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最後の夜

 魔王の城に向かう道中、ルイはじっと己の左手を見つめる。


「この先ずっと、飛行石を手にしていないといけないのが辛いわね」


 ルイには酷だが、バグった状態のままで持ち続けていては、どんな不利益があるかも分からない。万一にでも手放さないよう、布で飛行石を括りつけるルイ。これから先は半ば片手が不自由の状態だ。


「悪いね。なるべく早く全てを終わらせてしまおう」

「……そうね」


 四天王はあと一人残るはずだが、特に大きな障害もなく走り続けて、エスヴァプを出て三日目の夜にはかなり魔王城に近付けた。これならば翌日には魔王の城に辿り着く。


 つまりはこれが、バグったストラユニバースでの最後の夜となる訳だ。けれど俺たちの終わりにしたりはしない。必ず世界は元に戻して、次なる朝を皆で迎えよう。


 エスヴァプから先に町はなく、以降は心の休まらぬ野営が続いた。しかし最後の夜だけは少し甘えて、絨毯のついでにハイネで買っておいたお酒を飲んだ。嗜む程度に楽しんで、その後は見張りを立てて就寝する。


 はじめの見張りは俺からだ。田舎以上に何もない魔界はとても静かで、ふと見上げる夜空は異世界であることも忘れるくらいにいつも通りだ。


 暫く経てど魔物の気配も感じられず、何の気なしに画面を開いて覗いてみると、そこには新着のメッセージが届いていた。


 送信元はもちろん運営から。かなり今さらだが、期待半分に諦め半分、メッセージを開いて内容を覗いてみた――


「クロス? そろそろ交代の時間だわ」

「ああ、もうそんな時間か」

「何か神妙な面持ちに見えたけど……大丈夫かしら?」

「うん、大丈夫だよ。ルイは何も気にしないで……無理しなくていいからね」

「?」


 ルイはあっけらかんとしているが、それだけは伝えておかねばならないだろう。


 寝息を立てるサンの隣で横になって、改めてメッセージ画面を見返した。悪い気はちょっとだけしてたけど、いざ目にすると、やはりなかなかしんどいものだ。


「バグの状況が芳しくない場合はリセット操作をすることなく、ストラユニバースのサービスは終了致します。その際にはクロス様の世界の移動をお願いします――か……さて、どうしたもんか……」

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