4話 父と老人と僕
僕は老人の後についていった。老人は病院の屋上のベンチに腰掛け話し出した。
「わしはさっきのお前の戦いを見ていた者だ。」
「僕は何をしてしまったんですか」
と僕は間髪入れずに老人に聞き返した。
「君の動きは2倍になり、筋力も2倍になっていたように感じたのう。相手のグランのせがれも手の打ちようがなかったようじゃの。そして、グランのせがれが気を失ってもなお、君が攻撃を続けたため、試験監督が君を気絶させたってわけじゃよ。」
「なんで僕はそんな状態になったのですか」
「わしにもわからんが。昔、精神が身体を超越することで数倍の力が出ると聞いたことがあるがのう。また、伝承ではトアノタのクリスタルを取り込むと、全て10倍になるという噂もあったが、君と関係があるというのはまだわからんのじゃ。」
と、説明を受けた。そして、老人は落ち着いた口調でまた話した。
「まぁ真相を知るのをそう焦るでない。結果誰も死んでなかったのじゃから。とりあえず自己紹介からしようかの」
僕は先走ったことに少し恥じらいながら、老人の話を聞くことにした。
「わしの名前はリゲル・アテレスじゃ。聞いたことあるかのう。」
老人がそう言った瞬間僕はこの名前をすぐに思い出した。
「アテレスってあの!?50年前この国を独立させた戦争で、ヴェルヘイムの獅子と言われた?!あの!?」
と僕は少し興奮気味に聞き返すと、老人は静かに頷いた。僕は幼少期ヴェルヘイム伝承という本で読んだことがある。
現在この島は、ヴェルヘイム、バロ、ダリア、ミレイトスの四カ国で成り立っている。しかし、50年前この島はミレイトスの統治で一カ国であった。それをクレメイア戦争で、他三地域が独立を果たした。その戦争で活躍した戦士が5人いる。ヴェルヘイムの戦士が2人。バロの戦士が1人ダリアの戦士が2人だ。ヴェルヘイムの英雄と言われるその2人は、1人は旧四公の一角であるカリウス・アロ。そして、その右腕のヴェルヘイムの獅子と言われたリゲル・アテレスである。
「なぜ貴方のようなお方がここに?」
と僕が聞き返すと、老人は静かにまた話始めた。
「今年戦士育成の最高顧問として務めはじめたのじゃ。そして、この試験にお前さんが出ていることを聞いて、見にきたのじゃ」
「なぜ僕が出るのを見にきたのですか?」
「君は何にも聞かされていないんじゃな」
「何のことですか?」
「親父さんのことじゃよ」
「え、」
その後の言葉は喉につっかえて出なかった。少し、間が空いて、僕はアテレスに聞いた。
「父さんはどんな人だったのですか」
「いい奴じゃったよ」
「そうですか、、」
僕は初めて父さんのことを聞いた。父さんは小さい頃から家におらず、母さんと兄と3人で暮らしていた。毎日平穏な日々、何も変わらず一生が終わると思っていた。あの日までは。いつだっただろう。そうだ、僕が10歳の誕生日を迎える前日だ。急に王直属の兵士数人が我が家に押し入ってきた。部屋は滅茶苦茶に荒らされ、強引に兄と母さんは連行され、その後の生死すら不明だ。僕は当時9歳だったこともあり、兵士に見逃され次の日から叔母と一緒に暮らすことになった。叔母からも父さんの話は一切聞かされなかった。そして今日突然話を聞くことになって、まだ理解が追いついていない節もある。
そしてまた、アテレスは話を始めた。
「君の父の話はもうこのくらいにしようかの」
「なんでですか。もっと聞きたいです。聞かせてください」
「君は自分で父の話を知るとよい。その時きっとこの島の全てを知ることになるはずじゃ。大丈夫。君には力があるとわしが保証してやろう。」
とアテレスは笑を浮かべ、立ち上がった。
「最後に一つ」
とアテレスが僕の方に振り返りこう言った。
「君の父が言ってたのお。俺の息子たちだから、、何があっても負けないって」
僕はその言葉を聞いて涙が自然と溢れてきた。なぜ、顔も覚えていない父の話で泣いているんだと自問自答しつつも、涙が溢れ出してくる。僕は歯を食いしばって、
「僕は戦士になるよ。アテレスさん、戦士の学校で待ってて」
と少し声は震えていたが、力強い声で言った。
「立派になったのう。⚪︎⚪︎」
最後は聞き取れなかったが、とアテレスが小声で囁いたように聞こえた。
僕は病室に戻るとすぐに、横のウィッドの胸に手を当て数秒目を閉じてから、試験場へと戻った。
試験場では次の試合が始まっていた。次の試合が始まっていた。この試合は276番の顔が濃く、体が大きい男が勝ったようだ。
「次の対戦相手はあいつか」
と気合を入れ直した。第一次試験突破には2勝する必要がある。あいつに勝たなければ、ウィッドにも、アテレスにも、そして父さんにも顔向けができない。そして、何より、自分の目標である、戦士になることが叶わなくなる。絶対勝ってやる。と身体が熱くなってきた。と、その時アナウンスが入った。
『今日の2回戦は明日に延期になります』
僕の騒動があったからか、2回戦は2日目に持ち越された。したがって、僕はすぐさま試験場を後にし、家へ戻った。




