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さくらんぼ  作者: 山口 修
9/9

さくらんぼの夕陽(短文)


 陸と桜は手が触れあうような距離にいる。

 自分の気持ちに気付いた今。

 初めて校門で桜の笑顔をを見た時とも違う自分がいる。

 初めて認識した、さくらんぼ色の唇。

 それに動揺を感じ、心が正しいものへと変化したと、想える自分がいる。

 そのようなことを感じて、隣り合う友人の事を想う。

(桜さんも同じなんだろうか・・・?)

 親しい友人を越えて、異性を想う気持ちはあるのだろうか?。

 しかし、人の心は中々に伝わりづらいもの。

 それでも、同じ気持ちであると想いたい。

 春に生まれた小さな関わりが、いつの間にかに触れあうような距離なり、初夏を迎えた。

 夕陽は二人を照らして、影は陸の右手と桜の左手を繋げる。

 それが、正しく共にいる二人を示しているように思えても、未だ触れあうことを踏みとどまる気持ちがある。

「それでね、」

 不意に問いかけが耳へと入る。

「えっ?」

 それで我に帰る陸。

 しかし、心ここにあらず、と言ったところか。

 そのような雰囲気の陸を気にするのか、桜は一度正面を向いた後に再び口を開く。

「前にも言ったけど、私は楽しいよ」

 それは、陸が感じていた桜にとって充分である自分なのか、という答えを告げているようだ。

「陸君は?」

 と、再び問いかける桜。

「え?」

 自分自身の気持ちに賛同を得るためか、または話の流れで出た言葉なのか。

 それは不明だが、ほんの少し戸惑いを見せる陸。

 そして、少し間が空いた後に、

「うん、僕も楽しいと、思う」

 と、応える。

 「と、思う」の言葉は、自分の気持ちが曖昧である現れではあるが、気持ちは確かなものになっている。

(うん、楽しい。だから、一緒に帰るんだし)

 これが、陸が出した答え。

 そして、桜の問いかけである「私は楽しい?」は、自分が気持ちを問いかける事で、自分の気持ちを相手に理解して欲しいという意味がある。

 それを、桜が理解しているのかは分からない。

 しかし、そのような事は二人にとって無用なのだろう。

「何日めだろう?。一緒に帰るのってっ」

 と、桜が声を掛ける。

「えっ?。何日だろう、遅刻した時は春だから・・・」

 過ぎた月日を数えるように指先を一つ一つ曲げてゆく、しかし春先から初夏までの時は短く。

「まだ、2カ月と半分くらいだね」

 そう、まだ四半期も過ぎていない。

「そっか。でも、何だか、すごく長い時間がたった気がする」

 と、応えて、桜も指を折りつつ、過ぎた月日を確認する。

 しかし、曲げる指は2つ。

 数える迄もない短い時に少しばかり言葉が止まり、

「・・・、う~ん。でも、いいか!」

 と、言って、伸びをする。

 時の長短は二人の間柄には無用であり、

「そうだね、僕もいいと思う」

 陸も、同じような事を言い、同じように両手を挙げた伸びをする。

 その言葉が終わらないうちに、陸と桜は正面に向きなおす。

(うん、いいんだ。僕は楽しいし)

 そして、今も変わる事のない桜を見れば、気持ちは共にある事は分かる。

 今も心臓の右側は暖かく、今日の夕陽も紅い。

 その包む陽光は、一層の暖かみを呼ぶ。

 さくらんぼ色に染まる夕陽の中、再び何か言葉を交わす二人。

 もはや、私達には陸と桜の声は聞こえないが、心配するのことはない。

 言葉を交わすために顔を向き合う二人がいて、お互いを気遣う心は変わる事はなく。

 いつしかお互いの指が触れる時はくる。

 心の繋がり、それは揺るぎなく正しい事。


 人を繋ぐ唯一のきっかけなのだから。

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