3話 ウィッド vs 僕
ドラの音と共にウィッドは手を合わせ、
「筋力上昇」
と唱え始めた。ウィッドの体はみるみる大きくなり、腕の太さは元の2倍、いや3倍ぐらい太くなった。
「じゃ、遠慮なしに行くよ。」
と少し悪戯に笑い地面を蹴って、僕の方に迫ってきた。しかし、僕も無策でこのトーナメントに挑んだわけじゃない。どこかの主人公みたく、ただ無策にやって根性で勝てるものではないと知っているからだ。前に聞いた通り、ウィッドはグラン・エレンデールの息子である。アクタルの種別は基本家系毎に引き継ぐ。したがって、ウィッドのアクタルは武器生成や空間操作系の能力ではなく、能力上昇系であることがわかる。そしてこのトーナメントでは一対一の個人戦のため、他人の能力上昇を促す鼓舞系ではなく、自己能力を高めるものしか有効ではない。つまり自分の能力を引き上げてくることは容易に想像できる。能力上昇系のアクタルはカリスによって持続時間が異なる。持続時間が切れれば、勝ち筋はあるかもしれない。
ウィッドのパンチは右手で繰り出してきた。僕は後ろに下がり、なんとか鼻を掠める程度で避けた。そしてすぐに左手でパンチを繰り出したが、顔を狙ってくるのを予想していたので、顔をすぐ守った。見事その予想は的中し、僕はなんとか防御することができた。ウィッドも少し苛立ち始め、全てが短絡的な行動になっていた。そのためその後もウィッドの繰り出すパンチやキックを悉く避け続けることは容易であった。そして、ウィッドの右手からのパンチを避けると同時に僕はノーマークの左顔にパンチをいれ、ウィッドを殴った。ウィッドは吹き飛ばされたが、すぐに立ち上がり僕を睨んだ。それはまるで狼と対峙しているかのようだった。ウィッドは呼吸を整え、もう一度足に力をいれなおした。メキメキメキ。ウィッドの周りの地面が割れている。ウィッドの足の力がここまで伝わってくる。と、次の瞬間、ウィッドは地面を蹴ったと思うとその時にはもう僕の横にいた。そしてもう僕は殴られていた。僕は防御も何もできず、吹き飛ばされた。しかし、ウィッドは試合を決めにきた。目にも見えない速さで追撃してきたのだ。二発、三発、四発連続で顔面と腹部を殴打され、僕はその戦場に立っているのがやっとだった。ウィッドが殴打をするのをやめ、少し間を空け呼吸を整えた。
「うぉぉぉぉぉぉ」
と僕は無性に叫んだ。何か力が湧いてくるのでもないが、叫ぶだけで強くなれた気がする。僕は地面を蹴り、自分の人生の中で一番のスピードでウィッドに迫った。ウィッドは逃げるのでもなく、ただ集中した顔つきでそれを待ち構えた。僕が右手でフェイントをかけ、左手で殴ろうとした。しかし、ウィッドに読まれていたのか、ウィッドは右手でガードしつつ、その勢いで反発をつかい回し蹴りを僕の顔面に当てた。僕は意識を失いそうになりながら、なんとか保った。しかし、体は地面を打ち付けられた。その時星が見えた。僕は満点の星空を見ながら、地面に仰向けに倒れた。これで戦士の道も閉ざされたのか。不意に我に還ると涙が溢れてきた。そしてそのまま僕は意識を失った。
次に目が覚めた時には病院にいた。
「目が覚めたのですね。ご気分はいかがでしょうか」
と可愛い看護師に聞かれ、僕はにこやかに答えた。辺りを見回すと、横には包帯が巻かれたウィッドの姿があった。どうやら重症のようだ。僕はすぐに僕の次の戦いがどうだったのか看護師に聞いた。すると、
「まだ始まってませんよ。あなたとウィッドの試合で中断していますよ」
と一言。僕はすぐになぜなのか尋ねた。
「あなたが気絶したウィッドを殺そうとしたから、試験官が止めに入ったのですよ。覚えてないのですか?」
僕は呆然としてしまった。ウィッドを傷つけたのは自分?頭がおかしくなりそうだった。全く覚えておらず少し自分が怖くなった。とそこに1人の老人が病室に入ってきた。
「少し話をしよう君」
と僕を指さして、外に行くジェスチャーをした。




