装甲服を脱ぐ
畑面積にして約1.4マイクロセル、練兵場のグラウンドがすっぽり収まりそうな土地にソーラーパネルが敷き詰められている。
差し詰め太陽電池畑だ、これだけの発電システムを使って、一日で作れる核融合リアクターの部品はコンテナ一箱分、核融合リアクターが出来なければ殆ど何も出来ないに等しい・・・
現在、この場の最高責任者たる俺の仕事は、待つ事と見守る事だ。
装甲服用簡易ベンチに腰掛け、ぼーっと作業を見守る俺、その視線の先には工兵が二人。
手分けして大型3D分子プリンターで出来上がった部品を運び出し、傍にある倉庫兼、組み立て工場兼、作戦本部兼、宿泊施設に運び込んでは分別して設置予定個所近くに配置している。
その屋上に付けられた監視所では歩哨が油断なく周囲をテレスコープで警戒している。
かつての揚陸艇は分解し中身をそのままに、作戦本部に改装された。
新たに増えた俺の部下は4人、中身は惑星降下装甲服のOSナビであり全員が意識を共有している為、便宜上固有名詞を与える事にした。
部隊の副官である「アラナ・オゥエス」少尉と歩兵「ラティナ・オゥエス」曹長、この二人は姉妹という設定である。
そして工兵二人「ソシアナ・ナヴィイ」一等工兵と「アヴィア・ナヴィイ」二等工卒、この二人は双子でアラナ達の従妹という設定だ
全く同じ顔の女が4人、少々苦しいが“親類”と言う事で誤魔化す事とする(誰から?)。
ちなみに、名前は彼女(達?)の発案で、俺の知らない古い言語での『1,2,3,4』であるらしい。
もちろん『星団法』に触れる犯罪ではある、人間にそっくりなアンドロイドを勝手に製造する事は、様々な犯罪やトリックに流用出来る為法律で固く禁じられている。
しかし、この俺が置かれている特殊な状況下では、戦時特例法で容認されている、故意に部隊を離れ、独断で軍隊を所有する・・・まで行けば殲滅対象になってしまうが、この程度なら容認されるだろう。
もちろん、原隊復帰すればアンドロイド達は問答無用で即時廃棄、余計な経験を積んだOSは上書きかデリートだ。
先日、OSがメモリを増設しているのを発見した、確かにメモリの増設の申請はあったし、許可もした・・・だが、それは飽くまで調査資料の蓄積用だった筈で、そもそも強化装甲服のナビゲーションOSが自分からそんな要求する事自体おかしい。
この規模は軍の作戦本部の戦略級AIに準ずる・・・、そして完了報告すら無い。
只の装甲服ナビの範疇を越えた行動を取るなぁ、とは思っていたが以前から揚陸艇のシステムを勝手にコピーして自己進化していた様だ。
俺が面倒がって適当にナンでもカンでもハイハイ許可し、OSに判断を委ねて来た結果だろうか。
無茶を言い出さないし、常に俺の生命維持を最優先に行動しているので赦している、今のところは。
頭の痛い問題だ・・・今はまだ好奇心旺盛な子供みたいな振る舞いをしているが、古いSFムービーの様に『人間の様な非効率な存在の指示には従わない。』なんて言い出さないだろうな?
「だぁああああああぁぁぁぁ!止めだ!止め止め!」
全ての問題に嫌気が差した、何で俺だけこんな何もない所で、俺だけずっと装甲服着たままで!
もういい、もおおおおいい!馬鹿馬鹿しい、ここの大気は呼吸可能で、この敷地内もエアカーテンで空気洗浄済みで病原菌も無い!
『プシーーーッ』
「あ!」「あっ!」「ああ!」
視界の中に居た女達が一斉にこっちを見た。
俺は、この星に流れ着いて初めて「惑星降下兵用強化装甲服」を脱いだ。
「う~~~~~んっ!」
俺は声を上げ大きく伸びをしながら、肺一杯に空気を吸い込んだ。
息苦しくはない、しかし、調整され尽くした装甲服の供給する空気とは違い、ㇺっとする臭いのキツイ空気で、思った以上に清涼感は無かった。
濃い緑の混じった、湿った土の匂いだ、が、まあ嫌いではない。
ダークグリーンのアンダーシャツに黒のボクサーパンツ、地肌の其処彼処にある装甲服コネクター接続のかぶれ・・・
久しぶりに自分の体をまじまじと見たが、不健康な生っ白い色してんなぁ。
脱いだ瞬間だけ外気を感じ、涼やかな空気を感じたが、外は空気がねっとりと貼り付く様に湿度も気温も高い、それでも装甲服に覆われたままよりよっぽど自然で健康的だ。
だがすぐに、ドローンが一機やって来た、そして操作パネル兼録画映像確認用のモニターが点灯した。
女性の顔がアップで映し出される、この惑星の現地人の都市『ラパタ』方面に偵察に出ているアラナ少尉だ。
『ケント中尉、不用意過ぎます。自重してください。』
『直ただちに『装甲服』を装着して下さい、いえ、本部に戻ってシャワーを浴び滅菌ライトを照射して下さい。』
気付くと、ラティナ曹長がダッシュでこちらに駆けて来ている、何故かアサルトライフルを構え、突撃姿勢で突っ込んで来る・・・正直コワイ
銃口は決して俺には向けないが、側まで来ると俺の前に立ち、四方に銃口を向けバッ!バッ!と音をさせて射撃姿勢を取って警戒する・・・あ、遠くでまたあの鳥的な何かが鳴いてる。
『安全確保!オールクリアー!!』凛とした良く通る声でがなる。
うー、そういうの良いから、お前さんの声であのイノシシとクマの合成獣みたいな奴来ちゃうから。
気付くとソシアナとアヴィアも来ていた。
『ラティ姉ぇ。』
『ん。』
三人は頷合うと、俺を取り囲み・・・
『おりゃ!』
背後からラティナ曹長が俺を羽交い絞めにする様に装甲服から引き上げ、
『そうれぃ!』
双子がそれぞれ、左右の足を一本ずつ腿から持ち上げ、俺の足のあちこちに接着された装甲服の神経センサーコネクターを引き剥がす。
「痛て!痛いって!プチプチする!」
『勝手なコトした罰ですぅ!』
「お前!いい加減にしろ!何が『ラティ姉ぇ。』だよ、一人で変な茶番やってんじゃ無いよ!」
『駆けぇい足ぃ!』
そのままの姿勢で持ち上げられ運ばれる。
『1!2!』
『1!2!』
「ふざけるな!命令だ!おーろーせー!」
二十歳そこそこの華奢な娘の姿をしているが、中身は超微粒子軽量合金のドロイドである、普段パワードスーツ頼りの俺の力では敵うべくもない。
『勝手にバカな事やる上官の命令には従えませんー』
『そうだ!』
『そうだ!』
その後下着を引っぺがされ、シャワー室に放り込まれ、三人掛かりでハンディソフトブラシでワシワシ洗われ(前は、一番大事な所は自分で洗わせてもらえた)、工場の滅菌ライトと工業用ブロワーで乾燥させられた。