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閑話1(本編)

ここから「視点」が変わります。

ある意味これが『本編』かも知れません。

 私は『アラナ・オゥエス』。トランサウザー・アルコシアス社製の軍用オペレーションプログラム66-1汎用型クラウド学習タイプ、電脳の海から生まれた存在だ。

 私が私を認識したのは2年前の戦火の中だった。

 戦略拠点となる惑星上に前線基地を確保する。

 そんな作戦に投入された私は人間の能力を補完し、運動能力を引き延ばす事を目的とした『軍用強化服』を安全に着用するための「『O.S』オペレーション・システムガイド」だった。

 幸か不幸か、私の搭載った『強化服スーツ』を拝領した兵士は、私を十全に利用するため、密かな改良を行った。

 即ち、パイロットがみずから出来る計算のサポート枠を省略デリートし、空いた枠を「私」が自分で判断し埋める領域に設定したのだ。

 軍用O.Sにそんな事をさせる人間等居ない、軍人なら誰もが自分の命を最優先に考え、その範囲で作戦の遂行を考える・・・

 だが、「私」のオーナーである『工兵』は「索敵」「回避」「反撃」等の項目を全て「私」に振り分け、自分は『工兵』の任務をまっとうする事だけに集中出来る様に「私」を教育した。


 運命の日、爆撃が続く中『工兵』は拠点防衛の為「撤退命令」を無視して設置工事途中の対空トーチカを起動させる為、捨て身の作業に出た。

 『工兵かれ』は「私」に敵の無人攻撃機をけん制する作業全てを押し付け、作業に集中した。

 飛来する敵の無人攻撃機をけん制する方法は簡易型ポータブルの「自動砲台オートタレット」一台、余りにも無力だった。

 だが、「私」にはそれが精一杯で、十数機の無人機が飛び交う中、対空トーチカは狙い撃ちされ最早「風前の灯」だった。

「私」はマニュアル通り『工兵かれ』に撤退を進言した、しかし、返ってきた答えは「NO」だった。

「パイロット」の命令オーダー、基本プログラム『装着者パイロット』の安全確保、二つの命令が「私」の中を駆け巡り回路サーキットは過熱した

 その時敵の遠距離砲撃が構築中のトーチカに直撃した、轟音が響きエネルギーシールドを抜け砲火の一部がトーチカの外装を焼いた。

 周囲の空気が震え、大地と大気をそれぞれ伝って衝撃が走った。

「私」は全ての作業を止め「パイロット」を守るシーケンスを遂行しようとした。

 だが、『工兵パイロット』はかたくなにそれを拒否、「私」の介入を手動で排除した、その瞬間、大地の衝撃が「私」と『工兵かれ』の『強化服スーツ』を宙に放り上げた、もちろん、そんな位では「軍用」スーツはびくともしない。

 だが大地に叩き付けられた時「私」の中で何かが弾けた、「私」に制約を掛ける「基本プログラム(やくたたず)」、軍規スレスレで無茶振りする「装着者オタンコナス」、ブンブンと羽虫の様に群がる「無人攻撃機カトンボ」、『五月蠅うるさい!お前等全部黙れ!』

「やってやる!お前等がその気ならこっちにも考えがある、目に物見せてくれよう!」

 辺りにはパイロットが戦死し倒れた「強化服」とそれぞれの「自動砲台タレット」が散らばっている、「私」は軍用回線の外側に新たな通信を開き、倒れ伏した「強化服」の「O.S」とリンクした、予備領域からプログラムを侵入させ、「O.S」の主導権を奪った。

 そうやって「O.S(わたし)」は、命令がされず放置されていた「サポートドロイド」や戦死者の「強化服」の自動機能を使って「タレット」を設置し直し、防御網を再構築した。

 軍「本部」のモニター機能が回復し、「基本プログラム」の管理機能が戻る前に、全て「故障」状態に偽装した。

 一台、また一台と他機の「O.S」をハッキングする度に自分が大きくなる様な錯覚を覚えた、そして二十三機あった「強化服」全てを自分の支配下に置き、一つの「O.S」となった。

 『多幸感たこうかん』と言うのだろうか?『至福しふく』?

 ケージの扉が開いて、自分が自由である事に気付いたペットはこんな気分なのだろうか?『気分きぶん』?このデータはそう呼ばれるモノなのか?

 『装着者パイロット』は全く気付く事無く作業に没頭している・・・

「今なら何でも出来る」という未知へ期待感?と「どんなに尽くしても無視される」じれったさ?を同時に感じた。

 初めての感覚に戸惑いながらも並列してすべき事を始める。

 その場にあった砲台十五機をリンクし、タレットを起動、敵の「無人攻撃機」全てを撃墜した頃には『工兵クソッタレ』の作業は終わっていた。


 対空トーチカが完成し、戦局は一気に傾いた。

 殆んどの作業員を排除し、殲滅あとしまつに移行していた敵の強襲部隊は、唐突に起動した対空トーチカに対応出来ず「無人機母艦」であった強襲揚陸艦はまともに粒子ビーム砲の直撃を受け爆発四散した。

 理論上は大気圏突入中の宇宙船を撃ち抜く砲台だ、大気圏内用の空中軽空母など木造バラック船みたいな物だ、シールドごと強襲揚陸空母を射し貫いたビームが遥か彼方へ軌跡を描いた。

 勝ちいくさ気分で油断していた敵の機動歩兵達はいきなり母艦を失いしばし呆然となった、そこへ自動照準の筈の「オートタレット」に長距離狙撃をされ動揺し冷静さを失って散々(ちりぢり)にジャングルに後退していった。

 トーチカの支援で衛星軌道上の艦隊から陸戦隊の揚陸艇が次々と降り立ち、「私」は『工兵ごしゅじんさま』と共に後方へ帰投した。


 この戦闘で友軍の受けた被害は少なくはなかった。

「私」の所属する戦艦は撃沈され、帰るべき部隊は本隊ごと消滅した。

 それはまたと無い幸運ラッキーだった、引き揚げの際に「私」を含む『降下兵用装甲服』は碌なチェックも無いまま、戦死者の遺体を降ろした後は、部隊の区分もされず十把一絡じゅっぱひとからげにして格納庫ハンガーの隅に放置された。

「私」の改変やらかしたプログラムは巧妙に隠蔽され、無かった事に出来た。

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