存分暴れてこい!」


 俺が制御盤の赤いスイッチを叩き押す。


 ガガガガッ……プシューッ!


 ロックが外れ、重厚な扉が轟音と共に左右へ開いた。


 そのわずかな隙間から、汚染変異体(ミュータント)たちの耳障りな咆哮と、鼻を突く強烈な酸の腐臭が雪崩れ込んでくる。


 隙間から顔を覗かせた先頭の巨大な一匹。


 複眼を怪しく光らせ、獲物を見つけた歓喜にハサミを振り上げ、飛びかかってきた。


 だが。


「――遅い」


 一閃。


 シズの姿が霞んだ。


 俺の動体視力ですら追いきれない速度。


 次の瞬間、飛びかかってきた怪物の体が、空中で上下真っ二つに両断されていた。


 ズパァンッ!


 切断面から体液が噴き出すことすらない。


 プラズマの高熱によって瞬時に断面が焼灼され、炭化しているからだ。


 怪物は自分が死んだことすら気づかず、燃えながら地面に落ち、二つの肉塊となって転がった。


「ギ、ギギッ……!?」


 後続の怪物たちが、理解不能な事態に一瞬動きを止める。


 だが、もう遅い。


 シズはすでに、酸の雨が降り注ぐ屋外へと躍り出ていた。


「汚染区域、浄化(クリーニング)を開始します」


 それは、戦闘というよりは、一方的な「破砕作業」であり、同時に洗練された「舞踏」だった。


 シズが銀色の髪をなびかせて駆ける。


 彼女が銀色の閃光となって通り過ぎた後には、切断された鉄屑と肉片の山だけが築かれていく。


 硬度を誇るオリハルコンとヒヒイロカネが混ざり合った殻も、俺が調整した高周波ブレードの前では、腐った木材のように脆かった。


 甲殻ごと叩き斬り、ハサミを切り落とし、コアを貫く。


 本来なら脅威となるはずの酸の唾液も、刀身が展開するプラズマフィールドに弾かれ、蒸発してシズの肌には届かない。


「すげぇ……」


 俺はモニター越しにその光景を見つめ、思わず息を呑んだ。


 強い。


 分かっていたことだが、俺の作った武器と、彼女の驚異的な身体能力が組み合わさった時の戦闘力が異常だ。


 単なる足し算じゃない。


 掛け算だ。


 50,000匹いたはずの汚染変異体(ミュータント)の群れが、見る見るうちに数を減らしていく。


 黒い波が、銀色の点によって削り取られていく。


『マスター、戦闘終了まであと30秒。……退屈です。敵の動作パターンが単純すぎます』


 通信機越しに、シズの平坦な声が届く。


 余裕すぎる。


 このままなら、無傷での完全勝利は確実だ。


 だが、俺の目はモニターの片隅、別のデータに釘付けになっていた。


 解析用サブモニターに表示されている、敵の残骸の成分分析結果だ。


「おいシズ、待て!あいつらの死体……あれは何だ?」


 俺はマイクに向かって叫んだ。


 拡大された映像。


 シズによって切断された汚染変異体(ミュータント)の断面から、キラキラと光る結晶体が露出していたのだ。


 ただの臓器じゃない。あれは、無機質な輝きを放っている。


「……てっきり、外骨格だけがオリハルコンやヒヒイロカネで覆われているのかと思っていたが...。まさか骨の髄まで希少資源の塊だったとはな」


『……高純度のレアメタル結晶、および液状化したエネルギー触媒を視認しました』


 シズが戦闘の手を休めることなく、冷静に答える。


『この星の生物は、数万年という長期間にわたり、廃棄された機械や放射性物質を摂取し続けました。その結果、体内で金属を濃縮・精製し、殻や骨格として形成する特異体質へと自己進化したと推測します。彼らの血液は高効率の液体燃料に、骨格や内臓は希少金属として利用可能です』


「マジかよ……!」


 俺は顔を引きつらせ、そして――こみ上げてくる笑いを抑えきれずに、にやりと口角を吊り上げた。


 なんだそれは。


 冗談みたいな話だ。


 こいつら、ただの敵じゃない。


 向こうから勝手に歩いてきた、宝箱を背負った「資源の塊」だ。


 帝国の連中は、汚染変異体(ミュータント)の危険性を恐れて、この惑星への本格的な調査艦隊を派遣しようとしなかった。


 ただのゴミ捨て場だと見下していた。


 だから気づかなかったんだ。


 この厄介で醜悪な化け物たちが、実は帝国全土を探しても見つからないような、最高級の素材の宝庫だということに。


「シズ!作戦変更だ!ただ殺すだけじゃもったいない!片っ端から工場の前に蹴り飛ばせ!一匹も残すな、骨の髄まで全部いただくぞ!」


『了解。収穫作業に移行します』


 シズの動きが変わった。


 斬ると同時に、回し蹴りで死体を工場の入り口に向かって吹き飛ばす。


 正確にコントロールされた死体の山が、ゲート前に積み上がっていく。


 俺は工場の制御盤を操作し、「資源回収用インテーク」を最大出力で開放した。


 ゴウゥゥゥゥ……!


 工場の地下から、巨大な換気扇のような轟音が響き渡る。


 ゲートの下部に設置された巨大な投入口が開き、強烈な吸引力が生まれた。


 積み上がった汚染変異体(ミュータント)の死体が、次々と工場の中へと吸い込まれていく。


 ガリガリガリッ!


 バキバキバキッ!


 地下の粉砕機が、硬い甲殻を噛み砕く音が建物全体を震わせる。


 俺は資源管理モニターを見上げた。


 そこには、リアルタイムで処理されていく資源の状況が表示されていた。


【資源処理プラント:稼働率120%】


【分離機:有機汚泥と金属粒子を分離中】


【精錬炉:温度上昇、溶解開始】


 まるで巨大な生き物が食事をしているかのような、生々しい工場の胎動。


 そして、貯蔵タンクのゲージが目に見えて上昇を始めた。


 液体燃料パイプの圧力計が、赤いラインまで跳ね上がる。


 精製されたレアメタルのインゴットが、倉庫へ搬送される重い振動が足元から伝わってくる。


 モニターの数値が、凄まじい勢いでカウントアップされていく。


 《レアメタル貯蔵庫A:満杯》……《貯蔵庫Bへルート変更》


 《液体燃料タンク1:満杯》……《予備タンクへ注入中》


 《未解析希土類元素:コンテナ4基分確保》


「ははっ、すげえ!なんだこりゃ、入れ食い状態だ!」


 俺は興奮に震えた。


 モニターの数字が増えるたびに、工場の照明が明るくなり、稼働音が力強くなっていく気がする。


 カツカツだったリソースが、一気に「戦艦一隻作れそう」なレベルまで回復していく。


 ゴミを食って、エネルギーに変える。


 このサイクル。


 これこそが、この工場の真価だ。


「敵が来る→倒す→資源になる→さらに強い武器を作る→もっと強い敵を倒せる」


 無限の拡大再生産。


 この星にあるゴミも、敵も、すべてが俺を強くするための餌だ。


 絶望的な環境だと思っていたこの場所は、エンジニアの俺にとっては、文字通りの「黄金郷(エル・ドラド)」だったのだ。


 数十分後。


 工場の前には、動くものは何もいなくなっていた。


 50,000匹の軍勢は、文字通り「資源」となって工場に吸収され尽くした。


 酸の雨に打たれる荒野に、シズが一人、静かに佇んでいる。


 彼女の銀髪には、返り血一つ浴びていなかった。


 プラズマの熱で蒸発した雨が、彼女の周囲で白い靄となって揺らめいている。


「戦闘終了。周辺エリアの敵性反応、完全に消失しました」


 シズが刀を納め、戻ってくる。


 カツン、カツンと足音を響かせ、ゲートをくぐり、俺の前に立つ。


「お疲れ様、シズ。完璧だった。最高の働きだ」


「……感謝します。ですが、あの程度の個体群では、戦闘データの収集にもなりません。もっと手応えのある敵はいなかったのでしょうか」


 シズは少し不満そうに首を傾げたが、その表情の端々には、主人の役に立てたことへの微かな喜びと、自身の性能への自負が見え隠れしていた。


 俺は苦笑しながら彼女に近づき、その頭に手を伸ばし――少し躊躇ってから、ポンポンと撫でた。


 冷たい人工皮膚の感触。


 だが、そこには確かな熱があった。


「!?ま、マスター?」


 シズがビクリと肩を震わせ、目を丸くして俺を見上げる。


 戦闘中は鬼神の如き強さを見せるくせに、こういう時は妙に初心な反応をするのが面白い。


「よくやった。お前のおかげで助かったよ。……それに、お前が狩ってきてくれた大量の『お土産』のおかげで、俺たちは安泰だ」


 俺は壁一面のモニター群を指差した。


 すべてのゲージが「FULL」に近い値を示し、緑色のランプが輝いている。


 汚染変異体(ミュータント)から回収した大量のレアメタルや液体燃料。


 これらは、そのまま資材として使うもよし、工場で一度『万能物質(マター)』へと還元してから別の何かに作り変えるもよしだ。


 活用の選択肢は無限にある。


 これだけの資材があれば、工場の拡張も、防衛システムの強化も、そしてシズの本格的な修理とアップグレードも、なんでもできる。


「さて、と」


 俺は、モニターの向こうに広がる灰色の空を見上げた。


 分厚い雲に覆われたその遥か彼方には、俺を「無能」と断じて捨てた、帝国首都星(セントラル)があるはずだ。


 今頃、あいつらは優雅な晩餐会でも開いているだろうか。


 俺がこの地獄で朽ち果てていると思い込んで。


「第一段階(フェーズ1)はクリアだ。次は『住処』を整えるぞ」


 俺はニヤリと笑った。


 腹の底から湧き上がる野心が、体を熱くする。


「このゴミ溜めを、帝国中の貴族が腰を抜かすような『楽園』に作り変えてやる。見てろよ、クソッタレな貴族ども」


 俺とシズ、そして銀色の工場。


 廃棄惑星からの大逆転劇は、ここから加速していく。


 ***


 その頃。


 はるか上空、大気圏外にて。


 惑星エンドを周回する帝国の無人監視衛星が、地表の一点から発生した「特異なエネルギー反応」を検知していた。


『警告:規定値を超えるエネルギー消費を確認』


『解析:高周波ブレードによる戦闘行動、および大規模なプラント稼働反応』


 赤い警告灯が点滅し、データが帝国のサーバーへと送信されようとする。


 しかし、そのデータは途中の通信経路で発生した磁気嵐によりノイズとして処理され、軍事司令部の誰の目にも止まることはなかった。


 まだ、帝国の誰も知らない。


 自分たちが捨てたゴミの中から、やがて銀河を揺るがすことになる「怪物」が産声を上げたことを。


 そしてその怪物が、鋭い牙を研ぎ始めていることを。

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