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致命傷

 魔力の枯渇が近付くが、出し惜しみなどはしていられない。最大の補助魔法をサンとルイに施して、そして次に攻撃魔法へと移る。どの魔法を選ぼうが無限の体力に未知の守備力、ダメージを与えられるかは定かではない。


 選ぶ魔法は撹乱が最優先。氷結魔法による氷柱を無数に床に生み出していく。これで直撃を避ける盾の出来上がりだ。バグった攻撃力を喰らえば即死なのか、それも定かではない。しかし攻撃力を抜きにしてもバグに触れる訳にはいかない。


 氷柱を準備した後は、ルイと共に火炎弾を四方八方から撃ち続ける。魔王にダメージは通らないが、しかしバグを認知できない魔王の方は、そうは思わない。攻撃が来れば避けるか防ぐか、何かしらの反応を示してくれる。


 バグの塊となった魔王は、触手のようなもので火炎弾を弾いている。それを触手だと断言できないのは、モザイクのように霞んで形がはっきりとしないから。


「サンの目から見て、魔王はどんな反応をしてる?」

「今は火炎弾に意識が向いてるな。しかし理性は無いように見える。攻撃を受けた箇所は火傷もなければ痕すら残らん。恐らく本当にダメージは受けていないのだろう」

「やっぱりか。くそ……理性が残っていれば会話の余地はあったんだけどな」


 融合は元から理性を失くす設定なのだろう。しかし不利益ばかりではなくて、こちらの策を理解されないという利点もある。果たして何処を向いているのかも不明だったが、サンの目視のお陰で火炎弾に意識が向いてることも確認できた。


 そして俺は更なる火炎弾を撒き散らすと、雄叫びを上げながらにバグへ向かって飛翔する。


「おらぁあああ!」


 これで当然、意識は俺の方へ向く。拳を振り上げて迫る俺に、バグの塊は触手を無数に伸ばしてくる。これでは撹乱の意味がないのではと、そんなことは決してない。なぜなら散らした火炎弾は、既に役目を終えているのだから。


「触ったわ! クロス!」


 火炎弾に紛れたルイが接触することで、一時的にバグを消失し、姿を見せる最終形態の魔王の姿。それはRPGのラスボスに見るような、一つの肉体に数多のパーツを内包していた。


 エウレタンにネイロン、アリルにエステル、そして魔王という五つのパーツが一つの肉体から生えるようにして同居する。そんな薄気味悪くも、何処か神々しいその様相。


「オォォォォォ……」


 理性を失くした怪物の地獄の底からの唸り声。それが聞くものを畏怖させるのだろうが、しかし俺にとっては心地よい。あのバグに塗れた、地獄にもあり得ない異質な怪声に比べれば、そんな唸りは猫なで声だ。


「くらえぇ! 武道家スキル裏奥義、爆裂拳!」


 パーツが五つもあるのなら、まとめて倒すのが効率的。しかしルイが触れねばならない以上、規模の大きい魔法は使えない。だから俺は拳を使ってラッシュを、渾身の連撃を魔王に目掛けて叩き込んだ。


「そのままくたばっちまえぇえええ!」


 反撃の間も許さぬ拳の連打。実体化した今なら触れようと問題なく、反撃を受けたところで俺にはそれが耐えられる。この一瞬に全ての力を叩き込んで、それで終わりにしてやる――つもりだった。


 しかしそれはやりすぎだった。魔王の体力はみるみる減るが、ここで一度やめておくべきだった。あまりに強烈な打撃は、合体した魔王の巨体をもって耐えることはできず、踏ん張りが利かなくなった魔王の体は浮いてしまった。


「あっ……」


 ルイの小さな悲鳴が聞こえて、直後に魔王の体は再びバグに侵される。浮いた体はルイの手から離れて、そして俺はラッシュの勢いを止めることができず、右拳を淀んだバグの中へと埋めてしまった。


「や、やばい……」


 すぐさま距離を取って、触れた右腕に目を落としみると――


「これはもう、使い物にならないな……」


 今まで俺を嫌悪させた、気味の悪い極彩色が俺の利き腕に引っ付いている。もはやどうなっているとも分からないが、痛みがないのは幸いだった。


「クロス……その腕の異常は……」

「そっか、サンは俺のバグだけは見えるんだもんな。これで右腕はおしゃかだよ」

「だが、腕を切り落とせば浸食も……」

「かもしれない。でも内部的には侵食しているかもしれない。それに俺は勇者って訳じゃないんだ。腕を切り落としたりなんかしたら痛みで動けないよ」


 俺は決して強くはない。努力のない力が強い訳ないし、強くあってはならない。だから弱い俺には皆の力が必要だ。


「サン、もう一度だけ剣を貸してくれないか? そしてルイ、悪いけど少しだけ危険に付き合ってくれ」

「それは全然、構わないが……」

「でも一体クロスは何をするつもりなの?」

「目には目を、合体には合体だ。ルイは俺の背中にしがみ付いててくれ」


 ルイが触れている間は俺のバグは解除される。そうすれば利き腕も使えるし、剣を振り上げることだってできるはず。


「確かにこれでクロスのバグは消失できるわ。けれど今度は魔王のバグを消すことができない。右腕は使えても、ダメージを与えることはできないのよ」

「そうだね、それでは魔王を倒せない。だけどそれでいいんだ。少し順序は違ったけど、元よりそのつもりだったからね」

「クロス?」

「さあ、時間がない。頼んだよ、ルイ――」

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