婚約者が嫌すぎて、毒を飲んだ令嬢の話
俺は、お貴族様だった。
「知っているよ」
でも、どうして、貴族社会から、放逐されたかって、アミーは、優しいから聞かない。
「良い機会だから、教えてあげるよ」
「ええ、こんな時に?」
婚約者がいた。結んだのは、12歳の頃だ。同年齢だ。
勿論、政略だよ。
銀色の髪で、はかなげな令嬢だった。
だがよ。お茶会では、嫌な顔を隠さない。メイドもとがめない。
あるだろ。12歳の少年なんて、サルだ。やんちゃ盛りだ。
これでも、一生懸命だったんだぜ。
『エミリー、逆立ち、逆立ちできるようになった。見て、見て!』
『・・・・土が飛ぶ』
とか、
『これ、カブトムシって言うんだ。僕のコレクションだよ』
『汚い』
お茶会には、いつも、大人が読むような大きな本を持って来て、読むようになった。詩集だ。
それでも、両親は、大きくなれば、貴族の義務を分かってくれるとか言う。向こうの両親も同じ考えだった。
だから、そういうものだと思った。
『父上、母上、エミリーは、僕を馬鹿にしているみたいです。落ち着いた性格に直したら好かれるようになりますか?』
『その年代は、自分を特別だと思って、意味もなく、他人を馬鹿にするものだ』
『貴方は、場を明るくします。直す必要はないわ』
と言ってくれた。今にしては感謝だ。
そんなこんなで、貴族学園に入学して、俺は、少しでも出世しようと、殿下達に近づいた。1歳年下だ。
それが、いくら殿下でも年下に、コビを売っていると、露骨に、嫌な顔をするのだ。
エミリーのご友人を通して、俺の耳に入るのだ。
勿論、他人が、悪口を言っているとか、そんなこという令嬢は、信じない。
お茶会でも、無言だ。
学生になっても、お茶会中は、彼女は、本を読んでいた。
『ねえ。何を読んでいるのさ』
『・・・・・・崇高な詩』
多分、覚えている会話はこれだけだ。
俺は、崇高ではないとかの嫌みかな。
何とか、殿下の覚えめでたくなったときに、事件が起きた。
18歳、卒業をしたら、結婚の歳だ。
エミリーが、毒を飲んだのだ。
無理矢理、嫌な相手と、結婚をさせられるのが原因だと、俺の名が遺書に記された。俺は粗暴で、偉い人には、ゴマすりで、とても、耐えられないと。
致死量ではない。
「怪しくない?」
「それでも、毒を飲むって相当な覚悟だ」
令嬢が毒を飲んだのだ。
両家共に、厳しい目が向けられた。貴族院からも調査員が派遣された。
俺は、暴力や、威圧をしたのではないかと、調査された。
殿下が庇ってくれたのは、幸いだったがな。
社交界の令嬢やマダムは、エミリーの味方だ。
政略結婚がほとんどだ。思い当たる節があるだろう。いくら、政略でも、毒まで飲むのは、相当、嫌な男ではないかとね。
「でだ。彼女は、入院中に、見舞いに来た詩人と仲良くなった。前からファンレターを書いていたそうだ。社交界は拍手喝采だ」
「これで、騙されたのね」
「そうだ。社交界は、エミリーの味方だ。評判を落とし。両家共に没落した。一家は離散して、弟と妹は婚約を破棄された」
「・・・大変ね」
「いや、今となっては、エミリーに感謝している。弟妹は平民でそれなりに幸せに暮らしている。
父上は長年の夢だった庭師になって、母上と暮らしている」
「怪我の功名かしら?」
「さあな、父上と母上が、俺の性格を矯正しなくて良かった。おちゃらけは、場を和ませる。リーダーになれた。営業に向いている。今にして思えば、正しかった。それに気がついた・・・」
いくら政略でも歩み寄ろうとしない女とのお茶会なんて、ゲロを飲んでいるみたいだ。
「冒険者になって、最高に良い女、アミーと出会えたしな」
「・・・フン、それよりも、これが、そのエミリーね!間違いないわね」
「そうだ。変装しているが間違いない」
「リーダー!包囲完了しました!」
そこで、やっと、目の前の女に話しかけた。エミリーだ。すっかり、やつれている。銀髪も白髪みたいだ。
「ようし、そうだ。エミリー、最期くらいは、あの崇高な詩のように、自裁をしてみないか?あったよな。『敵の手にかかるくらいなら、女神様の元に』、って感じの詩」
「はあ、はあ、はあ、はあ、だって、令嬢は、親に逆らうことなんて、出来ないわ。
前から、詩人のフランツが大好きだったのよ。ファンレターの返信が来たら、期待しちゃうじゃない!」
「エミリーの家族が、どうなったか。聞かないのな。愚かな女だな。機密を扱う家門の令嬢から、ファンレターが来たのなら、利用するね。ほら、フランツの首をみせてあげて」
「はいよ」
相棒のアミーが、既に討ちとったフランツの首を見せると、膝を落として、叫びだした。
「だって!仕方ないのよ。仕方ないじゃない!本当の恋だと思ったのよ!私は悪くないのよ。見逃して!社交界に誤解だったと説明してあげるわ・・助けてよ!」
「そうだ。分かってくれたか。エミリーの首は、金貨80枚だ。生活のためだ。仕方ないから殺すよ。仕方ない気持ちは分かってくれるよね。良かった。本当に、最期、『仕方ない』を共感することが出来たぜ」
俺は、刀を一閃、両手刀を振る。
シュパン!
ポロッと首が落ちた。
「「「「オオオオオオオーーーーー」」」
「さあ、ギルドに持っていこうぜ。久しぶりの大捕物だった。宴会するぜ」
「「オオオオーーー」」
エミリーには、本当に、感謝している。
冒険者ギルドで、憎まれ口を叩きながらも、本当は優しいアミーと知り合えた。
両手刀が開眼した。仲間も出来た。
俺って、冒険者に向いていた。
スパイを討ち取ったのは、元婚約者だとはアミー以外知るよしもない。
この日、王国を震撼させたスパイ事件が解決した。
社交界では、既に、別の恋話で、盛り上がっていた。
最後までお読み頂き有難うございました。