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ひとしこのみ

 さあ、ゴブリン退治へ大冒険のはじまり――と、言いたいところだが、結論から言ってしまうと楽勝であり、故に語ることなど何もない。仮に俺が大作家でも、象と蟻んこの戦いを、劇的に描くなんてできやしない。


 強いての苦戦は、討伐の証が必要なこと。倒した証を剥ぎ取る必要があり、明確に両耳に両眼と定められている。確かにどこでも良いとなれば、一体を複数体と偽ることもできてしまうし、部位を定めるのは仕方ないのかもしれない。しかし耳と目だなんて、何処だって嫌だが、どちらも二つあるじゃないか。一体につき四回もナイフを通す羽目になるなんて。くそったれ。


 耳の形状はゴブリンをゴブリンたらしめ、それで認識する訳なのだが、しかし耳を失くした個体が死んでるかどうかは、冒険者のみぞ知るところだ。両眼は死の約束であり、仮に生きていたところで死ぬのは確定。しかし眼球だけではゴブリンと断定しづらく、だからセットとする訳だ。


 頭部まるごと持って帰れば、それが一番手っ取り早いが、さすがに大荷物となってしまう。とはいえ、人の慣れというのは恐ろしいもので、続ける内に感覚は麻痺していく。ずっと無理な人も中にはいるだろうが、でも皆やってるじゃないの。頭を落として皮を剥ぎ、内臓を取り出し身を捌く。どこの家庭でも、魚とかでさ。


 そして集めた大量の目と耳、それらの詰まった袋だなんて、猟奇殺人犯も真っ青だが、この世界ではそれがまかり通る。そうして袋を受付台に叩きつければ――


「すっごぉい……ですねぇ……」


 依頼の数など朝飯前で、さすがの受付嬢も目を丸くした。更に俺は依頼をこなしたことで、同時に自信を獲得しており、それらは言動にも表れる。


「当然の結果です。というより――貴方の存在が応援が僕に稀なる力を与えてくれてだから僕はやり遂げられたこれもひとえに貴方のお陰で貴方の愛の賜物でつまりあなたに感謝していてお礼がしたい今夜僕と夕食でもいかがかな良ければだけどもちろん強制はしないよいつでもいつまでも待つよ別に惚れている訳じゃないし至って冷静だから好きだからとかじゃないから安心してね僕はクールで落ち着いているし口数も少ないキザな男だけど気軽に友達気分で絡んでくれて全然構わないからだから仕事の後に時間が空いていれば二人の時間を共にしたいと思うんだが――如何かな?」


「無理です」


 おや、イケメンになったはずなんだけど、果たして何がいけなかったのか。いわゆる照れ隠しってやつなのかも、目を合わせないのもそれが理由だろうか。


 その後は討伐の査定をし、そして報酬を受け取った。得た金で必要物資を買った後に、ギルドの証を眺めながらに帰路に着く。充実した心持ち、現実世界では感じたことのない達成感。今はまだまだDランクだが、この証はいずれ間もなくSランクへと昇り詰めるだろう。両手に囲うのは絶世の美女で、そんな悠々自適を夢に描く。


 浮ついた面持ちで家に着くと、袋から購入した物資を取り出した。言葉にすれば何の変哲もないものだが、しかし実際は摩訶不思議だ。今まさに荷物を取り出したこの袋だが、どこぞの多次元ポケットを思わせる、面白い構造となっている。


 まず、袋の体積を超えて荷物を収納できる。これも仮想空間だからこそ為せる業だ。そして先程は国民的ロボットのアイテムに例えたが、むしろこれはゲームにありがちな持ち物欄に近いものだ。つまりは覗き見ずとも一覧で確認できるし、一つのアイテムは纏められ、掛ける幾つと表示される。


 とても便利な機能だが、しかしここで一つの癖が湧き出て来る。ゲーマーと言うほどでもないのだが、俺はそこそこにゲームを嗜んできた。そしてアイテムの並び順、デフォルトで並ぶ順番は個人の理想とは違うのだ。それをそれとして受け入れる者が大半だが、俺は自分の好みに並べる癖がある。


 よく使うものは上に、そうでないものは下に。そうして自分好みにカスタマイズする癖がある。昔のゲームに、アイテムの並び順がチートを生み出す裏ワザがあったものだ。攻撃全てがクリティカル、倒した敵が仲間になる。なぁんて思いながらに、今の俺にはチートなんて必要ないし、これは単純に効率を求めた作業なのだ。


 進めていく内に、疲れからか途端に視界がぼやけた。持ち物の名称が反転し、不気味な文字列が浮かび上がる、そんな気がした。しかし俺は最強に生まれているのだし、容易にダメージなど受けるはしない。だが念には念をと、状態を調べてみることにしよう。


「ステータス、オォォォプン! なんちて」


 すると目の前にはゲームに見る、ステータスを表示する画面が現れる。まあ驚きはしない、事前に聞いた解説の一部で、念じれば現れると聞いている。わざわざ発声する必要はないんだが、これも異世界気分を味わう醍醐味の一つでもある。


 表示される状態を見てみるも、特に異常は見当たらなかった。しかしそれよりなにより、カウンターストップした美しきステータスの数々に見惚れてしまう。そうしている内に、当初の気の迷いなど頭の隅に追いやられた。


 そうしてあれやこれや、気移りしては整頓を繰り返して、小一時間掛かってアイテム整理を終わらせた。その後は特にやることもないので、明日に備えて寝ることにする。異世界での冒険を思い描いて、希望に満ちた安らかな眠りを。


 そんな欲望とは裏腹に、俺はこのさき行き詰まる。最強の力でも敵わない、異質の力に屈することに。それはシナリオを外れてしまった冒険で、仮想すら超えてしまう異常なら、元から筋書きなんてなかったのかもしれない。

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