夢中で捜索
パナセアの花は白い花弁を咲かせており、百合に似たラッパのような形をしているそうだ。そして万能薬としての役割は、球根でも茎でも葉でもなければ、花びらだけに効能があるらしい。
俺は花の種類に詳しくはないし、異世界の植物となれば尚のこと分からない。だが逆を言ってしまえば異世界であるからこそ、手に入れたものは名称としてアイテム欄に載ることになる。そんな識別方法が転生者にはできる訳だ。
だが周囲を見渡す限り、それらしき花は見えてこない。白色の花といってもハルジオンのようにこぶりなものや、大輪のものでも芍薬のように重なり合う花弁だったり。手にするまでもなく違うと分かるものばかり。やはり通説の通り、標高の高いところにしか咲かないのだろうか。
捜索に集中している内に視界が狭まり、ふとバグのことを思い出して振り返ると、目先五メートルの領域までにじり寄ってきていた。バグは決して素早い訳ではないものの、音も気配も感じない。うっかり踏んでしまうお間抜けなんて、笑い者にもなりゃしない。
……そういえば今さらなのだが、できると思って試したことだが……
ルイの力が万に一つ、山を覆うバグに通じなかったら、一体どうなってしまっていたのか。ふと思い立って近くの小石を拾い上げると、バグの領域へと放ってみた。
すると小石は実体を失くして、不自然に宙に留まると、びびっとノイズのような音を立てた後に、跡形もなくバグに埋もれてしまった。
背筋に寒気が走った。いずれ試す必要はあったかもしれないが、安易にルイに触らせたことを罪深く思った。そしてこの異常現象は、最強などでもどうしようもない。
カンストしたステータスも、最強装備も、究極の魔法でさえ、バグってしまえばそれでおしまい。無敵のデータもバグには勝てない。俺の及ばぬ異常な力が、目の前まで迫り来る。
…………
………………
……………………あ
まずい……また集中を切らしてしまっていた。捜索とバグ、そして俺にはもう一つ、皆の気配に気を遣わなければならない。改めて気配を探ってみると、サンとルイの二人はぐんぐんと登っており、かなり上まで進んでいるようだった。
標高うんぬんはサンの発した言葉で、だから高い箇所から調べていくつもりなのだろう。しかしもう一つ感じる気配が一つあって、その気配は何かを探す訳でもなく、目標に向かって真っすぐと動く。地形などは無視してひたすらに真っすぐと。つまりその気配は空を飛んでいて、その直線上にはサンとルイの二人がいる。
まさか……この気配がワイバーンなのでは? 二人がパナセアの花に接近しているから、ボスキャラが現れるという流れなのでは?
二人には強化魔法を施しており、すぐにやられてしまうことはないだろう。あわよくば勝ててしまう流れも十分にあり得る。それにこれは推測で、気配は二人を狙っているとも限らない。そのまま上空を通過して、何事もなく飛び去ってしまうかもしれない。
けれどヒドラの一件を思い出して、慢心が窮地を生み出すかもと思い直して、俺はすぐに向き直すと、二人の下へと駆け出したのだった。




