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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第2章 帝国貴族編

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第15話 貴族の成り方

 地下50,000メートルに広がる「オメガドック」に、静寂が満ちていた。


 だが、それは以前のような死んだ静けさではない。


 圧倒的なエネルギーを内包した、嵐の前の静けさだ。


「改修完了率、100%。全艦、システム・オールグリーン。作業用ドロイド配備完了。エネルギー補給完了」


 シズの声が、ラグナロクの司令室に凛と響き渡る。


 俺は艦長席から立ち上がり、眼下に広がる光景を見下ろした。


 そこにあるのは、半年前に見た錆びついた鉄屑の山ではない。


 見渡す限り、銀色に輝く流体金属装甲で覆われた、1000万隻の神話的艦隊だ。


 一隻一隻が、俺たちの工場が生み出した最新鋭のAIと兵器を搭載し、帝国軍の現行艦艇を遥かに凌駕する性能を持っている。


「終わったな……。長かったようで、あっという間の半年だった」


 俺は感慨深く呟いた。


 この半年間、俺たちは不眠不休で働き続けた。


(といっても、ドロイド以外は疲れないが)


 ベンケイが資源回収車部隊を指揮して、地表のゴミを食らい尽くし、工場がそれを資材に変え、無数の工作艦がネズミ算式に仲間を増やしていく。


 その光景は、まさにエンジニアとしての夢の具現化だった。


「マスター。これで準備は整いました。いつでも出撃可能です。帝国の主要惑星を焦土に変えるのに、計算上、1ヶ月もかかりません」


 シズが淡々と、しかし物騒なシミュレーション結果を提示する。


「ああ、そうだな。俺たちをゴミのように捨てた連中に、ゴミの恐ろしさを教えてやる時が来た」


 俺は拳を握りしめ、全軍出撃命令を下そうとした。


 その時だった。


「お待ちくだされ、クロウ殿」


 控えていたギリアムが、静かに、しかし力強く声を上げた。


「……どうした、ギリアム。怖気づいたか?」


「滅相もございません。私はこの命、とっくに貴方様に預けております。ですが……一つだけ懸念がございます」


 ギリアムは悲痛な面持ちで、ホログラムの銀河地図を指差した。


「我々が攻撃しようとしている帝国の軍事拠点、あるいは資源採掘惑星。そこには、誰がいると思われますか?」


「誰って……帝国兵と、貴族どもだろう?」


「それだけではございません。最前線で盾にされているのは、常に我らと同じ『5等民』なのです」


 俺はハッとした。


 脳裏に、かつての自分の姿がよぎる。


 危険な現場で、防護服もなしに働かされていた日々。


 艦船のエンジンルームで、高レベル放射線を浴びながら整備させられていた仲間たち。


「もし、我々が力任せに艦隊戦を仕掛ければ……帝国軍は壊滅するでしょう。ですが、同時に巻き添えとなり、あるいは帝国軍によって人間の盾にされ、多くの同胞が死ぬことになります。それは、クロウ殿の本意でございましょうか?」


「……ッ」


 俺は言葉を詰まらせた。


 俺の目的は、帝国への復讐だ。


 だが、それ以上に「5等民の救済」を掲げたはずだ。


 助けるべき相手を、俺自身の放った主砲で焼き殺す?


 そんなのは、ただの虐殺者だ。


 帝国の貴族共と変わらない。


「じゃあどうすればいい!指をくわえて見ていろと言うのか?ステルスで隠れているだけじゃ、誰も救えないぞ!」


「いいえ。戦わずして、彼らを救う方法がございます」


 ギリアムはニヤリと、老獪な笑みを浮かべた。


 それは、長年帝国で生き抜いてきた知恵者の顔だった。


「クロウ殿。帝国の法律をご存知ですかな?5等民は『人間』ではありません。『備品』です」


「ああ、嫌というほど知ってるよ。だから勝手に移動もできないし、辞めることもできない」


「左様。彼らは自由意志での移動を禁じられています。ですが……『所有者』が変われば、話は別です」


「所有者……?」


「帝国の辺境宙域では、慢性的な人材不足……特に『貴族』が不足しております。本来、統治は貴族の義務ですが、辺境の汚い惑星になど誰も行きたがりません。ゆえに、貴族が居ない領地は、帝国首都星(セントラル)から派遣された、代官が統治を代行しているのが現状です」


 ギリアムは続ける。


「帝国中央にとって、辺境などどうでもいいのです。税金さえ納められれば、誰が治めていようが関知しません。そこには、巨大な抜け穴があります」


「抜け穴?」


「金です。代官に多額の賄賂を渡し、正規の手続きさえ踏めば……誰でも『下級貴族(2等民)』の位を買うことができるのです。実際、銀河の裏社会を牛耳るマフィアや犯罪組織のボスが、金で男爵位を買い、合法的に惑星を支配しているケースは多々あります」


 俺は呆気にとられた。


 腐っているとは知っていたが、そこまでとは。


「つまり……俺に『貴族』になれと言うのか?」


「はい。クロウ殿が貴族となり、正式な『領主』となれば、帝国法に基づいて堂々と5等民を『買い上げる』ことができます。これなら、一滴の血も流さず、合法的に彼らをこのエンドへ移住させることが可能です」


「は……はははは!」


 俺は乾いた笑い声を上げた。


 傑作だ。


 ゴミ捨て場に捨てられた元5等民が、金で貴族の座を買う?


 帝国が最も軽蔑する「成金」になって、奴らのシステムを逆手に取るというのか。


「最高だ、ギリアム。その案、乗った」


 俺はニヤリと笑った。


「戦争は後回しだ。まずは『お買い物』と行こうじゃないか。シズ、俺たちの資産状況はどうだ?」


計算不能(オーバーフロー)です」


 シズが真顔で答える。


「この半年間、ベンケイが回収し、工場で精製したレアメタル、金、プラチナ、オリハルコン、ヒヒイロノカネ等の貴金属は、オメガドックの倉庫を埋め尽くしています。帝国通貨に換算すれば、国家予算の数百年分に相当します」


「ククク……。貧乏貴族どもが腰を抜かすほどの『財布』があるわけか」


 俺は指を鳴らした。


「よし、方針変更だ。これより俺たちは『成金貴族』になるぞ。銀河一の金持ちとして、帝国の玄関を正面から堂々と叩くんだ」


 ***


 数日後。


 惑星エンドから数光年離れた場所にある、帝国最北端に位置する、辺境交易ステーション『ノルド』。


 ここは、複数の辺境惑星を管轄する代官所が置かれている場所だ。


 薄汚れたネオンが輝き、怪しげな宇宙船が出入りする、欲望と犯罪の吹き溜まりのようなコロニー。


 その宙域に、突如として空間の歪みが生じた。


 出現したのは、辺境の交易ステーションの常識を覆す超巨大構造物だった。


 全長3000メートル。


 旗艦ラグナロクと同様の流体金属装甲を備え、恒星の光を反射して神々しいまでに白銀に輝く威容。


 俺たちが工場の万能物質(マター)で作り上げた、最新鋭戦艦『フェンリル』だ。


 このフェンリルの内部にも、「万能物質(マター)製造工場」が搭載されている。


 流石に旗艦であるラグナロクや、拠点であるオメガドックに据え付けられた巨大工場と比較すれば、その生産規模や変換効率は数段劣る。


 だが、それでも独立した製造ラインを持っている意義は大きい。


 出先でのちょっとした消耗品の補充や、戦局に合わせた小型ドロイド、特殊兵装の現地改修程度なら、その場ですぐに対応することが可能だ。


 まさに「動く工廠」としての機能を備えた、自己完結型の万能艦。


 ステーションの周辺では、そのあまりの巨大さに、周辺を航行していた小型船が、慌てて進路を変えて逃げ惑う。


『こ、こちらノルド宙域管制!所属不明の……超大型艦へ告ぐ!貴艦のサイズは規格外だ!ドックに入りきらない!直ちに停船せよ!これ以上接近すればステーションに衝突する!!!』


 通信機から、管制官の悲鳴のような警告が響き渡る。


 俺はフェンリルの広大なブリッジで、優雅に足を組んでモニターを見つめた。


「騒がしいな。客に向かって挨拶もないのか」


 俺はシズに目配せをする。


 シズが通信回線を開いた。


「こちら、戦艦フェンリル。オーナーのクロウだ。……ドックに入らない?知ったことか。お前たちの港が小さすぎるのが悪い」


『なっ……!?無茶苦茶だ!』


「安心しろ、ぶつけたりはしない。ステーションの横に停めるから、そこから連絡艇を出す。……ああ、それと」


 俺は不敵に笑い、管制官にとあるデータを送信した。


 それは、高純度の「金塊」の成分データと、この船の積載量を示すリストだ。


「入港税の代わりに、これを置いていく。文句はないな?」


『こ、これは……金塊!?し、少々お待ちください!ただいまVIP航路を確保します!特例措置として、ステーション外壁への接舷を許可します!』


 管制官の声が裏返る。


 現金なものだ。


 フェンリルは、その巨体をステーションに横付けするように停止した。


 まるで、小石に寄り添う巨岩だ。


 俺たちはフェンリルのハッチから、豪華な装飾を施した小型シャトルでステーションへと乗り込んだ。


 港に降り立つと、そこには既にレッドカーペットが敷かれていた。


(慌てて用意したのか、少し短いが)


 俺は、シズに仕立てさせた最高級のスーツに身を包み、サングラスをかけて降り立った。


 背後には、秘書官の姿をしたシズが控えている。


 ルルとギリアムはフェンリルで留守番だ。


「ようこそ、ようこそ!このような辺境へ!いやはや、度肝を抜かれましたぞ!あのような巨艦を個人で所有されているとは!」


 揉み手をして出迎えたのは、脂ぎった禿頭の男だった。


「申し遅れました。私、この宙域を統括する代官、ゴルド・ダイスキーと申します」


 ゴルド・ダイスキー。


 名前の通り、金と権力が大好きそうな、小悪党の典型のような顔をしている。


「貴方が船長さんですかな?帝国の最新鋭戦艦ですら、あそこまで大きくはない。一体どこで手に入れたのです?」


「俺はクロウだ。ただの放浪の商人さ。……まあ、辺境の遺跡で少しばかり『遺産』を見つけてな。直して使っているだけだ。なあ、ゴルド。あんたも商売人なら、話は早いはずだ」


 俺はシズに目配せした。


 すると、シズは代官の目の前に、一つのアタッシュケースを放り投げた。


 中には、工場で精製した純度99.9999%のゴールドバーがぎっしりと詰まっている。


「ヒィッ……!」


 ゴルドの目が、金貨のように丸くなる。


「こ、これは……!」


「ほんの挨拶代わりだ、ゴルド。俺は『地位』が欲しくてね。金も力も余るほどあるが、肩書きがないと不便で仕方がない。お前の権限で、俺をこの辺境の『領主』にしてくれないか?もちろん、お礼は弾む」


 俺はサングラスをずらし、ニヤリと笑った。


 背後には、窓の外を埋め尽くす白銀の巨艦フェンリルが見える。


 金と暴力。


 その両方をこれ以上ないほど見せつけられたゴルドに、拒否する選択肢などなかった。


「お安い御用ですとも!」


 ゴルドは地面に落ちているアタッシュケースを拾い上げ、金塊に頬擦りしそうな勢いで頷いた。


「クロウ様、貴方様のような力あるお方こそ、帝国貴族に相応しい!すぐに手続きを……いや、今すぐ仮免許を発行しましょう!」


 こうして、俺はあっさりと帝国貴族(男爵)の地位を手に入れた。


 元5等民の俺が、金と武力で買った男爵位。


 だが、これさえあれば、俺は堂々と帝国中を歩き回り、同胞たちを「買い物」という名目で救い出すことができる。


 俺は心の中で、帝国の腐敗したシステムに感謝した。


 そして同時に、誓った。


 この男爵位を使って、お前たちの土台を内側から食い荒らしてやると。


 銀河を股にかけた、最大の「人助け(ショッピング)」の始まりだ。

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