表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

突然の戦線離脱

 「傾注けいちゅう!」

 外部センサーが艦内放送を拾う。

「我々第一師団第二大隊はこれより突入を開始する」

 このハンガーにだけ響く放送だ。

「以後の通信は全て禁止、合図があり次第しだい分隊(ごと)に降下せよ!」

 放送が終わるや否やハンガーの床がスライドを始める。直下に真っ青な惑星の地表が見え始める。

 惑星58-6271、今回の作戦展開区域だ。

 ここには宇宙戦艦の建造に重要な「熱核リアクター」製造の中心となる天然のガス資源が豊富にあり、何としても我が軍の手中に収めたい星なのだが。

 敵対する『トロスト星間商業連合』も最近その有用性に気付き、幾度となく艦隊を送り込んで来ている。


 俺、ケント・ジーン・フクッシマー中尉は、『バロメア星団連合』宇宙軍の第58艦隊の宇宙巡洋艦『ナタキル』の惑星降下部隊に所属している。

 『バロメア星団連合』は7つの星間商業が寄り集まって出来た星団国家だが、運営方針の違いから3つの星団が脱退を表明、新たに『トロスト星間商業連合国』を発足、2つに分裂してしまった。

 そこからはもう泥沼の星域争いが何十年と続いており、一部では戦争が終わると経済が破綻する星域が出る等と言う冗談にもならない冗談が囁かれている。


 俺の部隊は5人一組でこの揚陸艇を基点とした「特務工兵部隊」であり、優秀なAIを搭載した「装甲服」を常時着用して活動する『建築屋』である。

 主な任務は揚陸艇で惑星上に降り立ち、橋頭保となる拠点を構築する事で、強襲爆撃機や威力偵察機がブンブンやって来る空襲の雨の中、3D分子プリンターで楽しい楽しい積木工作である。

 まあ、今回もいつも通りの任務おしごとだ。


 着用している『装甲服パワードスーツ』は最前線で戦う『惑星降下兵トルーパーズ』が着用する『強化服パワードスーツ』の武装類を作業工具に換装した同格の高性能な『よろい』である。

 首から上は胸部と一体成型であるが、モニターは全周囲を補完しており、視界は万全、内部で自由に首を巡らす事も可能で不自由は無い。

 一昔前の様に「ムチ打ち」防止の補助具でガッチガチに固める必要も無いし、ボドボドに干渉液リキッドで満たされる事も無い。

 ガッチリと身体を覆い宇宙空間であろうと、人類が呼吸不可能な惑星上であろと、高水圧で活動を阻害される深海であろうと、ストレス無く活動出来る優れモノで、外皮の上から神経コネクタを特殊なテーピングで固定するだけで我が身の如く活動出来る。

 背中に取り付けられた超小型の3D分子プリンターが生命活動を維持する各種呼気や栄養分を合成し、AIが随時管理してくれる。AIは「着用者パイロット」の任意で「対話型」に設定できる為、例え孤独で退屈な長時間の任務でも、精神的なストレス無しに従軍出来る仕様なのだ。


 赤いランプが明滅し、耳障りなアラートブザーが鳴り始めると、俺達の前方の部隊から順に降下が始まる。

 天井から伸びたアームの先に繋留された重装甲降下兵が軽く船外に送り出される。

 体を捩って手足を振る運動で器用に姿勢制御を終えた連中が、隊列を整え俺達の隊がギチギチに詰まった揚陸艇を迎え、そのままエスコートに付く。

 その時だった、突然に眩い閃光が走り、白い闇が世界を被い尽くした。


「攻撃だ!」


 俺は視界を取り戻す為激しく瞬いたが、直ぐに異常に気付いた。

 (外部の閃光が揚陸艇に入って来るなんてあり得るのか?)

 だが俺達の隊は惑星降下中で、装甲服は揚陸艇のフックに固定されている。艦長命令で作戦の変更でもない限り勝手に持ち場を離れる事は出来ない。

 と言うか、視界が全く戻らず、網膜モニターすら確認できないのなら、戦闘は船外そとの連中に任せるしかない。


 突然に不快な衝撃が全身を襲う、まるで安い合成酒を飲み過ぎたみたいに、脳が直接揺さ振られるかの様な不愉快さだ、一瞬意識が飛んだ。


 船内に激しいアラームが鳴っている。

 気付くと目の前に青空があった。俺の正面に固定されて居た筈の隊長の降下装甲服が壁ごと無かった。

「ザイオン、隊長がヤられた指揮を採ってくれ」

「ザイオン?」隊で一番古株の下士官に呼び掛けるが返事が無い。

 冷たい物が背筋を這う、まさか?

 装甲服のモニターを確認する、視界の端に写る筈のリグ少尉の装甲服が見えない。

「ナビ!」装甲服のコンピューターに入っているOSに呼び掛ける

『現在巡洋艦「ナタキル」のメインバンクの信号ロスト、スタンドアローンに復旧中、復旧まで0.15マイクロ』

 乾いた感情の無い女性の音声が答える、OSの本体がある巡洋艦から切り離されてしまった、強化服の限られたメモリしか使えないが、生命維持には充分な筈だ。

『緊急事態発生、揚陸艇被弾中破、撃墜判定、生存者は脱出せよ。』

 降下装甲服のロックが外れると、俺は周囲を確認した。

『生存者確認中、他機のOSとリンク出来ません。ガントリーロックにリグ・ウェツラー少尉着用装甲服の破片を確認、船外に投げ出された模様。他の隊員の残滓は確認出来ず。』

 船体に大穴が空いており、気圧差の風が吹きすさび、油断すると「装甲服スーツ」ごと外に放り出されそうだ、俺以外の装甲兵の姿は無かった。

 すぐさま気持ちを切り替え、艇内の嵐に吹き飛ばされない様ボディを固定しながら揚陸艇のコックピットに近付く・・・コックピットはそこかしこから火花が飛び散り、操縦士パイロットのリッコー少尉ごと、操縦席がもぎ取られたかの様に消失していた。

『地表まで一万単位を切りました、現在の落下速度5.2、あと5マイクロタイムポイントで五千単位を切ります、安全着陸範囲外になります。』

 OSの声を無視しながら考える、何か策は・・・惑星58-6271の環境を考えると降下装甲服でこのまま外に飛び出すのはパンツ一丁で飛び降りるに等しい。

 不可視ステルスパラシュートの有効な展開高度は千五百単位だが、現在の落下速度では全く役に立たない、展開した瞬間に弾けてしまう、減速は必至だ。

 降下ハッチの反対の壁に簡易操作パネルがあったのを思い出し、飛び付く。

 『揚陸艇マスターシステムにスーツOS接続、緊急制動開始、アラート、制動装置の破損を確認、出力62.8%までダウン、着陸後の残存エネルギー0%』

 揚陸艇のコンピューターは奇跡的に生きていた様だ。

「着陸に全エネルギーを回せ、破損パーツは全てパージだ!」

『了解』

 OSが揚陸艇の情報を装甲スーツに回してくる、俺はそれを確認して安全(生存可能)な着陸を模索する。

『全力制動作業開始、主砲パージ、対空パルスレーザー2番、3番パージ、ロケットエンジン2番、4番はカウンターウェイトとして保持』

 対空パルスレーザーが一門しか残らないが、揚陸艇はもう捨てるしかない。

『ロケットエンジン作動、5、4、3、2、1、点火』

 激しい振動が始まるが装甲服はフルオートで船体内壁にある接続器に固定される、装甲スーツの緩衝装置がある程度衝撃を遮断するが、今は揚陸艇自体がまともではない。

「ゴキッ!」

 何か金属的な鈍い音がしたかと思うと俺は装甲服ごと投げ出され、天井に激突、そしてそのまま床に叩き付けられた。

『ステルスパラシュート展開、成功。』

『当初の作戦降下ポイント不明、現在位置確認できません、着陸可能な平原に接地します。』

 OSナビの声が遠くでする、どうやら墜落はまぬがれたようだが・・・

 俺はそのまま意識を手放した。

装着者パイロットケント・ジーン・フクッシマー中尉のバイタル低下、セーフモード起動、安定剤投薬開始します・・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ