一周忌記念日
夫の死から、一周忌が過ぎていた。
日付を気にしなくなったのは、葬式をやった数日後。――明日は休みだね、遊びに行こう。長い休暇が取れた時は、その日を楽しみにカレンダーを見ていた。――この子が生まれる前に名前を決めてよね。大きなおなかを揺さぶりながらカレンダーを見ていた。――明日はこの子の誕生日。ケーキを冷蔵庫の奥に隠してカレンダーを見ていた。――そろそろ結婚記念日だよね。久しぶりの旅行だとはしゃいでカレンダーを見ていた。――最近体調悪いよね、どうしたの? 前日の献立が書かれたカレンダーを見ていた。――私、貴方が好きだから。数か月先のカレンダーを見ていた。――最後に、みんなで。溜めていた金を全て使って、夢だった北海道旅行。
「約束とか、きっちり守る人だったよね」
日付が変わった瞬間に、高い機械音が鳴り響いたのを覚えている。返事も無かった、息もしていなかった、どれだけ抱きしめても体が冷たくなっていったし、やっぱりあの時死んじゃったんだよね。分かってたよ、そんな事。
「ドラマとか、漫画みたいにさ……せめて一週間は粘ってほしかったんだよね。そうすれば、一緒に結婚記念日を迎えられたのにさ」
一人で食べるケーキは味がしなかった。冷たい触感が貴方の肌を思い出させるから、結局あの子にあげちゃったじゃない。歯磨き嫌いだから、あの子は虫歯になっちゃったわよ。
「今日、保育園。仕事休んじゃった、保護者同伴なんだって」
君の事、自慢したかったなぁ。ママ友? ……まぁ、仲のいい同年代の友達が作れたよ。
「……時間だ、行ってくるね」
時計を見るともうこんな時間、朝ご飯を食べる時間も無い……ああそうだ、あの子着替えさせなきゃ、それからバス、ああケータイ忘れた……あの子、歯磨いた?
そう言えば、何時も君がやってくれてたよね。……家事全般やってもらってるくせに! なんて言って……あの時は、ゴメンね。
曲がりなりにも、母親やれてるかな? 働きながらでも、貴方みたいに稼げてるかな?
取り敢えず私は頑張ってるよ。貴方も、そっちで頑張ってね。
これから、なるべく毎日短編を書こうと思います。