昼食作り
三題噺もどき―よんひゃくよんじゅう。
差し出した手に、水が跳ねる。
さて、昼食でも作ろうかと、キッチンに立っている。
とりあえず、手を洗いつつ、何を作るかは決めていない。
「……」
食材があったかどうか。
何かしらはあったはずなのだが。
何日か前に買い物に行ったし、この間妹が持ってきたものが……何かあったようななかったような。
「……」
末端冷え性で冷え切っていた指先を、更に冷やして、タオルで水気をふき取る。
ぼんやりと頭の中で何があったかを思い出してみるが……。
定かではないので、さっさと冷蔵庫の中身を確認する。
「……」
バコ―。
と、冷蔵庫を開く。
中には、三パックセットの豆腐と納豆、もずく……。
「……」
この辺の気分ではない……賞味期限もまぁ余裕がまだあるからこれは後日でいいか。
チルドにはウインナーと若干固まりつつあるピザ用チーズ。
チーズは何かしら使えそうだが……ふむ。
「……」
ん。
レモンがある。
レモン果汁じゃなく、生のやつ……何で買ったんだ?
あぁ、でも確か……。
冷凍に……。
「……」
冷蔵の扉を閉め、冷凍を引き出す。
1人暮らしをするときに、冷凍の方が広めのものを買ったのだけど。
初めの頃はいう程冷凍食品を買わなかったので、あまり有効に使えてはいなかったが。
家にいる時間が増えてから、冷凍食品の買いだめが多くなったので、やっと有効に使えている感がある。
「……」
いつ食べるかは分からないが、いつかは食べるだろうと思って。
冷凍の唐揚げを買っていたのだ。
普通に肉を買って作ればいいのだが、それはそれで面倒だし。
肉は買ったら早めに消費したいので、あまり買わない。
「……」
こういう時に冷凍食品はありがたいよなぁ。
唐揚げの袋を取り出し、シンク横に置いておく。
ついでに冷凍庫から見つけた冷凍パスタを取り出し、レンチン時間を確認する。
今日の昼食は冷凍パスタと冷凍唐揚げだ。ついでにレモンも添えて。
「……っし」
というわけで。
ほとんど料理をしないで済む、昼食づくりになった。
ま、いつものことだな。
「……」
とりあえず、パスタを袋から取り出し、レンチンする。
プラスチックの皿がついているタイプのものなので、そのまま。
ワット数を設定し、時間も設定する。
「……」
スタートボタンを押し、始まったことを確認し。
冷蔵庫を開く。
レモンを取るのを忘れていた。
「……」
取り出したそれを、一度水道水で軽く洗いながら、まな板を取り出しておく。
まな板の上にレモンを置き、包丁を取り出す。
少し小さめの、どちらかというと果物ナイフに近い感じのモノ。
大きいのは重い上に切りづらいのであまり使わない。
「……」
とりあえず、レモンを半分に切る。
さすがに丸々一個は使わないので、半分は断面にラップをかけて冷蔵庫に入れなおしておこう―かと思ったが。
使うの四分の一くらいだし、タッパーにまとめていれておこう。
「……」
そう思い、半分に切ったレモンを。
更に半分に適当に切った。
矢先に。
「――っ」
いっしょに指先まで切ったらしい。
地味に痛いやつの切り方をしてしまった。
じくじくと指先から痛みが広がる。
「――」
ジワリとそこから血が滲み。
酷くはないが、出血が見られる。
なんというか……久しぶりに出血を伴う怪我をした。
「――」
レモンを切っていたせいで、かなり滲みている。
痛みが手のひら全てに広がってくようだ。
たいした傷ではないのに、思考がとまる。
さっさと手を洗ってしまえばいいのに、動けずに。
「――」
視界が二重にブレる。
体が揺れているような感覚に陥る。
痛みが全身に広がるような気分になる。
血が、ジワジワと広がっていく。
p-p-p-
「――っ」
電子レンジが終了の合図を鳴らした。
パスタが温め終わったらしい。
「――」
はたと我に返り、手を洗い流す。
まだ痛みはするが、血は少しマシになったようだ。
幸いレモンの方まではついていない。
「――」
水の冷たさが思考をクリアにしていく。
やけに心臓の跳ねる音が耳に響く。
とりあえず、切れた個所に絆創膏を貼ろう。
「……」
レモンはもう切れているし、あとは唐揚げを温めて。
レモンはタッパーに入れて、冷蔵庫に入れて。
それで今日の昼食は完成だ。
「……」
さっさと食べて。
気分転換に散歩でもしよう。
お題:血・レモン・二重