冷淡な彼女が俺に照れる話
恋愛寄りのヒューマンドラマです。
それでは、どうぞ。
都内某所にある、私立丹羽谷高校。
至って、普通の高校である。
そんな高校に、ちょっと雰囲気が違う女子高生が居る……らしい。
▪▪▪
彼女の名前は、枝乃宮かほ。
華道で名を馳せている『枝乃宮家』の、子女だ。
しかし、まあ――
『華道』に対しては、冷淡が過ぎるほど興味が無いとの事だ。
どうしてなのかは、分からない。
……ただ、英才教育が過ぎたから『嫌気』が差したのかもしれない。
▫▫▫
で、俺。
同じクラスの、波戸葉こもり。
僕は至って普通、と言いたいが……
花が好きだ。
女々しいと言われそうだが、花への愛情は人一倍ある。
こんな両極端な僕らが、一気に距離が縮んだのは『あの日』の事だ。
▪▪▪
俺は、毎日花壇の手入れを任せられている。
この日も、手入れの真っ最中だった。
その時、どこかからサッカーのボールが飛んできた。
それが花壇の方に、入ってしまった。
「……あ、こもり!すまん、花壇に入ってしまったようだ……」
声の主は、同級生でありサッカー部の主将の嵐田だ。
「あー、あぁ……まあ、しゃあないな。今回は許してやるわ」
ボールを取りながら、僕はそう返す。
「今度は、気を付けろよー?」
嵐田の方へボールを投げると、彼は受け止めた。
「ありがと!気を付けるわ」
そのまま、嵐田は去っていった。
「……ねぇ、貴方さ」
背後から、馴染みの声がした。
振り向くと、かほの姿があった。
「んだよ、枝乃宮。僕に用か?」
そう聞くと、かほは目線を花壇に落とす。
「学校の花壇、全部貴方がやってるって聞いたわよ」
「それがどうしたんだ。別に、それはいいだろ?」
「……貴方、何でそこまで『花』に愛情を注げるのよ」
彼女はぶっきらぼうに、そう返す。
「……は?」
「だーかーら、花に愛情を注げるのかって話!」
突如強気にその言葉を返す彼女に戸惑いながらも、俺はじょうろを持つ。
「花って、小さきモノながらも……立派で綺麗だからさ」
そう返しながら、花に水をあげる。
「……って、どうしてそんな事を聞くんだよ。お前って『華道』の子女だって言うけど」
一通り水をあげた後、俺は聞き返す。
「それなら、ちょっと違う場所で話したいんだけど……」
そのまま、屋上に連れてこられた。
「で、なんだ?話ってのは」
着いた後に、開口一番で俺はそう聞く。
「……正直さ、貴方の『花への愛情』ってのが気になってさ」
そう言って、俺の方を見つめる。
「私、華道の道を続けたくない……そう思っていた。あんなの、私に向いてないって」
「それが、どうして俺の話になるんだ」
「貴方に、私の活け花を見て欲しいの。せめて、花に愛情を注いでいる貴方に見てもらってから、お仕舞いにしようと思っているの」
▪▪▪
……で、だ。
俺は、かほの家へ向かった。
町外れにある、茅葺き屋根の家が彼女の住まいだ。
(立派な家、だなあ)
そう思いながら見ていると、正面の門が開いた。
「……あなた様が、かほ嬢様の同級生の方ですか?」
割烹着を着た女性が、そう言う。
「は、はい」
「わたくし、枝乃宮家専属の家政婦であります……乃木と申しますわ。案内をとかほ嬢様から、仰せられたので」
手を招く仕草をして、中へ入っていく。
俺は、乃木の後へ着いていく。
日本庭園を通りすぎた先にある、離れの部屋へ着いた。
靴を脱ぎ、障子の外へと立つ。
「かほ嬢様、同級生様をお連れしました」
乃木が、声をかける。
『ありがとう。中へ入るといいわ』
と、かほの声がした。
中には、着物に着替えているかほの姿があった。
「そこへ、座ってくれるかしら」
そうかほに言われ、俺は座布団のところへ座る。
「それでは、わたくしはここまでということで」
乃木はそう言うと、部屋を出た。
「……さて、これから花を活けますわ」
▫▫▫
10分後、彼女は花を活け終えた。
「……さて、完成を見てどう思う?」
そう、かほは聞く。
「キンモクセイは『謙虚』、シルクジャスミンは『純真な心』、スイレンは『清純な心』の花言葉……それを知っていて選んだのなら、『華道』に対してそこまで嫌になっていないって思う」
その言葉を聞いたかほは、顔を赤らめた。
「……やっぱり、『華道の血』は流れていたのね」
▪▪▪
それから、彼女……枝乃宮かほは、再び『華道の道』を進み始めたようだ。
その姿を俺はずっと見続けるのは、これから先である。
――二つの意味で冷淡になっていた彼女が、俺に照れていたと言う話。