魂のありか
魔王の手先であるエウレタンだが、殺すことはせずにオアシスに置き去りにした。何が合理かは分かっていたけど、やはり殺してしまうのは気が引ける。倒してきた魔物には気の毒だが、人語を解するとなると止めを刺すのは気が重い。
とはいえ厄介の種だった制約の腕輪も回収もしたし、脅威もこれまでほどではなくなると願いたい。
そしてエスヴァプへの進行を再開するが、その足取りはというと重かった。走ったり歩いたりを繰り返して、目的の森まで向かって行く。
果たして最後に待つものは、勝利と言って良いのだろうか。世界を救うハッピーエンドと、バグに呑み込まれるバッドエンド。しかし別の角度から見てみれば、全てを忘れるバッドエンドに、想いを分かち合うハッピーエンドともいえる。
バグに満ちた世界はどうなるのだろう。知らぬが故に、端的に恐ろしいものと感じたけれど、消失してしまう訳じゃないのなら、いっそ呑み込まれてしまうのも、それはそれでありなのかな――
「――なんて、思ってるんじゃないだろうな」
「え――?」
その声は馬上から見下ろすサンの口から。青の眼は透いていて、俺の心を見透かしているのだろうか。
「このままでもいいかなって、そんなことを考えてそうな顔だ」
「いや……そんなことは……」
馬から降りたサンは手綱をルイに預けると、俺の横を並んで歩く。
「なぁクロス。さっきの戦いはどうだった?」
「見事だったよ、本当に。やっぱり真の強さって、積み重ねた先にあるものだよな」
「それを言ったら、あの場で一番強かったのはエウレタンだったのかもしれないね」
「つまりそれって、透過の力は不正だって……」
それ以上は言えない。透過が不正ならバグが不正。つまり侵されたサンも不正であって、リセットするのが正しいと言っているようで。
「クロスは安心していいよ。改められた世界でも、きっと私は私のままだ」
「なんでそんなことが言えるんだよ」
「魂の存在なんて証明できないだろ? 仮想の存在だったらなおさらだ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「だったらサンという存在はどの世界でも固定のもので、今の私が何処かに行ってしまうということはないはずだ」
そういうものなのかな。魂とか意識の在りかとか、難しくてよく分からないよ。
「新しい世界で私と会えたら、是非次も仲良くしてやってくれ。気安く呼べば、ひょこひょこ付いてくるぞ。きっと気さくが売りの存在なんだろうね」
「……んなこと言うなよ」
「でも、一つだけ我儘を言わせてもらうと――」
「なんだよ?」
「今こうして話してる私を、どうか忘れないでいて欲しい」
あ――駄目だ。この時間軸は消しては駄目だと分かってしまった。
難しいことを言ってはぐらかして、なんとなくぼやっとしたままで、その実サンだって真理は分かってない。じゃあ仮想に於ける魂や意識は一体どこに向かうのか。
無だ。無かったことにされてしまう。俺の頭にしか残らないのなら、それは俺の妄想と変わりない。
この時間は消せない。一か八かに懸けるほど、サンの知性は軽くない。リセットボタンを押す訳にはいかず、であれば俺のするべきことは――




