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さくらんぼ  作者: 山口 修
7/9

横顔

「芽依さんとは一緒でなくていいの?」

 と、香取は聞く。

 今日も宮崎との帰宅になり、もはや会話に困らない程度の仲になってる二人。  

 ならば、わざわざ話題作り出そうをする必要も無いのだか、友人となった北大路が顔を見せない事が気になり口にした。

「あ~、あの子はね」

 あの子とは芽依の事であり、放課後に顔を見せなくなった理由を桜は知っているようで、それを話す事が楽しみであるように、笑みが浮かぶ。

「ふふふ。芽依はね、他に一緒に帰る人が出来たの」

 一緒に帰る人が出来た。   

 それが北大路が姿を見せなくなった理由らしい。

(なるほど、そういう事か・・)

 おそらく、彼氏が出来たのであろう。

 それは宮崎にとって、喜ぶべきことらしく、その笑顔を見れば分かる。

「じゃあ、あまり会っていないの?」

 香取は、宮崎と帰るようになって、それまで一緒に帰っていた御山とは疎遠になり、たまに顔を合わせる程度になっている。

「ううん、放課後以外は一緒にいるよ」

「そうなんだ」

 特に、北大路と疎遠になっているようでもなく、何かの出来事があって、姿を見せなくなった訳ではないと分かって安心する。

 以前、宮崎との関係性を聞かれた時に、二人の距離感がはっきりとして、北大路の理解は得た。

 それは、友人として信用されたということで、宮崎と共に帰宅することに、何も気にする事はない。

 しかしながら、戸惑うような感覚が、香取の心に浮かぶ。

(信用って、何だろう?・・)

 不思議な感覚を覚える。

 北大路からの信用、それは友人としての間柄を示す信用だということは分かる。

 しかし、友人を越える踏み込みをしないという存在である。

 それは、香取にとって、未だに不可侵の領域なのだろうか、無自覚の内にある感覚なのだろう。

 ゆえに、それに気付かぬままに、心に潜む気持ちが漏れる。

「でも、桜さんって、女の子友達も多いでしょ?。いいのかな、僕と一緒で?」

 帰る方向が同じということもあるが、二人きりという状態は気にかかる。

 と、いうよりは、自分と共に帰る行為が、宮崎にとって正しいのかという気持ちが浮かんだ。

 それは、女子に対して自分が男子であることによるものか、または宮崎の放課後を自分が独占しているという気持ちから来たものかは分からないが、ふいに心が動いた。

 そんな香取ではあるが、宮崎にしてみれば、いつもと変わらぬ帰宅時間であるのは変わらない。

「いいの、私は楽しいし」

 と、宮崎は言う。

(楽しい?)

 香取にしてみれば、何か心につかえるものがある。

 同時に、それを否定するように思う。

(もちろん、僕も楽しいから友達でいるんだけど・・)

 わざわざ、気にしなくても良い疑問がにじむ。

(楽しいのかな。僕と一緒で・・・)

 これは、いらない感情である。

(何だろう、この気持ち・・?)

 すでに友人同士という意識があり、今の時間に疑問を感じる必要はない。

 しかしながら、香取自身が人と馴染むことに時間がかかる性格であると知っていの疑問なのかも知れない。

 そうであれば、何の問題もないが、どこかに宮崎を意識した感覚がある。

 それを察したように宮崎は口が開く。

「私は楽しい?」

 と、先ほどいった自分の言葉を疑問詞にする。

「えっ?」

 自分の方から楽しいといった相手から、「私は楽しい?」と聞く言葉に戸惑う。

「えっ、楽しいんでしょ?」

 と、聞き返す。

 すると、

「ふふふっ、楽しいよ」

 いつもの調子で返事が返ってくる。

 その様子は、何かを心に感じる香取に和みを呼び、少し安心したように小さな笑顔が浮かぶ。

「あっ!、今日も猫!」

 いつか見た猫が、今日も塀の上を歩く様子に気付く。

 そう、今日もいつもと変わらない放課後。

 と、鹿取は心の中で想う。

「猫はね、いつも一人なんだけど、他の猫との小さなコミュニケーションを大事にするんだって」

 と、言って、猫の頭をなでる宮崎。

「何だか、陸君と似ているよね」

 ふいに、自分を例える言葉を聞く。

 しかし、香取にしてみれば、逆に宮崎を猫に例える気持ちがある。

(それなら桜さんの方が似ているよ)

 猫が人懐っこくコミュニケーションを取る様子が宮崎に似ていると思う。

 では、桜が猫と香取が似ていると想うのは、何なのだろうか?

 それが、もし仲間を大事に想いながらも、独りでいる様子を香取に例えているとしたら?。

 そうであれば、香取を良く理解している友人と言える。

 仲間を大事に、そして独りでいる例えは、親しげながらも、相手に気を使い過ぎる桜とも似ている。

 性格は違えども、互いに相手を大事に出来る二人。

 しかし、お互いにどこが猫なのかは言葉にしない。

 それでも、香取は宮崎の性格を知っている。

 それを想い、初めて校門で声をかけられた時の事を思い出す。

(普通はお父さんから話を聞いていても、知らない男子に声はかけないよね・・)

 今、思っても桜の気づかいは嬉しく想う。

(うん、桜さんの友達が言うように無邪気・・・っていうのかな?)

 思いはするが、言葉にはしない。

(何だか・・・、な) 

 と、想い、宮崎の横顔を見る。

 少しだけ心臓の右側が温かいのが分かる。

 それは、心から漏れる何かを支えているようだ。 

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