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戦いの後で

 木々の合間から陽が差し込み、身を起こしたエウレタンは、ほけーっと一人呆けていた。ぼやけた頭が徐々に記憶を取り戻し、瞳に光が宿ると、隙を晒していることに気付いて咄嗟に周囲を見渡す。だが既にオアシスに、クロスたちの姿はなかった。


 ふうと一安心するものの、次には負けたことを思い出す。目標のクロスではなく、ただの一騎士に敗れてしまった事実を思い出して、ごろんと地面に転がり目を瞑る。


 そんなエウレタンの下に訪れる青い妖精。透明な羽を羽ばたかせ、横たわるエウレタンの顔を覗き込んだ。


「何してんのよ、こんなところで……」

「ネ、ネイロン? 君こそなぁんでこんなところに?」

「あんたが突然いなくなるからよ。てっきり戦いに赴いたと思ったら、まさかお昼寝してるとはね」


 腕を枕にするエウレタンはそのままの姿勢で首を振る。その顔には自虐染みた笑みを浮かべていた。


「いいや、戦ったよ。そんで負けた」

「そう。まあ格上だから仕方もないんじゃない?」

「ならいいんだけどね。でも負けたのは仲間の騎士の方。名前を呼ばれていたけど、てんで覚えてないよ。つまり名前も知らない奴に負けちゃったってこと」


 うんと手足を伸ばすエウレタンは、顔をそっぽに向けて寝転がる。


「ほんと、だらしない奴」

「敗者なんだからネ。そりゃあカッコよくは――」

「負けたことがじゃないわ。そうしていつまでも不貞腐れているところよ」


 立て続けの悪態に、いつもの調子で言い返そうと、エウレタンは腰を起こして振り返る。だがネイロンの方におふざけはなく、冷ややかに見下ろしていた。

 

 居たたまれなくなって俯くエウレタン。返す言葉もなく口籠る。


「なんか言ったらどうなのよ」

「……これ以上どうしろっていうのさ。いまさら出たところで、恥の上塗りだよ」

「上等じゃない。失う誇りも消えてくれて、あとはがむしゃらに挑んでみれば、それでいいのよ」

「でもホラ。これ見てよ」


 力なく腕を掲げると、空の右手首がぷらぷらと揺れる。


「あ、あんた……制約の腕輪を無くしたの? ていうか……奪われたのね!?」

「あはっ、やっぱまずかった?」

「当たり前でしょ! 私もアリルもエステルも、制約の腕輪を使うっていうのに」

「しょうがないじゃん。あのクロスって男、こっちの情報はお見通しなんだよ。酷いチートだよね。プライバシーもあったもんじゃないんだカラ」


 ぎりぎりと拳を握るネイロンだが、ふうと大きく息衝くと、開き直ったかのように肩を竦めた。


「ったく、仕方ないわね。まあ、むしろ怪しまれない方が不自然だものね。それも含めての制約の腕輪で、予測を超える策を立てなきゃね」

「ネイロンは頭がいいから、きっとなんとかなるヨ。僕は馬鹿だから駄目だった」

「だからぁ、そういう自虐はやめなさいって。騒々しい方がまだマシよ」

「アヒャヒャ、ネイロンネイロォン!」

「ふふっ、失礼。やはりどっちもうざかったわ」


 ネイロンの顔から笑みが零れて、合わせてエウレタンも無邪気に笑う。喧嘩してもギスギスしても、すぐに元通りが二人のお約束。


「そういえば奴らの次の行き先、エスヴァプって言ってたよ」

「エスヴァプ? 魔法都市の? 確かだいぶ昔に滅びてなかったっけ?」

「歴史なんて覚えてないヨ」

「馬鹿……」


 ふわりと風に舞い上がるネイロン。気掛かりだったエウレタンの安否も知れて、次は彼女も最強に挑みに行く。


「じゃあ、私は行くから。一人で戻れるわよね?」

「ウン。暫くしたら戻るから、もうちょっとだけここにいるね」

「あんまり考えすぎないでね……」

「分かってるよ、ネイロン。ジャあ、また後デネ……」

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