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出航

 宴の翌朝には、俺たちはハイネを旅立つことになる。その日は早くから、借りる予定の船を見せてもらうことに。王自身はくれると言うものの、正直それはかえって持て余してしまう。だから船は借りるだけ、というより、乗せてもらうが正しい報酬。


 船を操舵する者と、世話役の人間を付けてくれる。そしてあげてしまう訳ではないのなら、その船はとても立派で、国の持つ最高の船を出してくれた。


「で、でかい。それに、何やら妙な気配を感じるな」

「さすがはクロス殿、よく気付けましたな。誰ぞ運転していればともかく、その残滓に気付くことができるとは」


 残滓の正体、それは魔力。船は船でもこれは魔導船で、魔力を源として動力とし、その速さは帆船の比ではない。もちろん注ぐ魔力量は関与しており、誰しも性能を最大限に活用できる訳ではないのだが。


「魔力の量、その点はクロス様なら問題はないでしょう」

「その声は――」


 珠の声に振り向けば、そこには活き活きとしたシルク姫の姿があった。


「良くなったみたいで何よりだ」

「これも全て、皆様のお陰です。こうして再び、日の下を歩けるようになれるとは。御恩は多大で、言葉では感謝しきれませぬ。それに――」

「それに?」


 その後の言葉を詰まらせるシルク姫。せっかく治ったと思ったら顔を赤らめ、果たして熱でもあるのだろうか。


「クロス殿、私はまったく構いませぬぞ」

「構わないって、何がさ」

「クロス殿のパパになってもだ」

「は? はっ!」


 まさか姫のこの反応といい、王の言っていることは!


「ち、父上! なんてことを! 命の恩人に失礼でございましゅる!」

「じゃあ、仮にクロス殿が良いと言ったら?」

「それは構いませんが……というか――」



「構う構わないとか偉そうなことを私が言える立場でないですし命の恩人にそう言われれば従うしかない訳で私に拒否権なんかある訳ないしってなんだかこれって嫌みたいに聞こえちゃうかしら全然そんなことはないの嫌なことなんてないのどちらかというと嬉しいというかプラスかマイナスでいえばプラス寄りでいや違う全力でプラスに振り切れてて好き寄りの好きなのでありましてでも姫がそんなこと口走るなんて恥じらいのない女だと思われちゃうかしらあらやだ困っちゃうなにが正解なのか教えて神様シルクめには分かりませぬ分からないからどう答えていいのかも分からなくて言えることはただ一つ私はクロス様の御帰りを――」



「待っております」

「…………はい……」


 重い……きっと、助けた姫と繋がる展開を用意してくれたのだろうけど、この世界を創ったクリエイター。重すぎるよ、愛が。


「おお、そうか。娘の愛を受け取ってくれるか! それではこれも差し上げよう。これは魔導地図といってだな、通常の世界地図と違って、事細かに場所を標してあるのだ。このように小さな紙切れに見えるがな、拡大と縮小ができるのだ。役に立つ機会があるかもしれん」

「いや、受け取った訳では……」

「まあまあ、取っとけ! 魔道具は高価で、金に困れば売るのも良かろう。はっはっは、未来の婿殿に対してなら安いものだ。して、いつ頃帰ってくるのだ? 次こそはちゃんと祝いたいし、前もって教えてくれると――」


 どうりで、この親あって娘ありという訳か。地図はとりあえず受け取って、あとは笑って誤魔化そう。


「さあ、いよいよ船出だな。これで魔王を倒せ――って、そのことは内密に。とりあえず、なんて言って魔王の大陸に向かうかな」

「クロスは命の為だと言ったのだろう? だったら魔物に大切な人を攫われたとか、そういう感じでいいのでは? 魔王が関与していないのなら止める理由はないし、その大切な人がフィアンセとして、それならば姫との結婚もうやむやにできるだろ」

「ナイスアイデア、それでいこう」


 船員にはそのことを伝えて、魔王の住む大陸を目指してもらうことにする。危険の多い魔物の住処だ、船員の顔には不安の色が浮かんだが、行きは俺が守ってやるし、帰りは転移で船ごと返してやると、それを伝えて少しは気が晴れたようだ。


 そして船は陸を離れて、大海原へと出航する。振り返れば手を振る、アーサー王とシルク姫。この度が終われば、魔王を倒してリセットできれば、その時は改めて、この世界の旅を満喫しよう。

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