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魔王軍ごっこ

 ここは再び魔王城。四天王は殴られた頭を擦りながらに、帰還したその足でレイザーの下へ謁見する。


「お、随分帰りが早ぇな。しかしどうした? 頭なんか抱えちまってよ。ふざけてばっかのお前らでも悩みなんかあるのか?」

「レイザー様のおかげでたっぷりと。ですが今はどうでもいいです。結論から申し上げると、最強の人間と出くわしました」

「ほお、なかなか面白そうじゃねぇの」


 強者との出会いを想像し、不敵な笑みを浮かべるレイザー。しかし実態は想像以上で、ネイロンは一歩前に出て進言する。


「レイザー。あんた勘違いしてるようだけど、人間の中での最強じゃないのよ。最強の生物だと思いなさい。人類も獣も魔物も含めて、真の意味で最も強いってことよ」

「……それは、この俺を含めての話か?」

「えぇ、残念だけど」


 レイザーは言葉なく腕を組み、辺りには重苦しい空気が漂いはじめる。


「その者は魔王に興味はないと抜かしてますが、十中八九嘘でしょう。いずれまもなく訪れるはず。ここは退いた方が賢明です」

「私たち四人がかりなら、レイザーとだっていい勝負はできるわ。でもそんなレベルを明らかに超えてるの。皆揃って一撃の下、あんたの腕力の比じゃないのよ!」


 口々にレイザーに忠告し、その中でエウレタンも声も張る。


「そうそう! 魔王は逃げんなって言ってた気がするけど、気にしなくたって――」

「エウレタンの馬鹿! なんであんたは余計なことを言っちゃうのよ!」


 忠告から一転、煽られたレイザーは組んだ腕をゆらりと解く。赤眼はぎらぎらと燃え滾り、負けん気が強く滲み出ていた。


「そう言ったのかよ、その人間は。この俺が逃げるかもしれないと、そう考えてるっつうことなのかよ」

「ほら見なさい! レイザーならこう言うって分かるでしょうに!」


 ネイロンの拳骨がエウレタンに落ち、泣き声が大広間に響き渡る。しかしレイザーは咎めもせず、かつ冷静さも失ってはいなかった。


「面白れぇじゃんよ。倒してみようぜ、最強の人間ってやつをな。挑むのが魔王ってのは可笑しな話だが、挑戦者なら工夫を凝らして、努力っつうもんをしてみるか」

「レイザー様……それは一体。工夫や努力なんてもの、そのようなことは未だかつて無縁だったはずでは」

「しょうがねぇだろ、エステル。こちらが弱者側なんだからよ。もっとも今さら鍛えたって遅ぇ、しかし使えるもんは使わせてもらう、勇者ばかりが仲間やアイテムだなんて決まりはねぇからな。そいつを倒せる努力を、頭を捻って戦うっつう訳だ」


 怒りにかまけて立ち向かうと、全員が全員予想していた四天王は呆気にとられる。


「レイザーって、そういうの嫌ってるかと思ってたわ」

「嫌いなのはつまらねぇことだ。つまらん小細工とかいう意味じゃなくてよ。もっと純粋な意味でつまらねぇこと。潔い真っ向勝負だろうが、あっさり負けちまったら滅茶苦茶つまらねぇだろ。楽しむ時間がねぇ訳だからな」


 戦いから退けさせたかった四天王だが、結局は戦う羽目になる。だが当初の想定とはまるで異なり、策を練れば勝ち筋も見えてくる。


 最強とは決して無敵ではない。二つは似ているようでまるで異なり、二番手以下が近い強さを持っていても、最も強ければ最強は最強。


 無敵は敵無し。二番手以下も含めた上で敵といえる者が存在しない。そしてクロスは最強だが無敵ではない。策さえ練って準備をすれば、倒す隙は大いにある。


 だがこれはあくまでレイザーの意志であり、四天王は身の振り方を迫られる。


「私たちは……どうすれば……」

「そうそう! 僕たちはどうすればいいの!? レイザーが戦うのはいいけどさ、死なれたら僕は寂しいよ!」

「知らねぇよ、んなこたぁ。自分で考えて自分の好きにしたらどうだ? そもそも俺が人類への侵攻を止めた時点で、お前らは自由にしていいって言っただろうが」


 まるでお遊びのように見えた関係だが、その実は本当にお遊びで、もはや彼らは軍ではなく、四人は好きでこの場に留まるだけだった。


「他に行くところなんてないだけよ、寂しい訳じゃないんだから……」

「そうだよ! ネイロンはレイザーが好きなんだ! だから離れる訳なんて――」

「エ、エウレタンったら何言ってんの! 違うし、そんなんじゃないんだから!」


 魔王軍を解体しても、なお続くいつものおふざけ。眺めるアリルは悦に浸る。


「……いい……」

「アリル! あんたも見てんじゃないわよ!」


 こんな下らぬ茶番劇を、昔のエステルは都度都度叱りつけていた。しかし今のエステルも趣味の一人で、もはや彼らを取り締まる立場にいない。


「まったく、呼び出したかと思えば好きにしろだなんて、自分勝手もいいところですが、仕方ないですね。私たちだって元魔王軍の四天王です。このまま引き下がる訳にはいかないですし、頭を凝らして挑んでみましょう。レイザー様は最後でお願いしますよ。先に挑まれては面目が潰れてしまいますから」

「構わねえよ。そんくらいの度量は今だって見せてやる」


 そうして動き出す旧魔王軍。彼らの目には、当時と同じ熱が再燃する。


「では始めますか。魔王の城と言えば宝物庫、それを使って戦いましょう」

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