桃焔ノ血(とうえんのち)―継がれし者、鬼を断ツ―
誰かさんのご要望です。
◇プロローグ
“鬼禍”と呼ばれる未解決事件が続発していた。
被害現場に残されるのは、常軌を逸した破壊痕と、奇妙な「焼け跡」。目撃証言は曖昧で、曰く“人ではない何か”が跳梁していたという。
だが政府は沈黙を貫いた。真実は隠蔽され、世間には流言と都市伝説だけが残された。
――そして今日もまた、ひとつの物語が始まろうとしていた。
◇第一節 静かなる日常、揺らぐ時
高校二年、**桃瀬 紅牙**は、飽き飽きした日常の中でため息をついていた。
「またかよ、“鬼禍”特集……ニュースもワイドショーも、飽きねえな」
自宅のテレビでは、街頭インタビューが流れている。
『赤い目の何かが……いや、たぶん見間違いです!』
『カメラが壊れてて……でも、あの声は絶対、人じゃ……!』
「くだらねぇ」
リモコンでテレビを切る。
日常を壊す“非日常”に、興味はなかった。紅牙にとって、鬼などただの昔話。――そう、ついさっきまでは。
◇第二節 放課後の邂逅
その日、紅牙はひとりで帰宅していた。夕暮れの住宅街。人通りは少なく、空はまるで焼けるように赤かった。
不意に、空気が変わる。
「……ん?」
妙な気配。背後で何かが蠢いている。振り返ると、そこには**“黒い影”**があった。
人ではない。
明確にそう感じた。異形の腕、裂けた口、赤い双眸。まるで伝承に描かれた「鬼」そのもの。
――“見つけた”――
声にならない“声”が、頭の中に響く。
逃げる時間はなかった。瞬時に間合いを詰められ、鋭利な爪が紅牙の頬をかすめた。
「ぐっ……!」
倒れ込む。目の前で、鬼が咆哮した。
(……死ぬ……俺、ここで――)
そのときだった。胸の奥が、熱く、光った。
◇第三節 桃ノ血、覚醒ス
「――……っ、ぐぅ、あああああッ!!」
紅牙の右手が光に包まれた。
紋様が浮かぶ。桃の花を象った“印”。そして、空間が割けるようにして、一本の刀が現れた。
白銀の刀身。桃色の輝き。何かが、紅牙の中で目覚めた。
「“鬼狩の血”……だと……?」
自分でも、なぜ知っているのか分からなかった。だが確信だけはあった。
これは、自分に刻まれた“宿命”――
紅牙は立ち上がり、刀を構えた。
「来いよ、鬼。……ぶっ殺してやる」
◇第四節 戦慄の交戦
鬼が突進する。紅牙はそれを――見切った。
一閃。
桃色の斬撃が、空を裂く。刀身から迸るのは、ただの刃ではない。
**「鬼を断つ血統の力」**そのものだ。
何度も攻撃を仕掛けてくる鬼。異形の力をもってしても、紅牙の刃に抗えない。
やがて、鬼の身体に無数の裂傷が走る。
――最後の一撃。
「鬼禍――断罪。」
刀が輝いた瞬間、鬼の咆哮が空に消える。
塵となって崩れ落ちたその姿に、紅牙はしばし黙して立ち尽くした。
◇第五節 後日、扉は開かれる
翌朝。紅牙のもとに、一通の封筒が届く。
送り主は――「桃源学園 入学管理局」
「……なんだよこれ。“因子適合者”? “鬼討ちの継承者”?」
中には、奇妙な校章と、「討鬼士」と書かれたIDカードが入っていた。
――『桃太郎の血を継ぐ者へ。目覚めを祝し、学びの場を与える。鬼の時代は終わっていない』――
「……マジかよ」
だが、紅牙は知っていた。あの“力”を、無視することなどできないと。
かつて鬼を斬った英雄――その血は、令和の世にも確かに“継がれていた”。
◇エピローグ
夜の桜並木。誰もいないはずの歩道に、ひとりの少女が佇む。
「――目覚めたか。桃瀬紅牙。ならば、試す価値はある」
その目は冷たく、どこか哀しげだった。
「私たちの敵は、ただの鬼ではないのだから……」
闇に消える少女。その背中には、雉の紋章が浮かんでいた。
完
意外と書けましたね。ちなみにこれが最終話ですよ。