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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第3章 貴族学校編

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第28話 特別倫理講義

 帝国首都星(セントラル)に、冬が訪れた。


 といっても、この星の気候は全て環境管理タワーによって制御されている。


 上層区画の空を覆うドーム状のスクリーンには、鉛色の雲が演出され、そこからしんしんと白い雪が降り注いでいた。


 もちろん、この雪もまた化学組成された人工物だ。


 触れても冷たすぎず、地面に落ちれば適度な時間で昇華し、汚れを残さない。


 まさに、貴族のためだけにデザインされた「美しい冬」だった。


「へえ、雪か。エンドの酸性雪とは大違いだな」


 貴族大学、先端工学棟の窓際で、俺は空を見上げながら呟いた。


 エンドで降る雪は、触れれば皮膚が爛れる死の灰だったが、ここの雪は綿菓子のように甘い匂いがする。


 どこまでも嘘くさい世界だ。


帝国首都星(セントラル)の冬はイベントが多いからね。演出担当のAIも気合が入ってるんだよ」


 隣で端末を操作していたアレクが、顔を上げて笑った。


 この数ヶ月ですっかり馴染んだ相棒だ。


「イベント?ああ、そういえば校内が騒がしいな。あちこちで飾り付けをしてやがる」


「もうすぐ『星嶺祭(せいれいさい)』――いわゆる学園祭があるからね。クロウ、君は初めてだろ?」


「ああ。俺は……その、辺境で家庭教師だったからな。学校行事ってやつには疎いんだ」


 俺は適当な嘘をついた。


 5等民に学校などない。


 あるのは労働と、点呼と、処罰だけだ。


 だから、俺の中にある「学園祭」の知識は、シズが検索してくれた古いドラマやアニメのデータの中にしかない。


「どんなことをするんだ?屋台で焼きそば……じゃなくて、合成肉の串焼きでも売るのか?」


「ははは、初等部や中等部はそんなこともするけど、大学部はもっと規模がでかいよ。研究発表会、舞踏会、オペラ鑑賞……それに、各領地の特産品見本市なんてのもある。まあ、半分は社交界の延長みたいなものさ」


 アレクは肩をすくめた。


 貴族にとって、遊びもまた政治の一部らしい。


「ふーん。退屈そうだな」


「まあね。でも、一つだけ全校生徒が熱狂するメインイベントがあるんだ」


 アレクの声が少しだけ弾んだ。


「『スター・ライド・グランプリ』。エアバイクによる超高速周回レースさ。キャンパスの外周に設けられた特設コース、全長1000キロを3周する。障害物あり、妨害あり、攻撃ありの、かなり激しいレースだよ」


「レースか。また随分と野蛮な催しだな」


「でも、賞品が凄いんだ。優勝者には、学園理事会――つまり帝国の教育省から、トロフィーと共に『願い』が一つ授けられる」


「願い?」


「そう。『学園の権限で叶えられる範囲なら、どんな望みでも一つだけ叶える』という特権さ。例えば、全単位の免除、希望する官僚ポストへの推薦、研究予算の増額……。過去には、退学処分になった友人を復学させた奴もいたらしい」


「へえ……。なんでも、ねぇ」


 俺の目が怪しく光った。


 なんでも一つ。


 その言葉の響きは、野心家の耳には甘い蜜のように響く。


 この腐った貴族学校にも、使いようによっては面白いシステムがあるじゃないか。


「アレク、お前は出ないのか?」


「僕?無理無理!あれに出るのは、自信過剰な戦闘狂か、スピード狂だけだよ。音速で狭いコースを飛び回るんだぞ?毎年、何百人も病院送り……最悪、そのまま帰らぬ人になることもあるし」


「なるほど、命知らずの馬鹿騒ぎってわけか。嫌いじゃない」


 俺がニヤリと笑った時、教室のスピーカーから無機質なチャイムが鳴り響いた。


 それは授業の終わりを告げるものではなく、どこか不安を煽るような、重苦しい旋律だった。


『全学生に告ぐ。全学生に告ぐ。これより、第3アリーナにて「特別倫理講義」を行う。これは全学年、全学科の必修科目である。欠席は許されない。直ちに移動せよ』


 アナウンスが終わると同時に、教室の空気が一変した。


 先ほどまで学園祭の話で浮き足立っていた学生たちが、一斉に押し黙り、顔を見合わせている。


 その表情にあるのは、期待ではなく、明らかな「憂鬱」と「忌避」だった。


「……始まったか」


 アレクが小さく溜息をついた。


 その顔色は、さっきまでの明るさが嘘のように蒼白になっている。


「おいアレク、どうした?特別倫理講義ってのは、そんなに退屈なのか?」


「退屈……いや、そんな生易しいものじゃないよ。……クロウ、君は編入したばかりだから知らないんだったね」


 アレクは重い腰を上げ、震える手で鞄を持った。


「年に一度、必ず行われる『見せしめ』の授業さ。僕たちが貴族として、支配者として、どうあるべきかを骨の髄まで叩き込まれる……。行こう、クロウ。遅れると、僕たちまで『教材』にされかねない」


「教材?」


 俺は眉をひそめたが、アレクの只ならぬ様子に、それ以上の質問を飲み込んだ。


 俺たちはエアカーに乗り込み、キャンパスの北端へと向かった。


 そこは、華やかな学園都市の風景から切り離されたような場所だった。


 雪の白ささえも拒絶するような、巨大な灰色のコンクリート塊。


 窓はなく、高い塀と高圧電流のフェンスに囲まれたその建物は、校舎というよりは軍事要塞、あるいは――。


「『監獄棟(プリズン)』。それがこの建物の通称だ」


 車を降りたアレクが、寒さとは別の理由で体を震わせながら言った。


 入り口には武装した警備ドロイドが立ち並び、学生たちのIDを厳重にチェックしている。


 中に入ると、冷たい冷気が肌を刺した。


 消毒液と、微かな鉄の匂い。


 それは、俺がよく知っている匂いだった。


 血の匂いだ。


 俺たちは長い廊下を抜け、建物の中央にある巨大なスタジアムへと入った。


 すり鉢状になった客席には、既に数百万人の学生が詰めかけている。


 だが、誰一人として喋らない。


 数百万人がいるとは思えないほどの静寂が、空間を支配していた。


 アリーナの中央。


 強力なスポットライトが、一点を照らし出している。


 そこには、円柱状のステージがあった。


 そして、その上に「それ」はいた。


「……なんだ、あれは」


 俺は目を凝らした。


 ステージの中央に、一人の少女が宙吊りにされていた。


 いや、拘束されている。


 透明な鎖のようなエネルギーフィールドが、彼女の体を空中に固定しているのだ。


 少女は美しかった。


 透き通るような金色の髪、陶器のように白い肌。


 見た目は18歳前後だろうか。


 薄い手術着のような白い布を纏っているが、その布は彼女の体の「欠損」を隠しきれていなかった。


 彼女には、手足がなかった。


 肩から先、そして太腿から先が、綺麗に切断されている。


 傷口は既に塞がっており、まるで最初からそうであったかのように滑らかな球体を描いている。


「……『だるま姫』」


 隣でアレクが、絞り出すように呟いた。


「だるま姫?」


「彼女の蔑称だよ。……本名は、シャルロット・アト・フレイア。かつて存在した『フレイア公国』の元首、フレイア大公の娘だ」


「フレイア公国……聞いたことがないな」


「無理もない。100年以上前に、帝国によって地図から消された国だからね」


 アレクは視線をステージの少女に向けたまま、小声で説明を続けた。


「フレイア公国は、辺境の小国だったけど、特殊な思想を持っていたんだ。『人類平等』。1等民も5等民も関係なく、全ての人間には生存権と人権がある……そんな、帝国にとっては猛毒のような思想を国是にしていた」


「ほう……。随分と進んだ国だったんだな」


 俺は興味を惹かれた。


 帝国の支配下で、そんな理想を掲げる国があったとは。


「彼らは独自に5等民を保護し、教育を与え、市民として受け入れていた。それが帝国の逆鱗に触れたんだ。『階級秩序(オーダー)への反逆』として、帝国軍の総攻撃を受けた。……戦争とは名ばかりの、一方的な虐殺だったらしい」


 アレクの声が沈む。


「国は焦土と化し、公国の一族は捕らえられ、全員が公開処刑された。……彼女、シャルロット姫を除いて」


「なぜ彼女だけ生かした?」


「『見せしめ』のためさ。死ぬよりも辛い、永遠の地獄を与えることで、二度と反逆者が出ないようにするための……生きた警告板だ」


 俺は再び、ステージの少女を見た。


 100年以上前?ならば、あの少女は100歳を超えていることになる。


「皇族のような不老不死の遺伝子改造を受けているのか?」


「いや、違う。彼女は純粋な人間だ。だが、帝国科学院が開発した特殊な薬剤によって、肉体の成長と老化を強制的に停止させられている。……その薬には、恐ろしい副作用があるんだ」


 アレクがゴクリと唾を飲み込んだ。


「『感覚過敏化』。痛覚、触覚、そして……性感。あらゆる神経伝達が、常人の3000倍に増幅される」


「3000倍……!?」


 俺は絶句した。


 3000倍の感度。


 それは、服が擦れるだけで激痛が走り、風が吹くだけで絶頂に達してしまうほどの異常な世界だ。


 そんな状態で、100年以上も?


「彼女の手足が切断されたのは、逃亡防止のためだけじゃない。末端神経を露出させ、より効率的に『苦痛』を与えるためだ。……彼女は今、この学園の備品だ。『反逆者の末路』を教えるための、拷問ショーの道具なんだよ」


 その時、アリーナに不快なブザーが鳴り響いた。


 ステージの横から、白衣を着た拷問官が現れる。


 手には、神経鞭のようなデバイスを持っていた。


『諸君。静粛に』


 拷問官の声がスピーカーを通して響く。


『これより、特別倫理講義を開始する。テーマは「秩序の維持と、愚者の代償」についてだ。ここにあるのは、かつて帝国の崇高なる秩序を乱そうとした、愚かなる反逆者の成れの果てである』


 拷問官がスイッチを押すと、シャルロットを拘束しているフィールドが赤く輝いた。


「あ……ぁ……ッ!!」


 少女の口から、声にならない悲鳴が漏れた。


 体が弓なりに反り、切断された手足の先が痙攣する。


 ただフィールドの出力が上がっただけの、微弱な電流だ。


 だが、3000倍の感度を持つ彼女にとっては、焼けるような激痛なのだろう。


『見よ。この肉体は、100年の時を超えて、今なお罪を償い続けている。死という安息すら与えられず、ただ苦痛と屈辱の中に生きる。これこそが、帝国に歯向かう者への慈悲なき鉄槌である』


 拷問官は淡々と説明しながら、手元のパネルを操作した。


 今度は、天井から冷水が霧状に噴射された。


「ひぅッ!?あ、ああっ……や、やめ……!」


 少女がガタガタと震え出す。


 極小の水滴が肌に触れるたび、それが針で刺されるような衝撃となって彼女を襲う。


 痛みと、寒さと、そして強制的な快楽信号が脳を焼き尽くす。


 涙と涎が垂れ流され、美しい顔が苦悶と恍惚でぐしゃぐしゃに歪む。


「殺し……て……おねが……殺してぇ……」


 掠れた声。


 100年間、繰り返されてきたであろう懇願。


 だが、拷問官はそれを無視し、さらに設定レベルを上げた。今度は微風だ。


 ファンが回り、風が彼女の肌を撫でる。


「ぎゃああああああああああッ!!!」


 絶叫。


 スタジアムの空気が振動するほどの、魂を削るような叫び。


 肌が風に触れるだけで、皮を剥がれるような激痛が走るのだ。


 彼女は身をよじり、存在しない手足で必死に何かを掴もうともがく。


「……ッ!」


 俺は座席の手すりを握りしめ、隣のアレクは口元を押さえ、今にも吐きそうだ。


 周囲の学生たちを見る。


 恐怖に震える者、無関心を装う者。


 そして……中には、その惨状を見て、歪んだ笑みを浮かべ、興奮している者たちもいた。


 ケイオスのような連中だ。


 彼らにとって、これは極上のエンターテインメントなのだ。


(これが、帝国の教育か)


 俺の腹の底で、ドロドロとした黒いマグマが沸騰した。


 女帝像の足元の礎も酷かったが、これはさらに質が悪い。


 生きたまま、死ぬことも許さず、永遠に尊厳を踏みにじり続ける。


 しかも、その理由は「人間を平等に扱おうとしたから」だ。


 ふざけるな。


 こいつらは悪魔だ、人間じゃない。


 俺はステージの少女を凝視した。


 痛みと快楽で白目を剥きかけているが、その瞳の奥底に、微かな光が見えた。


 それは諦めではない。


 100年の拷問に耐え抜いた、強靭な精神の残り火。


 まだ、壊れていない。


 彼女の魂は、まだ死んでいない。


(……欲しい)


 不意に、俺の中に強烈な欲求が生まれた。


 同情?憐憫?いや、そんな生温い感情じゃない。


 俺は将来、自分の国を作る。


 帝国をぶっ壊し、5等民を解放し、新世界秩序を作るつもりだ。


 だが、俺には「統治」のノウハウがない。


 金儲けや喧嘩は得意だが、国を治め、法を作り、民を導く方法は知らない。


 だが、彼女は知っているはずだ。


 一国の姫として生まれ、帝王学を学び、そして「平等」という理想を掲げた国の記憶を持っている。


 100年前の知識とはいえ、その根幹にある精神は、今の俺に最も必要なものだ。


 それに何より……。


 こんな腐った見せしめとして終わらせるには、あまりにも惜しい「素材」だ。


 彼女を救い出し、五体を再生させ、再びその足で立たせてやる。


 そして、彼女を虐げた帝国を見返してやる。


 それは、俺にとって最高の復讐であり、最高に痛快なシナリオじゃないか。


「アレク」


 俺は低い声で呼んだ。


「な、なに……?」


「あの姫様、俺がもらう」


「は……?」


 アレクは涙目で俺を見た。


 何を言っているのか理解できないという顔だ。


「正気かい?言っただろう、彼女は帝国の備品だ。皇帝直属の管理下にある『所有物』だよ。いくら君が大金持ちでも、金で買うことはできない」


「金で買えないなら、奪えばいい」


「奪うって……ここから?無理だよ!警備は厳重だし、彼女の首輪には爆弾が仕掛けられてる。無理やり外そうとすれば木っ端微塵だ!」


「力ずくじゃないさ」


 俺は視線をステージから外し、スタジアムの天井を見上げた。


 そこには、学園祭のポスターがホログラムで投影されていた。


『スター・ライド・グランプリ。優勝者には、望む願いを一つだけ』


 俺の口元が、三日月のように歪んだ。


「……賞品として、いただく」


「えっ……まさか、レースに出る気!?」


「ああ。学園の権限で叶えられる願い、だったな?備品の一つや二つ、優勝賞品として譲渡させることくらい、理事会なら可能だろ」


「そ、それは……理論上は可能かもしれないけど……!でも、あのレースはプロ級の腕自慢ばかりだぞ!君にエアバイクの経験なんて……」


「ないな」


 俺は即答した。


 エアバイクどころか、自転車に乗った記憶すらない。


「でも、関係ないね。一番速くゴールすればいいんだろ?」


 俺は立ち上がった。


 講義はまだ続いていたが、これ以上この胸糞悪いショーを見ている必要はない。


 シャルロット姫の悲鳴が、俺の背中を押している。


「待っててくれよ、だるま姫」


 俺は心の中で、彼女に語りかけた。


「その痛み、俺が全て買い取ってやる。3000倍の地獄から、天国へ連れて行ってやるよ。……ただし、助けた後は馬車馬のように働いてもらうからな。俺の国作りの参謀としてな」


 俺はスタジアムを出て、冷たい廊下を早足で歩いた。


 その目には、既にレースのゴールラインが見えていた。


 ***


 数日後。


 フェンリルの格納庫は、熱気と火花に包まれていた。


「マスター、無茶です!あと1日で銀河最速の機体を仕上げろなんて!」


 シズが文句を言いながらも、高速でマニピュレーターを動かしている。


 彼女の前にあるのは、軍用の偵察用エアバイクのフレームだ。


 俺が帝国首都星(セントラル)の下層区画にあるスクラップ屋で調達したゴミ同然の代物だが、ベースとしては悪くない。


「やるんだ、シズ。俺たちの技術ならできるはずだ」


 俺は作業着の袖をまくり、作業に集中する。


「エンジンは、フェンリルのサイドスラスターで使用されているものを二基使う。動力炉はフェンリルの補助ジェネレーターをバイクに直結する。出力は既存のバイクの10倍に跳ね上がるぞ」


「機体が耐えられません!空中分解します!非推奨です!」


「そこを流体金属装甲で補強するんだ。フレーム全体にコーティングしろ。形状記憶機能を持たせれば、多少のクラッシュなら瞬時に修復できる」


「空力特性はどうしますか?今の空気力学を完全に無視したデザインでは、音速を超えた時点で衝撃波に巻き込まれます」


「力技でねじ伏せる。前方に不可視のエネルギーフィールドを展開し、空気を切り裂く楔を作る。『見えない槍』に乗って突っ走るイメージだ」


 そこに、アレクが駆け込んできた。


「クロウ!エントリーしてきたよ!……って、うわあ、何だいこの化け物は!?」


 アレクは、組み上がりつつある俺のマシンを見て叫んだ。


 それは、バイクというよりは、エンジンにサドルを付けただけのロケットのようだった。


 漆黒のボディに、赤いラインが走っている。


 獰猛なサメのようなシルエットだ。


「名付けて『ナイトメア』号だ。他のレーサーどもに、悪夢を見せてやるための機体さ」


「悪夢を見るのは君の方だよ……。本当にこれで飛ぶ気かい?テスト走行もしてないのに」


「ぶっつけ本番が俺のスタイルだ。……アレク、コースのデータは?」


「あ、ああ。ここにある。シミュレーションで見ると、勝負所は第3セクターの『魔のカーブ』だ。ここを減速なしで抜けられる奴はいない」


 俺の辞書にブレーキという文字はない


 不敵に笑い、マシンの側面をポンポンと叩いた。


「ブレーキ無しでも無理やり曲げればいい。急旋回できる様に、小型のサイドスラスターも別途必要だな」


「マスター」


 それまで黙っていたシズが、冷ややかな声で口を挟んだ。


「推力による強制旋回を行った場合、発生する横Gは15Gを超えます。マスターは全身義体化もしていない生身の人間ですから、耐えられるGを超過しています。内臓が破裂しますよ」


「それなら、パワードスーツを着込んで補えばいい。内臓が潰れる前に、外側から締め上げて固定してやるさ」


「パワードスーツだって!?そんな重たい物を着て乗るつもりか?」


 アレクが目を剥くが、俺は巨大なエンジンを叩いた。


「見ろよ、この馬鹿でかいエンジンを。出力は余りまくってるんだ。パワードスーツの重さだと?ペイロードにはまだまま余裕があるぜ」


「……めちゃくちゃだ」


 呆れるアレクを他所に、俺はふと思い出したように尋ねた。


「そういえばアレク、確かレースのレギュレーションでは、攻撃ありだったよな?どんな兵器を付ければ良いんだ?」


「へっ……?兵器だって!?正気かい!?ただでさえバランスが限界なのに、これ以上危険物を積むつもりか!?」


「とりあえず、フェンリルの対空迎撃システムから『レーザー機関砲』を2門ほど引っぺがしてつけておくか」


 俺はアレクの悲鳴を笑い飛ばし、完成したマシンのシートを撫でた。


「待っていろ、シャルロット。お前の手足代わりになる、最高の翼ができたぜ」


 レース当日まで、あと1日。


 帝国首都星(セントラル)の雪はまだ降り続いている。


 だが、俺の心の中は、灼熱のエンジンのように燃え上がっていた。


 彼女の100年の悲劇を終わらせるための、最速の戦いが始まろうとしていた。

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