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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第3章 貴族学校編

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第26話 開演準備

 帝国首都星(セントラル)の夜は、人工的な光で塗り固められている。


 上層区画から見下ろす下層の街並みは、まるで宝石を散りばめたようだが、その光の陰には、ケイオス・フォン・ローゼンバーグのような蛆虫が巣食う闇が広がっている。


「裏風俗街、か……」


 俺はフェンリルの艦長室で、シズが収集したデータをモニターに映し出していた。


 学校の敷地外れにある廃棄された旧校舎。


 表向きは立ち入り禁止区域だが、そこには毎夜、高級エアカーが吸い込まれていく。


 中では、拉致されたり金で買われたりした5等民の女性たちが、貴族の学生たちの「玩具」として消費されているという。


「吐き気がするな。壊れたら殺処分だと?人間を何だと思っていやがる」


 俺はグラスを強く握りしめた。


 ミシミシと悲鳴を上げる。


 怒りでどうにかなりそうだが、ただ正面から乗り込んで皆殺しにするだけでは芸がない。


 相手は公爵家の息子。


 権力と金の力で、いくらでも揉み消すだろう。


 だからこそ、奴の精神をへし折り、二度と立ち上がれないほどの恐怖を刻み込んでやる必要がある。


「シズ、通信回線を開け。惑星エンドだ」


「了解しました。超光速通信、接続します」


 モニターにノイズが走り、数秒後、赤茶けた荒野を背景にした男の顔が映し出された。


 グレイ・ヴォルフ大佐だ。


 彼は砂埃にまみれながらも、生き生きとした表情をしていた。


『よう閣下。珍しいな、そっちから連絡なんて。帝国首都星(セントラル)の学校生活ってやつはどうだ?お友達はできたか?』


 ヴォルフがニヤリと笑う。


 背景からは、銃声や爆発音、そして兵士たちの怒号が聞こえてくる。


「ああ、おかげさまでな。クソみたいな連中と、最高の相棒が一人できたよ。……そっちはどうだ?あのヒヨっ子たちは」


『ヒヨっ子?訂正してもらおうか。今のあいつらは、飢えた狼だ。毎日死ぬ寸前まで追い込んでるからな。帝国軍の正規兵なんぞ、素手で引き裂けるレベルには仕上がってるぜ』


 ヴォルフは自慢げに親指で背後を指した。


 そこでは、パワードスーツを着た兵士たちが、実弾を使った模擬戦を行っているのが見えた。


 動きに無駄がない。


 殺気と連携が、画面越しでも伝わってくる。


『……で?用件はなんだ?ただの世間話をしに来たわけじゃねえだろ?』


 ヴォルフの目が鋭くなる。


 さすがは元大佐、勘が鋭い。


「ああ。帝国首都星(セントラル)で少し『演劇会』をやろうと思ってな。……ベンケイはいるか?」


『ベンケイ?ああ、あのデカブツか。今はハンガーで整備中だが……あいつを呼ぶのか?また随分と派手なことを』


「あいつの『顔』が必要なんだ。代わってくれ」


 ヴォルフが端末を操作すると、画面が切り替わった。


 映し出されたのは、巨大な整備ドックだ。


 その中心に、周囲の作業用ドロイドが見上げるほどの巨体が鎮座していた。


『……ん? 通信?私にですか?』


 重低音の、腹に響くような声。


 カメラがズームし、その顔が映し出される。


 無骨な鋼鉄の装甲に角ばったシルエット。


 そして、モノアイは赤く発光している。


 巨大ドロイド『ベンケイ』。


 地下鉄(メトロ)のステーションで見つけたドロイドだ。


「久しぶりだな、ベンケイ。調子はどうだ」


『おお……!その声は、マスターですか!お久しぶりです。こちらは絶好調です。毎日整備ばかりで、少々体がなまっておりますが』


 ベンケイが身を乗り出し、カメラに顔を近づける。


 その巨体に見合わぬ、礼儀正しい反応だ。


 見た目は厳つい鎧武者だが、忠実で実直な騎士のような性格に設定してある。


「そいつは良かった。……ベンケイ、お前に仕事をやる。面白いことを思いついたんだ」


『仕事……ですか。面白いことと言いますと、まさかまた巨大生物との格闘でしょうか?それとも敵要塞の破壊ですか?』


「ハハッ、相変わらず血の気が多いな。まあ、似たようなもんだ。最高にタチの悪い敵を、最高に派手にビビらせてやる仕事だ。……帝国首都星(セントラル)まで来れるか?」


帝国首都星(セントラル)……マスターのいらっしゃる場所ですね。承知しました。ちょうど腕が鳴っていたところです。すぐに参ります』


「お前単独でいい。オメガ・ドックにある高速強襲艇を使え。帝国首都星(セントラル)の超大型艦ドックまでの座標を送る」


『了解しました。強襲艇ならば数週間で到着できるでしょう。お待ちください、マスター。その面白い仕事、私が一番乗りで片付けてみせます』


 ベンケイが恭しく一礼し、通信が切れた。俺は満足げにモニターを消した。


「マスター。ベンケイを呼ぶということは……あの廃校舎を『物理的に』破壊するおつもりですか?」


 シズが静かに尋ねる。


「怪談話を作ってやるのさ。……帝国首都星(セントラル)のボンボンどもに、一生消えないトラウマを植え付けてやる」


 俺は窓の外、煌びやかな帝国首都星(セントラル)の夜景を見下ろし、凶悪な笑みを浮かべた。


 役者は揃いつつある。


 あとは、観客を一人生け捕りにするだけだ。


 数週間後。


 帝国首都星(セントラル)、第1区画。


 超大型艦専用ドックのゲート前に、一台のエアカーが滑り込んだ。


 降りてきたのは、貴族学校の制服を着たアレクだ。


 彼は緊張した面持ちで、ゲートを見上げている。


「……ここが、クロウの船があるドックか。第1区画の特別エリアなんて、公爵家でもなかなか借りられないのに」


 アレクはゴクリと喉を鳴らした。


 今日、彼はクロウから「面白いものを見せてやるから来い」と招待されたのだ。


 ケイオスの一件以来、クロウとはすっかり意気投合していたが、彼の私生活や「力」の源泉については、まだ謎が多かった。


 ゲートが開き、シズが出迎えに現れた。


「ようこそお越しくださいました、アレク様。マスターがお待ちです」


「やあ、シズさん。……クロウの船って、クルーザーか何か?」


「いえ。見ていただければ分かります」


 シズに案内され、アレクはドックの内部へと足を踏み入れた。


 そして、その足を止めた。呼吸さえも忘れた。


「……な、なんだ、これ……」


 彼の目の前に広がっていたのは、船という概念を超越した物体だった。


 全長3000メートル。視界に収まりきらないほどの超巨大な銀色の塊。


 その表面は、鏡のように周囲の景色を反射しているが、よく見ると呼吸をするように微かに波打っている。


「これが、マスターの座乗艦。戦艦『フェンリル』です」


「せ、戦艦……!?これが、個人の持ち物だって言うのか!?帝国軍の主力戦艦だって、こんなに大きくないぞ!」


 アレクは腰を抜かしそうになりながら、その威容を見上げた。


 流体金属装甲の艶めかしい輝き。


 それは美しく、同時に恐ろしいほどの圧力を放っていた。


 かつてクロウが「海賊を殲滅した」という噂を聞いた時、大袈裟だと思っていたが、これを見れば納得がいく。


 いや、海賊程度、この船の余波だけで消し飛ぶだろう。


「驚かせてすまないな、アレク」


 タラップの上から、クロウが手を振っていた。


 彼は私服のラフなシャツ姿で、手にはワイングラスを持っている。


「ようこそ、我が家へ。狭いところだが、くつろいでくれ」


「狭い……?君の辞書には『謙遜』という言葉がないのかい?」


 アレクは呆れながらも、興奮を抑えきれずにタラップを駆け上がった。


 艦内に入ると、そこはまるで高級ホテルのような内装だった。


 だが、壁や床の材質は見たこともない金属でできており、かすかにエネルギーの流れる音が聞こえる。


「先端工学科の君なら、この船の異常さが分かるだろ?」


 クロウがニヤリと笑う。


「ああ、分かるよ……分かりたくないくらいにね。この壁材、継ぎ目がない。溶接痕もリベットもない。一体成型なのか?それに、この動力音……反応炉の出力が桁違いだ。君は一体、どこの文明の遺産を掘り当てたんだ?」


「企業秘密だ。……ま、今日は船自慢をしに来たんじゃない。紹介したい奴がいるんだ」


 クロウはアレクを連れて、艦内の広大な貨物ブロックへと移動した。


 その中央に、一人の男……いや、一体の巨人が立っていた。


「……ッ!?」


 アレクは息を呑んで後ずさった。


 身長10メートル。


 重厚な黒鉄の鎧に身を包み、その頭部には、赤いモノアイが怪しく輝いていた。


『あ、マスター。その方が、例の「相棒」という方ですか?』


 巨人が口を開くと、重厚だが礼儀正しい声が響いた。


 見た目の威圧感とは裏腹に、その口調は紳士的だ。


「ああ。紹介しよう。こいつは『ベンケイ』。俺が所有するドロイドの一つだ」


 クロウが愛おしそうに巨人の装甲を叩く。


「べ、ベンケイ……?ドロイド、なのか?これほどのサイズの二足歩行型を重力圏で運用なんて、バランス制御が……」


 アレクは恐怖と好奇心の間で揺れ動きながら、恐る恐る近づいた。


『初めまして。そんなに怯えないでください。私は人を襲ったりしませんよ。……マスターの敵でなければ、ですが』


 ベンケイが巨大な顔を近づける。


 プシューッ、と排気音が鳴り、アレクの前髪が揺れた。


「ひっ……!」


「こら、ベンケイ。客人を脅すな。アレクは優秀な技術者だ。お前のメンテナンスも、いずれ任せることになるかもしれんぞ」


『ほう、それはありがたい。この図体です、整備していただける方が増えるのは大歓迎ですよ』


 ベンケイは器用に片膝をつき、アレクに目線を合わせて、巨大な指を差し出した。握手しろということらしい。


「よ、よろしく……ベンケイ」


 アレクはどうにか声を絞り出し、その指先におずおずと触れた。


 金属の冷たさはなく、ほんのりと熱を帯びている。


 クロウは満足そうに頷き、近くのコンテナに腰掛けた。


「さて、アレク。単刀直入に言おう。俺はこのベンケイを使って、ある『悪巧み』を実行するつもりだ」


「悪巧み……?」


「ああ。ターゲットは、ケイオス・フォン・ローゼンバーグ。そして奴が運営する『裏風俗街』だ」


 アレクの表情が凍りついた。


「く、クロウ……本気なのか?あそこを潰すって……」


「言っただろ?売られた喧嘩は買うってな。それに、5等民を好き勝手にオモチャにされるのは我慢ならない」


 クロウの目が、冷たく光った。


「だが、ただ突入して暴れるだけじゃつまらない。ケイオスは恐怖を知らない。自分が安全圏にいると思い込んでいるからだ。だから、俺はその安全圏を、理不尽な暴力と恐怖で粉砕してやる」


 クロウはベンケイを指差した。


「こいつを『亡霊』に仕立て上げる。廃校舎に出没する、復讐の巨大ドロイドだ。物理攻撃は一切通じず、壁をすり抜け、罪人の首を狩る化け物」


「そ、そんなことが……」


「できるさ。熱光学迷彩技術と、ベンケイのホログラム投影機能を組み合わせればな。奴の目の前で消えたり、巨大化したり、幽霊のような演出はお手の物だ。もちろん、実体もあるから、壁をぶち破って掴み上げることもできる」


 クロウは楽しそうに笑った。


 それは悪戯を企む子供の顔であり、同時に冷酷な策士の顔でもあった。


「アレク。お前には、そのサポートを頼みたい。お前は先端工学科で、学校の設備データや地下通路の図面にアクセスできるはずだ。廃校舎への侵入ルートと、セキュリティの穴を洗い出してくれ」


「僕に……共犯者になれってことかい?」


「嫌なら断ってもいい。だが、お前も言っていたな。あの女帝像が醜悪だと。ケイオスのやっていることは、あの像の足元にある死体と同じだ。……見過ごせるか?」


 アレクは俯いた。


 拳を強く握りしめる。


 彼の脳裏に、ケイオスに蹴り飛ばされた学生や、連れて行かれた女性たちの怯えた顔が浮かぶ。


 彼は臆病かもしれないが、卑怯者ではなかった。


「……分かったよ」


 アレクは顔を上げた。


 その目には、決意の光が宿っていた。


「僕だって、あいつのやり方は許せない。それに、こんな凄い船と、こんな凄いドロイドを見せられて……断れるわけがないじゃないか」


「ハハッ、そうこなくちゃな!」


 クロウは立ち上がり、アレクの肩を叩いた。


「作戦決行は、次の新月の夜だ。作戦名は『オペレーション・ゴースト・ハント』。……いや、逆か。幽霊が狩る側だからな」


『楽しみですね。悪党どもを震え上がらせればいいのですね?お任せください、演技には自信があります』


 ベンケイがニヤリと(したように見える目の光り方で)笑った。


「シズ、当日の演出プランを練っておけ。照明、音響、スモーク。ホラー映画顔負けの恐怖空間を演出するぞ」


「了解しました。ケイオスの悲鳴の周波数を予測し、最も効果的な恐怖演出を構築します」


「よし。アレク、お前はフェンリルのブリッジでオペレーターをやれ。特等席で、奴の無様な姿を拝ませてやる」


「……はは、責任重大だね。分かった、やるよ。僕たちの手で、学校の膿を出してやろう」


 三人と一体の、奇妙な共犯関係が結ばれた。


 銀色の巨艦フェンリルの中で、悪巧みという名の正義の計画が動き出す。


 帝国首都星(セントラル)の闇に巣食う小さな暴君はまだ知らない。


 自分が呼び寄せた因縁が、鋼鉄の怪物となってその喉元に迫っていることを。


「さて、ベンケイ。お前のそのボディ、少し塗装を変えるか。もっと亡霊っぽく、錆びついた血の色なんかがいいかもな」


『げっ、本気ですかマスター。今の黒い塗装、気に入っているんですが……。まあ、仕事なら仕方ありませんね』


「趣味が悪いなぁ……」


 アレクのぼやき声が、ドックに響いた。


 だが、その声はどこか楽しげだった。彼らの青春(?)は、ここから加速していく。

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