脱出計画は順調
ここから又、視点が『ケント』に戻ります。
工兵用装甲服を常時着用するのを止めて7日が過ぎた。
あの日以来、部下達の態度がちょっと変わった、何というか・・・表現が難しいが、何んとなく余所余所しい、何処がどうとハッキリはしないのだが、何か隠している様なそうでない様な『スン』とした態度だ。
気付くと4人誰もが俺を注視していて、見返すと視線が泳ぐ、そんな感じだ。
一度強めに詰問したのだが、「また俺が勝手なバカをやらないか注意しているのだ」と・・・絶対それだけでは無い様な気がする。
さて、今日は久しぶりに装甲服を着用しての作業である。セコセコ造り続けていた大型リアクターの部品が揃ったのだ。
地下で金属元素の元になる鉱物を採掘させていた「大型ドロイド」も今日はこっちに待機させてある・・・両手は「ニュークリア駆動切断機」から換装した「掘削用カッタービット」を取り外し、「重量作業用マニュピレーター」を取り付けてある。取り回しの不便な、この格納庫に造り付けてあるクレーンより柔軟な作業をしてくれる筈だ。
骨格の組み上げと大型の部品の設置は重力下では大変不便だ、何でもカンでも力仕事になってしまう。
「ソシアナ!そのユニットは先に鉄骨の中に入れとけ!そうじゃ無い、鉄骨に固定しちまうんだよ!」
「ですが、それではエネルギーコネクターの調整が・・・
「良いんだよ!そこは『8頁』の『輸送時の固定マニュアル』に従ってやる・・・
「それでは固定ボルトを付けて外す工程が丸々無駄になります。」
「正攻法だと、吊り下げ用のクレーンがもう1レーン必要になるだろ、この方法なら、クレーンを一つ作る暇もリソースも省略出来るんだよ。」
「滅茶苦茶です!」
「ボルトを固定するほんの一瞬の安全確保の為にクレーン一式造る方がおかしいんだよ!」
「あーっ!アヴィア!その脚は先に足首の角度を決めてから建てろ!そのマニュアルは重力下での質量計算が入って無いんだ!足首固定してないと組み付けた途端にバランス崩して倒れるぞ!」
「ゴーレム!来い!今日からお前は『ゴーレム壱号』だ呼ばれたら返事しろ!」
『大型ドロイド』はすぐに察し、尖がった頭部のトサカに付いた採掘用のライトを点滅させると、ごついオフロードホイールを唸らせて俺の前まで来る。
「よし、ゴーレム!ソシアナが持ってる鉄骨を支えろ、握り潰すなよ、中に『餡子』が入ってるからな、アヴィアそいつを持って来い。」
俺の指示で全員が足並みを揃えて作業する、効率は何割増しだろうか?兎に角作業は当初の予定時間をガンガン割り進んで行く。
「ラティナ、出番だ!コイツを固定してくれ!」
「了解!隊長ぉ~、無線で聞こえてますから怒鳴らないでください~」
予備で作った「工兵用強化服」を着込んだラティナが、鉄骨の9つ並んだボルトを固定し、アヴィアがその足首を地面に沈めた基礎に固定する。
「よーし、この調子で後5本建てるぞ!アラナ、クレーンを緩めてくれ!」
指示に従って、電力ユニットが組んだばかりの脚部に向かって降りてくる。
「そうだ、いいぞ、そのまま降ろせ、ゆっくり!ゆっくりだ、そ~う、そうだ。」
「作業ドローン2番、4番、脚部鉄骨にボルトを差せ!まだ締めるな、締めるのは足が全部建ってからだ!」
作業は午前中に終わった、部下達は顔を見合わせ、信じられないと言った様子だ、だが、俺にとっては造作もない、戦場でちんたらやっていれば、すぐに敵の襲撃があって作業処ではない命に係わる、マニュアルは飛ばせる所は飛ばすのが俺たち工兵の常識だ・・・
ドローンのモニター越しにアラナが呆れた様に言う。
「毎度の事ながらお見事です、ケント中尉。」
「本当に・・・詐欺みたいです。」とラティナ。
「私には出来ませんね。マニュアルを外れれば失敗する未来しか見えません。」
「全く、どういう脳の構造しているのか、診てみたいです。」と双子。
何となく、元の、何にでも興味を示す子供の様な態度に戻った気がしたので、ちょっとからかってみる。
「なあ、お前さぁ、何時までその一人四役みたいな『茶番劇』続けるワケ?」
ややあって、モニターの中のアラナがニヤっと笑い・・・
「気付きませんかケント中尉?もう、私達はそれぞれ一人一人に思考回路を1つずつ割り振っています。」
「独立したスタンドアローンになってますよ?」
「え!な、おま・・・
ぎょっとした、この基地のどこにそんな大規模なAIシステムが?戦艦の艦橋1フロアぐらいのスペースが必要な筈だ・・・
というか、また勝手に!
『うっそでぇ~~す。』3人と1機が一斉に声を上げた。
「マニュアルに無い作業を無理強いしてストレスを下さった上に意地悪な事おっしゃったお返しです。」
ワイワイと遣り合いながら、太陽が沈む頃には「大型リアクター」は起動準備が完了していた。
「それでは、リアクターの予備起動を開始する、アラナ!安全装置の最終チェック!」
リアクターの起動に異常があった場合の強制停止装置である。
「異常なし!」
「ソシアナ!エネルギーコネクターの回路チェック!」
全ての回路に間違いなく通電するかの確認だ。
「異状なし、良好です」
「アヴィア!テスト用投光器のチェック!」
きちんとリアクターが決められたエネルギーを送り出すか、大出力のエネルギーライト5台で確認する。ライト自体に不具合があっては話にならない。
「問題なし!」
「よーし、リアクター起動!」
メインスイッチをONにする。
一回指で軽く押せば通電する小さなボタン、押しても感触はほぼ無く、音らしい音もしないが・・・
ンンンンンンンンンッーーーー
やがて空気を震わす軽い音が響き、微かな振動が辺りに響き始めた
「アヴィア!テストしてくれ!」
「了解!」
基地から少し離れた海岸線に設置された5台の投光器の光が空高く、真っすぐ上に向かって投げかけられる。
「成功だ、ライトオフ!現地民に見られる前に消せ!」
その後リアクターは本格的に稼働した。すぐさま、大型プリンターに接続され、不眠不休で工場が稼働し始める。
目指すは衛星軌道、正確な星図の把握と「星団連合軍」との交信だ、まずは発電衛星基地を建設する為の資材の打上げ・・・の足掛かりとなる観測用の調査機の打上げだ。
調査機はドローンの宇宙版で、静止軌道上で常に自転速度で飛ぶ予定である。
ちょっと良いAIを搭載して、アラナの管理下に置く計画だ。
まずは多段型垂直打上げ式、探査機が軌道に乗ればマスドライバー式も視野に入れて行く、という事だ。
次の日、目を覚まして起きると、仮本部の横に巨大な格納庫が建っており、元揚陸艇基地は、巨大な建物の一部になっていた。
知らない所に新たな出入り口があり、そこを抜けると巨大な工場になっていた。
宇宙船の建造ドック程の高さがある建物で、見る限り三十体以上の作業ドロイドが行き来しており、数えるのも莫迦らしい数のドローンが飛び回っていた。
そして、多段ロケットの最下部は完成している様だった。
「おはようございます、ケント中尉。」
キッチリと森林迷彩の戦闘服を着込んだ・・・紀章が少尉だからアラナだな、アラナ少尉がピッと折り目正しい敬礼で挨拶する、軍靴がカツーンと音を立てそうだが、消音素材なので音はしない・・・
俺がずっと奥のロケットに釘付けなので、アラナは説明を始めた。
「『ヴァニスタッド社』の『クイッド68型』多段ロケットです、0.067ウェイトまでの機材を衛星軌道まで運ぶ事が可能です。現在36パーセントの割合で進行しています。」
「ああ、・・・思ったよりも早いな・・・」
「はい、中尉の意向を最優先して、急ピッチで進めています。効率を無視して『オートマトン工法』で進めました。」