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さくらんぼ  作者: 山口 修
4/9

昼休み

 翌日、香取の昼休みは頬杖をつきながら考えに暮れる。

(昨日聞いた「また明日」は今日の帰りの事・・、か?)

 と、まだ小さな疑問は解決していない。

 今日、校内で宮崎とは顔を合わせていない。

 午後も顔を合わせる予定もあるわけではない。

 と、なれば昨日の別れ際に聞いた「また明日」という言葉は放課後の事になるのか?。

(でも、ちょっと知り合っただけで、今日も一緒に帰るのっておかしいよな・・)

 さすがに、連日の一緒に帰宅は無いと思う。

 もちろん、「また明日」という言葉は社交辞令という可能性もあり、その社交辞令という意味を香取は知ってはいる。

 それでも、相手が女子であれば良しも悪しも気にかけるべきとは思う。

 女子との出会いを良い事として軽々しくあり過ぎれば、女子からは敬遠される間柄となり、また親しむ気持ちを抑えすぎれば、女子からも遠慮がちになり、これもまた敬遠する気持ちが女子に生まれて、悪い結果を呼ぶ。

 当然のように、この学校は共学であり、普通に考えれば、女子と知り合う事は多かれ少なかれある訳で、それほど気にすることでもないのだろうが、それでも気にするのは香取の性格なのだろう。

(せっかく、桜さんが気を使って知り合いになってくれたんだから、友達でいたいんだよね・・・)

 気がねない性格が宮崎なら、気がねする事が多いのが香取なのか。

(別に気にする事でもないっていうのは、分かっているんだけどさ・・)

 事実、宮崎を特別視する気持ちはない。

 なぜ、そんなに短い一言が気になるのかも分からず、そこに異性からの言葉だからという気持ちもなく、ただ友人として認識のみの香取。

 そんな恋心じみたものを想うことのない昼休みの雑踏。

 そこに香取と相反するような女子の噂話が耳に入る。

「え~、桃子。彼氏が出来たの?」

「うん、違うクラスの御山君」

 思春期を思わせる会話である。

 もっとも頭を悩ませる香取には、気にするまでもない話ではあるが、

(う~ん、彼氏か・・・)

 と、相槌を打つ。

 クラスメイトの一人に彼氏が出来たらしい。

 しかし、それは今の悩みとは関係のない話であり、その女子と親しいという訳でもない。

 それでも、言葉にならない相槌を打つ理由があるのだろう。 

 それは、御山君と呼ばれる男子学生は、香取が帰りを共にする友人であり、一昨日に「彼女が・・」と言っていた本人のこと。

(あ~、そうか・・。そういう事か・・)

 と、昨日の帰りに、御山が現れなかった理由が分かる。

 おそらくは、出来たばかりの彼女と帰宅したのだろう。

(そう言えば、そんな事を言っていた気がする。じゃあ、宮崎さん・・、いや桜さんの事を説明する必要は無くなったな・・)

 今日、御山と呼ばれる友人と顔を合わせれば、宮崎の事を説明しようと思っていたが、無用となった。

 そのことは、特に気にする事もないが、気にすべきは今日の放課後であって、今も疑問が頭から離れない。

(まてよ、御山君が彼女と帰るなら、校門に立つ理由が無くなっちゃったぞ・・)

 クラスメイトの会話から、校門に立つ理由は無くなった。

(でも、今日。桜さんが校門で待っていたら、どうしよう)

 連日の共に帰宅は疑問に思うが、それでも万が一ということもある。

 と、すれば校門に立つ理由はいる。

 昼休みの噂話が、今日の悩みを生む。

 もっとも、今日の帰りを宮崎と約束をした訳でもなく、昨日も御山が姿を見せないゆえにが、たまたま二人が顔を合わせただけで、今日の放課後を気にしなくても良いと思うが、気がねない性格が宮崎なら、気にかける事が多いのが香取なのか。

(う~ん・・・、どうすべきか?)

 と、悩む。

(あっ!、今から、桜さんに聞いてみればいいのか?)

 幸いなことに、まだ昼休みは充分にある。

 宮崎のクラスは聞いてはいないが、探すだけの時間はある。

(でも、合って、何を聞けばいいんだ?)

 それはもちろん、直接、今日の放課後であるが、それが出来れば、今の悩みはない。

 昨日の放課後に聞いているはずで、何の問題はなかったのだから。

 しかしながら、それは香取には出来ない。

 そもそも、宮崎が別れ際に言った言葉が、これからも続く友人関係のことを言っているのか、または放課後の帰りを指しているのかが分からないから、悩む訳で、

「明日も一緒に帰るってこと?」

 と、聞いておけば良いのだが、違うと言われれば、恥ずかしいを通り越して痛々しい。  

 香取の性格では難しいことで、昨日の内に聞けることではない。

 とはいえ、1日たった昼休みだからといって、聞きにいける訳もなく。

(それでも、桜さんのクラスに顔を出すくらいは出来る)

 そう、そのくらいなら出来る。

(でも、何の用事で合えばいいんだろう?)

 そう、顔を合わせても、直に今日の帰りのことは聞けない。

 他の用事を作って、偶然に帰り道の話になれば良いのだか、今も共通する話題はない。

 難しすぎる案件である。

(・・・・)

 思考か停止する。

 その間、数秒か十数秒。

 人の脳は答えが出ない事を考えようとすれば、それをストレスと感じ、逃避に似たような行動を放つ。

(あ~!、面倒くさい!。いいや、今日の放課後になれば分かる事さ)

 いくら考えても、答えの出ないことはある。

 香取の脳も同様であり、この問題を解決するためには当事者である者がいなければ、答えに至らないと知る。

 その当事者である宮崎に合えないならば意味がないことを知り、考える理由をなくした香取は、溶けぬ悩みは放置して、今日の放課後へと逃避する。

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