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ステート移行不良

 冗談半分のつもりで言ってみたら、まさか本当に魔道具精製には命が必要だなんて……


「そんな……そこをなんとかならないのかよ!」

「なんともならないわ。それがルールなのだから。この世には強力な魔道具もあれば、そうでない魔道具もあるでしょう? では性能の差はどこで出るか、それは元となった人間の性能よ」

「それってつまり、魔道具は元は人間だったってこと……」


 な、なんだか気分が悪くなってきた。知らずに船や地図を使ってきて、まるでカニバリズムのような嫌悪感を感じる。


「そこまでは言ってないわ。抽出するのは魔力だけなのだから。肉や骨までが魔道具として生まれ変わる訳じゃないもの」

「魔力だったら魔物だって持ってるだろ。だったら人間じゃなくたって……」

「駄目ね。魔物の魔力は穢れていて、同じように見えて違うのよ。人の生み出す清らかな魔力が魔道具としての形を生み出すの」


 ちょっと待て。人の魔力と魔物の魔力に違いがあるなんて初耳だぞ。


「ル、ルイ! 魔力ってそんな設定なのかよ! おまけに魔道具精製は命と代償だなんて……この世界を作った運営は性格歪みすぎだろ!」

「受付の私に言われても分からないわよ! どうゆう意図で作ったかなんて……」

「…………悪い」


 沈んだ空気と、理解の及ばない話に狐につままれたようなコットン。サンが率先して一歩踏み出す。


「なあ、コットン。魔道具の作成には命が必要だと言ったが、それは作成の為に死が必要なのか。それとも魔力を抜かれて結果的に死に至るのか。どっちなんだ?」

「どっちだって同じよ。最終的には死ぬのだから」

「いいや、同じじゃないな。クロスの魔力は膨大だ。ならば魔力の抽出にも耐え得ることができるんじゃないのか?」

「こいつが? とても信じ難いけど……でも仮にそうだとしてもよ、ある限りは搾り取っちゃうの。無限でない限りは確実に死ぬわね」

「そうか……」


 これまでに幾度も解決策を見つけてくれたサンだが、こればかりはどうしようもないのか項垂れる。


「西の大陸には賢者の石があるというわ。それは魔力を生み出し続ける魔法の石で、それさえあれば犠牲なしに魔道具を作ることができるのだけれど」

「賢者の石……これからその石を探しに行くしかないのかしら」

「ルイ、それは時間が掛かり過ぎる。そもそも俺たちはあるべき順序を相当ショートカットしたんだ。一からやり直したらどれほどの時間が掛かってしまうか……」


 Aランク以上しか通さないハイネの番人。魔王の大陸へ向かう海洋には、中盤からの来訪を阻止する為、海龍や四天王が行く手を遮る。


 本来はランクを上げるために大陸を回って、海では逃げるか負けイベントに遭遇し、強くなるために数多の世界を巡る。


 その中にきっと、賢者の石のイベントもあるのかもしれない。それを使うべき場所がここエスヴァプ。だが今更、賢者の石を求めて世界を旅して回るなんて……不可能に決まってる。


「ですがやるしかないのです。それとも人の命を犠牲にしますか?」

「くそ……そうするしかないのか? 人の命を犠牲にした場合、バッドエンドへの分岐となるのか? はたまた人の命では望むものを作れないのか?」

「仮に何処かの誰かを犠牲にするのなら、私がその役目を請け負うぞ」

「サンの命を犠牲なんて、そんなことできる訳ないだろ……」


 厳しいとは分かってても、やるしかない。迷う暇があるならば、賢者の石をいち早く探すしか方法は残されていないんだ。


「一度ハイネに戻りましょう。それで西の大陸を目指さないと」

「船は借りるだけのつもりだったけど、これじゃ恰好つかないな」

「仕方ないわ。ところで、またエスヴァプまでは転移魔法で戻れるのかしら」

「それは問題ないっぽい。こんな森だけど、町と認識されているみたいで――」


 画面から顔を上げると、ぽかんと呆け顔のサンとコットン。それを見る俺とルイの方も訝し気に見合わせる。


「なんか……変なこと言ったか?」

「いえ、何もおかしくは――」


 するとサンが手を広げ、森の中をぐるりと見回した。


「クロス? こんな森って……幻覚はとっくに解けて、今はもう町の中だろ?」

「……え?」


 この場の四人全員が呆けているが、しかし驚きの種類は異なっている。


「二人とも怖い顔するなよ……とっくに幻覚は解けているって。なぁコットン?」

「と、とっくよ。私の姿を認識したでしょ? あの時から町の幻覚も解けているわ」

「冗談はやめろって……ルイはどうなんだよ」

「どうって言われても……森の中よ」


 一方は転生者で一方は仮想空間に生きる者。そして仮想空間の者たちが認識できないこと。つまりこれはイベントが進んでも、フィールドの幻覚が解けないというステート移行不良のバグだった。

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