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銀河戦記フライハイト 〜廃棄惑星から始まる銀河帝国滅亡史〜【祝40万PV】  作者: 廣瀬誠人
第2章 帝国貴族編

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第21話 宇宙海賊退治

 数ヶ月後。


 屋敷の執務室で、シズが報告書を持ってきた。


「工場の稼働率は120%。ワーカーは近隣の開拓業者に、セラフィムは近隣の貴族たちに飛ぶように売れています。特にセラフィムは、その美しさと高性能さから、社交界でのステータスになりつつあるようです」


「ククッ、愚かなことだ。自分たちの金で、自分たちを殺す兵器を買っているとも知らずにな」


 俺は窓ガラスに映る自分の顔を見た。


 慈悲深い領主の顔と、冷酷な復讐者の顔。


「しかし、これだけ派手にやれば、近隣の領主や商会が黙っていないのでは?」


 ギリアムが紅茶のおかわりを注ぎながら、静かに懸念を示す。


「だろうな。ゴミ溜めがいきなり黄金を生み出し始めたんだ。ハエたちが寄ってくるだろう。……だが、それも想定内だ」


 その時、執務室の通信機が鳴った。


 港湾管理局からの緊急通信だ。


「男爵様! 大変です! 未確認艦影多数! 識別信号は……宇宙海賊団ブラッド・ファングです! こちらへ向かってきます!」


「宇宙海賊か……。シズ、ただちに周辺宙域へ全域警報を発令しろ。民間船は至急この宙域から離脱するように指示を出すんだ」


「承知いたしました」


「それから、気休め程度だろうが、ステーションを守るエネルギーシールドを展開しろ。全区画の防護シャッターも下ろせ」


「システム作動。シールド展開、完了。各区画の窓、防護シャッターにより封鎖されました」


 重々しい駆動音がステーション全体に響き渡り、執務室の大きな窓も分厚い金属のシャッターで完全に覆われ、外の星の光が遮断された。


 俺は立ち上がり、マントを翻した。


「経済の次は、治安の回復だ。領民たちに、新しい領主の力を見せてやるとしよう。シズ、フェンリルを出せるか?」


「もちろんです、マスター。いつでも出撃できるよう、暖機運転は済ませてあります。庭の害虫駆除も、執事の大切な役目ですから」


 シズが恭しく一礼し、ドロイドにしては珍しい、不敵な笑みを浮かべた。


 ギリアムもズボンの埃を払うようにして立ち上がる。


「お嬢様は、私がお守りいたします」


「ありがとう、ギリアム。ルル、少し大きな音がするかもしれないけど、ギリアムと一緒に待っていてくれ」


「うん! パパ、シズ、頑張ってね!」


 監視衛星は既にない。


 つまり、誰に遠慮することなく、俺の力をフル活用して暴れられるということだ。


「さて……。平和な商売の邪魔をする不届き者には、相応の教育が必要だな」


 海賊退治のために、執務室を出ようとしたーーその時だ。


 俺はふと足を止め、窓の外の宇宙を見上げた。


「……いや、待てよ」


 俺の脳裏に、ある考えが閃いた。


 これから俺が目指すのは、領地全体の軍事的な自立と、裏で準備している革命軍の実戦経験だ。


「予定変更だ、シズ。フェンリルは待機させておけ」


「では、どのように対処なさるのですか?」


 俺は執務室のデスクに戻ると、惑星エンドへの超光速通信回線を開いた。


 ホログラム・モニターに、訓練の煤にまみれたグレイ・ヴォルフ大佐の顔が映し出される。


「閣下。なんだ、もう寂しくなって連絡してきたのか? こっちは今、新兵たちの根性を叩き直している最中でね」


「いいニュースだ、大佐。実地訓練の機会をやる。動く的(ターゲット)を用意した」


 俺は宇宙海賊艦隊の座標データを転送した。


 ヴォルフがデータに目を走らせ、ニヤリと口元を歪める。


「宇宙海賊団ブラッド・ファングか。……おいおい、こりゃあデカイな。戦艦、巡洋艦、その他小型艇合わせて、総数3万隻。宇宙海賊団というより、独立国家の軍隊レベルだぞ」


「5万名の兵士たちを動員しろ。彼らの初陣だ。圧倒的な力で、完膚なきまでに叩き潰せ」


「了解した。で、どの艦を使う? 何隻出すか?」


 俺は少し考え、そして告げた。


「いや、単艦でいい。ラグナロクを出せ」


「……は?」


 さすがのヴォルフも、その艦名を聞いて絶句した。


 ラグナロク。


 オメガドックの最深部に眠る、艦隊の中でも最大最強の旗艦。


 旧時代の技術の粋を集め、来る決戦の為に建造された、全長20キロメートルに及ぶ超弩級戦艦だ。


「おいおい、正気か? たかが宇宙海賊相手に、神殺しの剣を抜く気かよ。オーバーキルにも程があるぞ」


「ハエを叩くのにハンマーを使う。それが、敵に絶対的な恐怖を植え付ける一番の方法だ。それに、5万人全員を一度に乗せて運用訓練をするには、あの船が一番手っ取り早い」


「……ククッ、違いない。あのバカでかい図体なら、5万人乗せてもゴーストシップみたいにスカスカだろうがな」


 ヴォルフは愉しげに笑った。


「それともう一つ、仕事がある。惑星エンドから出撃する際、上空にある帝国軍の監視衛星も掃除しておけ」


「監視衛星? 帝国軍の備品だぞ。壊せば帝国首都星(セントラル)がうるさいんじゃないか?」


「構わん。許可なら取るーー事後承諾でな。宇宙海賊討伐の緊急発進に伴う余波で、不幸にも故障したことにする。あるいは宇宙海賊の流れ弾が当たったでもいい。報告書はどうとでもなる」


「了解。掃除ついでに空も綺麗にしていくとするか。……総員、配置につけ! 実戦だ!」


 通信が切れる。


 俺は再び窓の外、迫りくる宇宙海賊艦隊の方角を見据えた。


 シズが新しい紅茶を淹れてくれる。


 俺はヴォルフ達が来るのをゆっくりと待つことにした。


 ***


 一方その頃、惑星エンドでは。


 地下50,000メートルに広がるオメガドックが、かつてないほどの高エネルギー反応に震えていた。


 5万名の兵士たちが、広大な通路を走り、巨大なエアロックへと吸い込まれていく。


 彼らが乗り込むのは、視界に収まりきらないほどの巨艦。


 超弩級戦艦ラグナロクだ。


 艦橋は、それ自体が一つの大広間のような広さを持っていた。


 ヴォルフは中央の指揮官席に座り、慣れない手つきでコンソールを操作する元軍属のオペレーターたちに檄を飛ばした。


「初めて乗る艦だが、ビビるな! こいつのAIサポートが貴様らの未熟な操作を完全補正してくれる! 貴様らはただ、目の前の敵を殺す意志を持てばいい!」


「は、はいっ! メインエンジン、出力上昇! 臨界点突破!」


「よし。オメガドック、天蓋開放。ラグナロク、発進!」


 惑星の地殻が悲鳴を上げ、大地が割れる。


 赤茶けた荒野に巨大な亀裂が走り、そこから黒い山脈のような船体が浮上を開始した。


 砂嵐を切り裂き、重力を無視して上昇するその姿は、まさしく神話の怪物の目覚めだ。


 大気圏離脱コース上。


 ヴォルフはモニターに映る小さな光点ーー帝国軍の監視衛星を睨みつけた。


「進路上の障害物を排除する。副砲、照準合わせ」


「し、照準固定!」


「撃て」


 ラグナロクの側面にある、無数にある砲塔のごく一部、副砲の一門が火を吹いた。


 放たれたのは、副砲の大出力レーザー砲だ。


 これだけで大陸を一つ消し飛ばせる威力がある。


 青白い光の帯が空を走り、監視衛星を掠めたーーいや、直撃する必要すらなかった。


 その余波だけで、衛星は原子レベルまで分解され、光の粒子となって消滅した。


「障害物排除確認。大気圏離脱!」


 ヴォルフは鼻を鳴らした。


「脆いもんだ。帝国の目玉も、俺たちの前ではガラス玉以下だな。……よし、超高速航行(ハイパードライブ)エンジン起動! ノルド・ステーションへ急行する!」


 ***


 ノルド・ステーションの周辺宙域。


 宇宙海賊団ブラッド・ファングの艦隊は、無防備なステーションを前に勝利を確信していた。


「ヒャハハ! 聞いた通りだぜ! 監視衛星もねえ、軍の駐留部隊もいねえ! あるのはボロいステーションと、成金の男爵様だけだ!」


 宇宙海賊船のブリッジで、船長が下卑た笑い声を上げていた。


「野郎ども、まずは港を制圧しろ! 金目の物は全部奪え! 新しい工場で作ってるドロイドも高く売れるらしいぞ! 抵抗する奴は宇宙へ放り出せ!」


 彼らは完全に舐めきっていた。


 この辺境の領主など、脅せばすぐに金を出す臆病者だと。


 その時だった。


 空間センサーが異常な数値を弾き出したのは。


「せ、船長! 超高質量の重力反応! 至近距離にワープアウトしてきます!」


「あぁ? 帝国軍か? チッ、逃げる準備を……」


「ち、違います! 規模がおかしいです! 質量反応、計測不能! こ、これは……超弩級戦艦です⁉︎」


「はあ⁉︎ 何を寝言を言って……平和な現代に超弩級戦艦なんて存在しねえ……」


 空間が歪み、裂ける。


 そこから現れたのは、巡洋艦でも戦艦でもなかった。


 宇宙海賊たちの視界を、そして思考を塗りつぶすほどの、圧倒的な壁。


 全長20キロメートル。


 ノルド・ステーションすら小さく見えるほどの超巨大戦艦が、宇宙海賊艦隊の目の前に鎮座していた。


 白銀の威容あるその姿は、死神そのものだ。


「な、な、なんだありゃあああああッ⁉︎」


 宇宙海賊船長が悲鳴を上げる。


 彼らの乗る戦艦など、ラグナロクの超高速航行(ハイパードライブ)エンジン一つよりも小さい。


 数万隻の大艦隊ですら、この巨体の前では羽虫の群れにしか見えない。


 ラグナロクのブリッジから、全帯域通信を通じてヴォルフの声が響き渡る。


 それは宇宙海賊たちの耳元で唆されているかのように鮮明だった。


「こちら、フライハイト男爵領・私設防衛艦隊旗艦ラグナロク。貴様らが領海侵犯及び略奪行為を企てた宇宙海賊だな」


「し、私設艦隊だと⁉︎ こんな化け物を持ってる男爵がいてたまるか!」


「降伏勧告は行わない。貴様らは害虫だ。害虫に権利などない」


 ヴォルフの冷酷な宣告。


 同時に、ラグナロクの船首が宇宙海賊艦隊に向けられた。


 そこにあるのは、艦の全長に匹敵するほどの巨大な発射口。


 新兵器、惑星破壊兵器対消滅縮退砲(スーパー・ノヴァ)の砲門だ。


「目標、敵艦隊中央。チャージ率、1%。……フッ、1%でも過剰火力か」


 ヴォルフが獰猛な笑みを浮かべ、トリガーに手をかけた。


「消えろ。対消滅縮退砲(スーパー・ノヴァ)、発射!」


 空間そのものが悲鳴を上げた。


 発射されたのは、光ではない。


 漆黒の闇だ。


 重力崩壊を起こした極小のブラックホールに似たエネルギービームが、宇宙海賊艦隊の中心へと放たれた。


「な、なんだこれは……⁉︎ 吸い込まれ……うわあああああっ‼︎」


 着弾の瞬間、闇が膨張した。


 それは周囲の空間ごと、数万隻の宇宙海賊船を飲み込み、押し潰し、素粒子レベルまで分解していく。


 爆発音すら聞こえない。


 光も、音も、物質も、すべてが漆黒の球体の中に消えていく。


 圧倒的な静寂と、絶対的な破壊。


 数秒後。


 闇が収束し、消滅すると、そこには何も残っていなかった。


 数万隻の艦隊も、数億人の宇宙海賊たちも、デブリ一つ残さず、宇宙から拭い去られていた。


 完全なる消滅。


 ラグナロクのブリッジでは、一瞬の静寂の後、5万人の兵士たちから割れんばかりの歓声が上がった。


「やった……やったぞ!」


「俺たちの勝ちだ!」


「見たか帝国! これが俺たちの力だ!」


 彼らは抱き合い、涙を流して喜んだ。


 今まで逃げることしかできなかった彼らが、初めて手にした圧倒的な勝利。


 自分たちの操る艦が、敵を一撃で粉砕したという事実は、彼らに強烈な自信と誇りを植え付けた。


 ヴォルフは騒ぐ兵士たちを見守りながら、深くシートに背を預けた。


「……フン、呆気ないもんだ。だが、いい初陣にはなったな。兵士に自信をつけさせることができた」


 ノルド・ステーション、執務室。


 俺はモニター越しにその一方的な蹂躙劇を眺め、満足げに頷いた。


「素晴らしい威力だ。やはりラグナロクは桁が違うな」


「ええ。ですが旦那様、少々やりすぎたかもしれません。ステーションの反対側でも強力な重力震を観測しました。監視衛星は事前に破壊してありますので、帝国軍には感知されませんが」


 ギリアムが苦笑しながら、割れたティーカップの破片を片付けている。


「それよりシズ、帝国への報告書だ」


「はい、作成済みです。宇宙海賊の大規模艦隊が来襲。我が領の防衛隊が迎撃に成功するも、激しい戦闘によりエンド周辺の監視衛星に流れ弾が命中、ロスト。宇宙海賊艦隊は動力炉を暴走させて自爆特攻を試みたため、残骸は回収不能……これでよろしいでしょうか?」


 シズが無表情で読み上げる内容は、事実とはかけ離れた出鱈目だが、証拠が何も残っていない以上、帝国も追求しようがない。


「完璧だ。送信しておけ」


 これで、近隣の宇宙海賊や小賢しい領主たちは、二度と手出しできまい。


 そして帝国も、辺境になかなか骨のある私設軍を持つ男爵がいると認識するだろうが、まさかそれが自分たちを滅ぼす牙だとは夢にも思うまい。


「パパ! すごーい!」


 ルルが部屋に入ってきて、モニターを見てはしゃいでいる。


「ああ、すごいだろうルル。あれが、俺たちの守り神だ」


 俺はルルを抱き上げ、その頬にキスをした。


 平和な日常と、圧倒的な暴力。


 その二つを両立させながら、俺の国作りは加速していく。


 俺たちは静かにグラスを傾けた。


 帝国首都星(セントラル)から最も遠くの彼方で、新たな時代の足音が響き始めていたのだ。


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