衛星軌道上
オートマトンとは広義では所謂『自動人形』の事であるが、俺達『工兵』が使う場合は意味合いが変わって来る。
この場合の「オートマトン工法」とはこうだ。
まず、『A』というロボットが自分と同じ『A』型というロボットを複製し、それが終わると『B』という別のロボットを作る。
『B』は与えられた仕事「建築」等を行う。
『A』はこの工程を繰り返し行う、複製された『A』型は『A』と同じ様に『A』『B』を繰り返し延々作って行き、ロボットはネズミ算式に増えてゆく。
そして、時間が経てば経つ程にロボットは倍々に増え作業効率が上がって行くのだ。
一見良い事尽くめの様に思えるが、弱点はある。
まず、ロボットを量産する為のリソースが非常に沢山必要になる。
次に、増えたロボット達を動かすエネルギーも莫大に掛かるという事だ。
かなり、大掛かりな生産でなければ採算が合わないし、敵の攻撃があれば致命的な損害が出て、目標の生産量をこなせないか、達成出来ても『敗北』に等しい損益が出る為、俺達『工兵』は敢えて執らない工法だ。
言うなれば、昨日俺がやって見せた『マニュアル省略式現場工法』と対極にあるやり方だ。
「駄目、でしたか?・・・
アラナ少尉が眉根を寄せ上目遣いで、僅かに顔を傾け首を伸ばして俺の表情を読み取る様に尋ねて来る。実にあざとい仕草だが、俺は騙されない『コイツ』はパワースーツのガイドオペレーションシステムを基にしたAIだ。
ややあって口を開く
「事後報告は止めろ、次からは『計画』段階で俺の指示を仰ぐように!」
「了解しました。」
「では答えろ、作業ドロイド、ドローンはそれぞれ何機増やした・・・あー!お前!」
目の前を以前俺がデッチあげ名付けた『ゴーレム』タイプの大型ドロイドが通り過ぎた、オフロードビークルになっている下半身の土手っ腹に『04』とペイントされていた。
「お前、『ゴーレム』も作ったのか!何体居る!」
「作業ドロイドは『バスカ45型ヒューマン』が15体、『レレッゾ4型高所作業用』が・・・
「簡潔に。」
「ドロイドは大小含め50体、ドローンは112機、大型汎用の『ゴーレム』タイプは6機です。」
「疑似人体型は?増やしたのか、お前の姉妹を?」
「・・・・」
「おい!」
「いいえ、今回は効率最優先でしたので。」
じゃあ、その間は何なんだよ、まったく。
等と考えながら改めて巨大工場を繁々と観る・・・地下の鉱物採掘穴を利用しているのか、元来の地面より床は低くなっている様だ、向かって左手の壁側に、今も地下から鉱物資源を掘り出しているのだろう、岩盤むき出しの穴から突き出たコンベアから時々何か吐き出され運ばれている・・・
「兎に角作業を続けろ、続きは本隊と連絡が執れてからだ。」
原隊復帰した時、ここを何と言って誤魔化そう・・・絶対に軍法会議モノだ、反逆罪に問われ兼ねない。
深く考えるのは止めよう・・・
横手から戦闘服の少女が現れ、手に持った簡易スツールを渡された・・・ラティナ曹長だ。
金属むき出しの床にスツールを置き、腰掛けると滑り止めが規則正しく並んだ金属タイルの床をぼーっと眺めた。
「あと、どの位で打ち上げ出来る?」
「0.5自転タイムポイントで打ち上げ可能です。」
暫く沈黙が続く、工場の騒音が遠くで響いており、時折ドローンのローターが巻き起こす風切り音と、ドロイドのカシャカシャという軽い足音が通り過ぎて行く。
「解った、それまでこの星の調査ファイルとお前らの活動記録を見る、打ち上げ準備が出来たら知らせろ。」
「はっ!」
「了解!」
アラナとラティナが勢いよく敬礼するのを横目に、俺はノロノロと立ち上がると簡易スツールを畳んで突き出す。
それをアラナが受け取り、ラティナが小銃を構え作戦室まで俺をエスコートする。
作戦室に入ると指令席に座る、と同時にメインモニターが点灯した
「壁のヤツはいい消してくれ、手元のこれでいい。」
デスクモニターが点きレポートが流れ始める・・・なんだコレ?
軽快な音楽と記録映像のダイジェストが流れる。OPフィルム?
「サイエンスバラエティだー、コレー。」
CGアニメと安い合成のコント風バラエティー番組はそこそこ楽しめた。
軌道計算が難航し、結局打ち上げは翌日となった。
何か大きな岩塊が高速で衛星軌道を回っていて、その軌道を計測するのに時間がかかってしまったらしい。
翌朝早く、指令室に入ると壁の大モニターに垂直打ち上げ式ロケットが写しだされていた。
大型台車に載ったロケットは既に発射位地に固定されており、最高責任者である「俺」の号令を待っている。
サブモニターには、一度も現物を見なかった『万能探査機』(のCGモデル)が映っており、コンディショングラフが表示されている。
「中尉。」アラナ少尉が合図を催促する。
「よし、始めてくれ。」デスクに据えられた『マイク』に向かって指示を出す、工場脇の指令場に詰めているソシアナとアヴィアが打ち上げシークエンスを開始する。
やがて、ロケットは轟音と震動を残し大空へ飛び上がっていった。
「都市の現地民は気付いただろうな。」
それとなくアラナに聞く、レポートによれば「星団連合」の人間とほぼ変わらない位好奇心は強いらしいから、調査団を送り込んで来るかも知れない事を漏らした。
「それは、どうでしょうか、彼等は都市の南部にある森を非常に恐れていますから、それらを越えてこちら側に来る確率は低いと思われますが。」
「彼等の武力ではこの島を見る事は出来ても、海峡を渡る事は不可能だと愚考します。」
ロケットは順調に進み、予定の高度に到達する所まで来たが、アラナ達がやや緊張し始めた。
どうやら、例のスターダストと接触する様だ。とは言え実際は何ポイントも離れた先を高速で飛び去るらしい。現在の状態で出来る限りの記録を録り、分子分解して再合成する素材にする為の下調べをするのだ。
「距離400、接触まで60。」
「最大望遠、捕らえました!」
「計測開始、!」
「!」
「どうした?画像が荒いな・・・こいつは!」
映像に現れた巨大な塊はあっという間に画面外へと飛び去った。
全員が言葉を失っていた。
「記録再生モニターに出します。五分の一速度再生。」
「記録照合。間違いありません。」
飛んでくる鈍色の巨大な物体は、辺が崩れ一方に傾いだ「四角垂」で、ゆっくりと回転していた。
一番広い面が酷く歪で粘土細工をもぎ取った様な形をしていたが・・・
俺達はこの“物体”に見覚えがあった。
「第58艦隊6番艦、宇宙巡洋艦『ナタキル』のメイン艦橋ですね。」
アラナのデータにある『ナタキル』の情報CGと照合された資料によって、やや変形はしているものの、『ナタキル』のモノに間違い無い。
「速度を試算したところ、0.66825自転タイムポイント後に再度接触しますが、・・・
「何だ?」
「約8自転タイムポイント後に惑星の引力を振り切り、衛星軌道を外れ飛び去る計算になります。」
戦艦の艦橋を丸々逃す手は無い、壊れた物だって使える部分は大きい。
「次の接触で探査機が取り着く事は可能か?」
「充分に加速し、直前で再加速して微調整しながらタイミングを合わせれば可能ですね。」
「取り着いて、兎に角減速させて静止軌道に乗せよう。当初の予定だった衛星基地に改造出来れば万々歳だ。」
「『ナタキル』オペレーションシステムが生きていれば良いのですが。」
データによると「惑星連合軍」の標準型宇宙艦はどのタイプもメインブリッジの直下に主幹コンピューターが設置してあり、更にその下には独立した小型のリアクターが設けられている筈だ。
大概の艦はそこだけはセットで損傷し難く造られている。
俺はもう一度、もげた艦橋の映像と『ナタキル』のCGの解析図を見比べた。