未知の惑星
ゆっくりと目を開ける・・・頭痛が酷い、目が回る。
自分が倒れているのか立っているのか判別出来ない、胃がひっくり返りそうだ。
「ナビ、現状確認」
『了解、揚陸艇27号は強風に寄り姿勢制御に失敗、当初の予定を逸れ惑星の北半球第二の大きさを持つ大陸、南西の半島から南に15.2セルに存在する外周約12.5セルの島に軟着陸しました。』
『現在巡洋艦ナタキルのメインサーバにアクセス、星図照合中。』
『サーバアクセス不能、緊急事態、アラート、アラート。』
『本機は作戦展開地区から大きく外れた模様、作戦マップと現惑星の大陸に大幅な乖離があります。』
「何だって?」
『ここは作戦展開中の「惑星58-6271」ではありません。』
「どういう事だ、未発見の陸地なのか?」
『「惑星58-6271」の大陸図と降下中に収集した現惑星の大陸図に調整不可能な乖離があります。』
ナビがミッションマップと現惑星の大陸図が重ねた物を網膜ビジョンに映し出す。
「差異」では済まされない違いだ、オートで東西南北を上下左右回転させて行くが全く合わない。
『重ねて報告します、作戦開始から約7マクロタイム経過しました、予定では現在は夜間の筈ですが。』
ナビが出した船外モニターの画像は、太陽が水平線に沈もうとしている・・・日没真っ最中だ。
惑星降下兵として何度となく大気圏突入を経験している、よっぽどの事故でなければこんな事はあり得ない、一体何が?
だが、ナビは新たな混乱の種を告げた。
『大気組成調査完了、呼吸可能です。』
「待て待て待て、『惑星58-6271』の大気は・・・いや、おい!」
軟着陸で舞い上がった砂塵の向こうの景色が、揚陸艇の外壁の破れ目から見えた物に思わず声を上げる。
「揚陸艇の軟着陸で倒れてるのは、木じゃないか?」
『YES、現惑星に自生している植物の様です」
『惑星58-6271』は砂と岩石しかない、特殊なガスに覆われた星の筈だ、だがここは呼吸可能な大気があり、緑の葉を持つ植物が繁茂している。
「俺は、何処に居るんだ?」
記録では大気圏突入前に、揚陸艇の外装は破損しており、エネルギーシールドのパワーを上げる事で大気圏の灼熱地獄を突破したものの、エネルギー消費と回路の破損で浮力制御運動は全く出来なかった。
その為、艇内の疑似重力も作用せず、俺は「強化装甲服」の自重に振り回される事になったのだ。
着地(と言うか墜落と言うか)の急制動のショックで金属疲労でガタの来ていた「装甲服固定用フック」が基部ごと外れ、俺は艇内でボールの様に天井やら床やらを跳ねまわったが、ナビが機転を利かせ艇外へ投げ出される事は防いでくれた様だ。
揚陸艇のメインコンピューターバンクを利用して強化服のOSの機能を拡張させるが・・・ノータイムで完了した。既に緊急時には揚陸艇にリンクして活動するシステムになっていたらしい。ただ、俺の「やれ」という指示待ちだったとの事だ。
取り敢えず揚陸艇の残った積み荷を確認する、ハンディタイプの3Dプリンターが6本、その電源チャージャーが1機、大型プリンター用の設置基台が1機、拠点設営の最低限機材しか残っていない、後は全て大気圏突入の際に捨ててしまった。
まあ良い、爪楊枝で城を建てる用な作業だがやれない事は無いし、今までも何度かやった作業だ。
「現場確認にしろ、原隊復帰にしろ、兎に角生き残らなければ意味がない。」
幸い、『トロスト連合軍』は近くには展開していないらしい。
先ずは電源確保だ、俺は3D分子プリンターを手に取ると、ブッ壊れた揚陸艇の天井にソーラー発電板と蓄電池を創造する。
軽いモーター音を上げてハンディ掃除機に似たヘラ状の口から電子ビームが広がり、予め揚陸艇の天板に設計されたアタッチメント部分に部品を組み立て行く。
瞬く間に超小型高性能ソーラーリアクターが完成した。次に、元素分解装置を組み立てる。
プリンターで物を作るには原料となるリソースが必要だ。この元素分解装置は取り敢えずその辺のガラクタを口に突っ込めば、分子毎に振り分けて貯蔵してくれる優れ物だが・・・
「この調子だと原隊復帰までに俺の寿命が尽きちまうな」
そこで俺は重大な事に気が付いた。
「有人大気圏離脱に必要な熱核融合リアクターがハンディやハンディで組める工具じゃ造れないじゃないか・・・
ツツツと冷や汗が頬を伝う。
「ナビ!確認だ!」思わず声を荒げる。
「大気圏離脱可能な熱核リアクターの設計図はあるか?」
『NO、私のデータバンクにはありません、現状の私は飽くまで陸戦装甲歩兵のサポートOSに過ぎません。』
俺は目の前が真っ暗になって全身の力がドっと抜けた。
『検索の結果、揚陸艇に外部接続の工兵隊用ミッションパックが有りました』
『その中に地表から衛生軌道に通信、探査衛生を打ち上げる為の大型核融合リアクターの設計図が有ります。』
「よし、取り敢えずはそこからだな。」
『いえ、先ずは装甲スーツの改良と武装からをお勧めします。』
「え?」
『現在、ケント中尉の生命維持に関するエネルギー消費が甚大で、このままでは約36マクロタイムで装甲スーツのパワーが枯渇します。』
「36?改善策は無いのか?」
『現在供給中の呼吸用のリソースは、すべて1から分子合成されていますが、これを外気成分で代用します。』
「うえっ!」
背に腹は変えられ無いか、俺は覚悟を決める。
この星にナビが検出出来ない未知の有害なガスが無い事を祈りつつ。
「解った、細菌や微生物はちゃんと濾してくれよ。」
『気体は一旦成分毎に分別し、再混合してから供給されますので、微物の混入はありません。』
『水分の供給も、ケント中尉自身からの排出以外は分子合成しています、これも外気からの補給に転換する事を推奨します。』
「それで、エネルギー消費は改善出来るならやってくれ。」
心なしかスーツの奥から響く様な振動音が変わった気がする。
『活動限界時間が大幅に改善されました、エネルギー枯渇まで6公転タイムは活動可能です、これで上腕のレーザーバルカンが使用可能になりました。』
「ん?」
『戦闘に備えて下さい、前方2時の方向から原生動物が接近しています、後0.3マイクロタイム』
直ぐ様俺は戦闘態勢をとる、モニターに4つ足のずんぐりした生き物のデータが表示される、前足を付いたままの体勢で俺の背より大きい、前足に歩くには不便そうな長い鉤ヅメが並び、口元には鋭い牙が覗いている、どう考えても肉食生の攻撃的な野獣だ。